詩『眠れない夜の過ごし方』

くずき憂人

『眠れない夜の過ごし方』

眠れない。


この世の全てが気になって眠れない。


お風呂上がりのコーヒーを飲みすぎたからか、

お出かけの予定が明日に控えているからか、

頼りの綱であった睡眠薬がきれたからか、

最近嫌なことが続いたストレスからか、

将来に対する漠然とした不安からか、

あの人のことが気になるからか、


何はともあれ、


眠れない。


疲れを知らない身体を無理矢理動かして、

掛け布団の下に敷いてからもう30分は経つ。


暗闇を嫌うまぶたを閉じてからは10分。

アイマスクまで装着しているから、

目を開いても何も見えない。


それなのに、

それなのに、

眠れない。


これは間違いなく、

神経が敏感になっている。


お隣さんが寝室のドアを閉める音。

トラックのMT車らしさのある排気音。


全ての物音が気になる。


おしゃべりしながら、

コンビニから出てくるカップル。

今週末に遊園地に行くんだってね。


どうやら彼氏さんは右足よりも、

左足の方が少し早く動いて歩くタイプらしい。


あと、荷物は彼女さんが持っているようだ。

それはいただけない。


あー、それは彼氏さんが悪いよ。

僕だったらそんなことしないのにな…。


ともかく、

物音から全てが手に取るように分かる。

それに対して頭が饒舌になってしまっている。


眠れない。


遠くで猫が鳴いている、きっと黒い猫。

もう一つの鳴き声。今度は三毛猫だ。


もっと遠くで何かが落ちた、

あぁ、ハンガーが風に飛ばされたのか。


そういえば、風もうるさい。


さっきの風は、

もう隣町まで行って、

高層マンションの隙間を吹いているようだ。


マンションにはまだ多くの電気がついてる。

このマンションは夜更かしする人が多いな。


高層マンションの屋上からは、

割と都会なのに星が見える。


あっ、あれは流れ星だ。とてもうるさい。

だってその正体は、

すごい音で大気圏を突入している隕石だもんね。


隕石からは地球が見渡せる。


今、海で鯨が潮を噴いた。


サバンナでは、

キリンが木の上の方の葉を喰んでいる。


どこかの国の田舎町では、

広場を子供が駆け回っている。


紛争が絶えない地域では、

人が爆弾や銃器で人を殺している。


戦争の指示をしている人間は、

どうやらティータイムと洒落込んでいるようだ。


笑顔も涙も…。

幸せも不幸せも…。

人もそれ以外の命も…。

たくさんの命と気持ちが、

地球を包んでいるのが見えた。


日本列島ももうすぐ地球の影から抜ける。


僕は、

ようやく眠たくなってきた。

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詩『眠れない夜の過ごし方』 くずき憂人 @kuzuki_yuto

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