第10話 依頼
「———暇だ」
俺は協会のソファーに座りながらそう溢す。
あの空間の中は娯楽もなかったし、そもそも脱出すると言う目標があったので暇ではなかったが、今は琴葉に会う事以外に目標がないし、この世界は娯楽に溢れているので、非常に暇に感じてしまう。
俺が何もせずにぼーっとしていると、同じ様に黄昏れた、現在意気消沈中の綾人が弱々しく話しかけてきた。
「……まぁ数時間ずっと何もせずに待つのは暇だよな……スマホも持ってないんだろ?」
「持っているには持ってるが……ほら」
「うわっ……これは完全に逝かれてるな。どうやったらこうなるんだよ」
俺は若干力無く笑う綾人に、もう中が狂って電源が付かなくなったスマホを渡す。
どうやら綾人は意外にも機械系に強いらしく、俺のスマホが完全に終わっていることを一瞬で見抜いた。
「……少し特殊な所に居たせいで中がバグったんだ。その中には琴葉の連絡先も入ってたんだが……」
俺がそう言った瞬間———綾人の瞳がギラッと輝きを取り戻した。
「———それを先に言えよな少しの間借りていいか必ず直してみせるから。その代わり、直ったら一度でいいから琴葉さんと電話させてくださいお願いします———ッ!!」
綾人が、俺のスマホをまるで宝を扱う様に何処からともなく取り出した、保護ケースに入れると同時に土下座をする。
それも頭を地面に擦り付けながら。
……琴葉のファンって皆こんな感じなのだろうか?
完全に第一印象変わっているんだが……。
俺は若干引きながらも、周りの目もあるので、取り敢えず土下座する綾人を立ち上がらせる。
「別に土下座はしなくていい。直してくれるなら1度くらい電話させてやるから」
「おおおおおおッ!! ファンクラブ会員第10番までしか許されない通話をファンクラブ会員第123番の俺が出来るなんて……此処最近で1番最高の日だッッ!! よし、任せとけ神羅、ついでに神羅名義で契約もしておいてやるから」
「それは自分でやるから結構だ。直してくれたらそれでいい」
俺は完璧にテンションのバグっている綾人から視線を逸らし、洋介に話し掛ける。
「協会での依頼の受け方は15年前と変わっているのか?」
15年前は碌でもない依頼しか受けれていなかったので、そもそもあまり分からないのだが……概要は朧げに覚えている。
本来覚醒者は、協会以外にも、幾つか依頼を受けることが出来たはずだ。
1番メジャーなものでは……SS級以上の覚醒者は、国の政府からの指定依頼が入ってくることもあった筈だが……殆ど覚えていない。
俺の問いに、洋介は、少し考える素振りを見せた後、自信なさげに言った。
「15年前がどう言った感じで受けてたのかは分からないけど……最近はこのライセンスでのやり取りが主流だよ。受けたい依頼を受付で言えば、ライセンスを通して依頼受注が出来るんだ。これもライセンスを無くした時に賠償金が掛かる理由の1つだな」
成程……これは昔と変わっていないな。
どうせ暇だし、適当な依頼でも受けてみるか。
「ありがとう。取り敢えず受付にどんな依頼があるか聞いてみるか」
「それがいいと思うよ。受付なら間違い無いと思うから」
俺は洋介の後押しもあり、先程とは違う受付に向かい、ライセンスを受付に渡す。
「すまないが依頼を受けたい。数時間で終わるもので何かいいものはないか?」
受付嬢は、初めて見る俺を不思議そうに、何処か見覚えがあるのか首を捻りながらライセンスを受け取った。
「はい分かりまし———って神羅様!? 先程S級になられた!?」
受付嬢が俺のライセンスを見た途端、驚きで椅子の上で何度か体を跳ねさせ、まるで壊れ物を扱う様な様子で丁寧にライセンスを受け取る。
若干彼女の手が震えているのは指摘しないほうがよさそうだ。
「え、えっとですね……神羅様の実力で数時間で済むと言うのは……これなんてどうでしょうか?」
少し落ち着いた受付嬢が出した半透明のボードにはこう書かれていた。
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A級依頼
制限・A級以上(ソロならS級以上)
依頼内容・日本の瀬戸内海に現れたA級巨神獣(魚類型)首長竜の討伐。
報酬・5000万&素材買取費
備考・首長竜は水中に住んでおり、体長約120メートルのA級巨神獣。水中では時速数百キロで泳ぎ、水の中では主に超音波や波動を使用し、外ではビームを放出する。
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「首長竜の巨神獣は再生能力が無いですし、海から出れば弱くなるので比較的倒しやすく、同ランクのパーティーであれば余裕で討伐出来るほどです」
「受けよう」
「承知致しました。…………はい、依頼が完了しました。ライセンスを返還致します」
「ありがとう」
俺は丁寧に渡されたライセンスをポケットにしまい、そのままの向かおうとすると、『要塞』のメンバーに引き止められる。
「神羅くん、俺達も一緒に行かせてもらえないか?」
「わ、私ももう1度実際に戦っている神羅さんが見てみたいです!」
「私も〜」
「俺はパス。早くスマホ直したいん———お、俺も見たいなぁ! 早く行こうぜ!」
どうやら綾人だけは早くスマホを直して琴葉と通話のチャンスを得たかったらしいが、他の3人から———洋介が1番怖い———睨まれて怯えながら意見を変えさせられていた。
少し可哀想だが、俺が口出しすれば俺も巻き込まれそうなのでそっとしておくに越したことはない。
「別についていくのはいいが……俺は空飛んでいくが大丈夫か?」
「え? ま、まぁ俺達も一応空飛ぶ車はあるから大丈夫だよ?」
「なら別にいい。それじゃあ行くか」
「え!? 今すぐに!?」
そんな驚いた洋介の声を聞きながら協会を出た。
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