第5話 来阪

それから幾年が過ぎ、十八前後になった一夫は、出稼ぎに来阪することを決める。

だが母に心配を掛けたくなかった一夫は、黙って家を後にした。


当時の所持金は千円程度で来阪するには到底足りない金額だった。

一夫(足りない・・・もう無賃乗車しかない・・・悪いこととはわかっては

いるけど仕方ない・・・)


こうして夜行列車に乗った一夫だが

(出雲駅から松江米子を経由し倉吉駅を出れば鈍行でも小さな駅に止まらずに走る

順調に乗車は出来たけど、切符の確認で車掌が回ってきた際に、どうやってその場を乗り超えるかが問題だ

その場を離れトイレに隠れれば一目散に捕まるダメだ

車掌がこの車両に来てから逃げるのもダメだ

それなら車掌が隣の列車まで来た時点で出入口の扉を開けデッキに出るしかない!!)


そうこう考えているうちに、車掌が隣の列車に来てしまった

計画通りデッキに出ると車輛の連結部分にぶら下がり車掌が通り過ぎるのを待った。


この先を行くともうすぐトンネルがあるはずだ、列車がトンネル内に突入し

架線等の突起にぶつかれば取返しのつかない事に・・・ヤバイっ!


早く、早く、早く、早く、早く!!!車掌いってくれっ!!!


ポッーポッーー!!!(汽笛)


・・・・・た・・たすかった・・・。


危機一髪のところで車掌が次の車輛に入った為、咄嗟に車内に戻ったのだ。


警戒しながら座席に戻ったが下車する迄は安心が出来ない為

緊迫した気持ちの中で早く着く事だけを願い、その時を過ごした。


            「おおさか~おおさか~」

ようやく大阪駅に到着した。


そこから更に環状線の桜島駅まで移動したのだが


下車の際

駅員「切符は?」

一夫「大阪駅から乗車しましたが、どこかで切符を落としてしまいました」

駅員「大阪駅から幾らの切符を購入されましたか?」

(買ってもいない切符で運賃もわからなかったが)

一夫「八十円です」と小さな声で返答した。

すると駅員は「もう出てもらっていいですよ」とそれ以上は咎められなかった。


   「アァ・・・はらへった・・・」一夫は、ため息を吐くようにつぶやいた


解放された事の安心感からか急にお腹が減り、売店で1個10円のアンパンを買い

貪るように食べた。


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