第11話 圧倒

「……どうやったら空飛べるんだろうねぇ〜」

「意外と簡単だぞ? 魔力さえ扱える者なら誰でも出来る」

「いや、空飛べるほどの魔力量がないんだよねぇ……」


 心が空飛ぶ車に乗って、並んで空を飛んでいる俺を見てそう呟く。

 その横では、運転している洋介を除いて綾人や咲良も何か達観した様な、呆れた様な感じで此方を見ている。


 俺的には、普通に地面を走っていた車がさも当然に空を飛んでいることの方が驚きなのだが……どうやら今はこれが普通らしい。

 これが俗に言う、ジェネレーションギャップというやつだろうか?


「魔力で空を飛ぶのって超高等技術のはずだけど……神羅くんは飛行系の異能を持っているの? そう言えば全く異能使ってる所見てないけど」

「いや、持ってない。これはただの技術だ」


 勿論、異能を使えば副次効果で普通に飛べる様になる。

 今は空気よりも軽い魔力で、自分の体の操作をして動かしているが。

 

「これが技術か……次元が違うな……」

「それより、着いたぞ」


 呆然と呟く綾人の声を掻き消す様に、運転していた洋介が声を上げる。

 その声に倣って前を向くと……確かに目の前には、地図でよく見た中四国地方の地形の姿があった。


「何処で降りる?」

「取り敢えず第13番安全地帯に降りよう!」


 そう言うと、洋介が先導する様に速度を上げ、段々降下していく。

 俺もそれについて行った。


 洋介は器用に車を操作して、昔で言う広島辺りに着陸する。


 今の世界には瀬戸内海の近くに第13、14番安全地帯があるらしく、日本でも有数の巨大な安全地帯らしい。

 瀬戸内海沿岸は巨神獣が多発する太平洋には接していないのと、瀬戸内海自体がそこまで大きな海でないのが主な理由だろう。

 そしてその第13番安全地帯の中心が元広島辺りなんだとか。


「———で、神羅くんよ。まずどうやって見つけるんだ? まさか手当たり次第とか言わないよな……?」


 綾人が瀬戸内海を眺めて少し顔を顰めた。

 幾ら海の中でも狭い瀬戸内海と言えど、人間が何かを探すには広すぎるので、手当たり次第だけはやりたくない。


 と言うことで———。 


「———別に俺達が探さずとも……あちらから来てもらえばいいんだ」

「……??」


 皆が顔に疑問を浮かべていたが、さすが1番覚醒者をやっているだけあって、洋介だけはすぐに納得した様な顔に変わる。

 

「成程……縄張り争いを申し込むんだな?」

「まぁそんな感じだ。俺がするのは威嚇だけどな」

「縄張り争い〜〜? 犬とか猫とかライオンとかがやるあれ? 私はそんなの見たことないけど巨神獣もするの?」

「勿論するさ。幾ら巨大になろうが、アイツらも立派な生物だからな」


 現にまだ人間に強力な覚醒者がいなかった頃、S級巨神獣同士の縄張り争いで沖縄の3分の2が消滅した、という悲惨な事件があったくらいだ。

 その縄張り争いに勝った巨神獣は、43年経った今でも倒されていないらしく、今はSS〜SSS級まで成長しているらしい。

 15年前の時点で、沖縄に住んでいる者は居ないともされていたはずだ。


「で、でもそれは巨神獣同士の事であって人間と巨神獣では出来ないんじゃ……」


 咲良が自信なさげに結構鋭いが的外れな指摘を飛ばして来る。

 これには綾人や心もうんうんと頷いていたが、洋介さんだけは顔に手を当てて『……後でコイツらには歴史を学ばせないと……』と嘆いていた。


 そう———こんな出鱈目な作戦を行う猛者が過去に居たのだ。

 現在は60を超えているだろうが、15年前の当時、世界で1番強いと豪語されていたアメリカの覚醒者———人呼んで『怪物殺しモンスタースレイヤー』。

 彼は『探すのが面倒』という理由だけで、SS級巨神獣に自身の殺気を飛ばして戦いに誘き出したという伝説を打ち立てた人物である。


 つまり———


「巨神獣に相手にされないのは人間が弱いからだ。要は———強ければいい」


 俺はそれだけ言うと、魔力を全身に薄く纏って宙を舞い、海上50メートル辺りまで移動した後、拳を握って大きく振りかぶり———


「———ッ!!!!」


 ———海を割る勢いで拳を振り抜いた。

 瞬く間に俺の拳によって押し出された空気が海を襲う。

 耳をつんざくほどの轟音が広範囲に響き渡り、半径数百メートル程の海水が遥か上空に弾き飛ばされ、元から無かったかの様にぽっかりと海に穴が空く。

 そして弾き飛ばされた海水が時間差で雨の様に辺りに降り注いだ。


「嘘ぉぉぉぉ……」 

「相変わらず凄すぎて言葉が出てこないよ……マジエグいわ……」

「ふぇぇぇぇ……ふ、服がびしょ濡れですぅ……」

「……っ、皆気を引き締めろ! 奴が来るぞッ!!」


 洋介の警告とほぼ同時に、海から怒り狂った巨大な首長竜型の巨神獣が現れる。

 その巨神獣の身体は少し予想外に焦茶色で、天然の岩の様にゴツゴツしていた。

 巨神獣は俺を睨み、開戦を告げる咆哮を響かせた。


「グオォオオオオオ———ッッ!!」


 次の瞬間———戦闘態勢に入ったからか至る所から真っ赤に染まった筋が現れ、落ちてくる海水が触れると蒸発して蒸気が上がる。

 そんな生物ではあり得ない様な光景を見ながら———


「……五月蝿い」

「「「「えぇぇぇぇ……」」」」


 俺は思いっ切り顔を顰めながら、鼓膜が破れそうだったので両手で耳を塞いでいた。

 勿論戦闘態勢になどこれっぽっちも入っていない……と言うか入る必要性を感じないと言った方がいいかもしれない。


「ガァアアアアア———ッッ!!」


 巨神獣の咆哮に呼応する様に、全身の真っ赤な筋が更に輝きを放ち、口だけでなく全身から縦横無尽に真っ赤に染まった光線が放出される。

 光線は四方八方に走り、無差別に破壊を引き起こす。


「チッ……面倒なことしやがって……金を請求されでもしたらどうすんだ」


 俺は虚空を力強く蹴ると、一瞬で加速して様々な所を駆ける全ての光線を出来る限り空へと跳ね返す。

 しかし、予想外に光線の数が多く、全ては跳ね返しきれない。


「さっさと倒すしかないか……」


 俺は方針を変え、音速を超えた速度で遥か上空に舞い上がると———再び虚空を蹴って巨神獣の遥か上空から落下しながら回転を加えた踵落としを繰り出した。


「これで———終わりだ」

「———ッッッッ!?!?!?」


 空気を揺るがし、地に響くような重低音と共に、巨神獣と俺は猛スピードで海の中に落ちて行く。

 海に打ち付けられ、俺の攻撃の圧力に板挟みになった巨神獣は、まるで机から卵を落とした時の様に顔面が潰れて生き絶えた。


 俺は取り敢えず生暖かい感触が気持ち悪かったので海水に浸かって返り血を流す。

 少しベタベタするがそれくらいは我慢しよう。


「さて……コイツを売るとするか」


 俺は予め借りていた空間圧縮ウェストポーチに巨神獣を収納すると、あっという間に『要塞』のメンバーが居る砂浜に戻る。

 そこには唖然とした『要塞』メンバーの姿があった。


「———終わったぞ。帰るか」


 俺がそう声を掛けてみるも……暫くの間は誰も動くことがなかった。

 

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