第4話 騒ぎ

「———金だ。金を何とかしないと……」


 生憎俺の手持ちなど1円もない。

 それに15年も経っているので、俺の銀行の口座がどうなっているのかも分からないし、そもそも弱くて碌にお金を稼げていなかったので、貯えもほぼない。


 そこで、俺は手元の巨大な巨神獣の死体を注意深く観察する。

 実際には見たことないが、遥か昔に何度か図鑑で見たことがあるような気がする。

 名前とかは一切覚えてないが。


「これは……やはりB級だよな? 15年経った今ではどうか知らないが……多少の金にはなるか?」


 昔はF級以外の巨神獣と戦ったことなどないのでどれほどの強さなのか分からないが、大きさ的にはB級ほどあっても良いと思う。

 仮にC級覚醒者がこの巨神獣を倒すには5、6人がかりで様々な準備をしてから戦わないと勝てないくらいだしな。


「……どう運ぼうか。業者に頼むにしても金ないしな……」


 この大きさだ。

 運ぶのが大変なのは容易に想像できる。

 どうせなら街の近くまで誘き寄せて殺せばよかったかもしれない。


「はぁ……抱えて運ぶか……」


 俺は目立つことはこの際諦めて、巨神獣を肩に担ぐと、覚醒者協会支部があるであろう街へと向かった。







 

 やはり———15年前とは違う所が多い。

 

 俺は街を見て再度そう感じた。

 街は大きくて半円状の半透明な結界に守られており、その中では住民達が楽しそうに暮らしている。

 

「昔に比べれば大分安全だな。それより……支部は一体何処なんだ?」


 俺は巨神獣を担いだまま、辺りに視線を巡らせて支部を探す。

 ただ、何処を探しても住宅街やスーパー、公園が殆どで、協会っぽい建物は一切見られない。

 それどころかハンターらしい装備をした者達も一向に姿を表さないので、昔とあまりに違いすぎて少し困惑してしまう。


 と言うか正直、この巨神獣がデカ過ぎてバランスが取りにくいので、早いところ換金を済ませたい。

 なら空を飛べばいいと思うかもしれないが、この街に入ると、何かが俺の魔力操作を阻害しているので、空も飛べないのだ。


「……立ち止まったのは間違いだったな」


 そう溢す俺の周りには、写真や動画を撮っている者達や、ひそひそと何かを話している者達が多数群がっていた。


「な、なぁ……あれ凄くね?」

「マジそれな。どうやってバランス取ってんだろうな?」

「ねぇねぇあの子……めっちゃカッコよくない? それにあんな大きな巨神獣担いでるんだし、絶対強いでしょ」

「話しかけてみる? ワンチャンあるかな?」


 せめてそう言うのは本人の聞こえない所でやって欲しいんだが……。

 別に動画とか写真はいいから。


 確かに俺も街の入り口付近で巨神獣担いでいる奴が居たら写真を撮っていただろうし、最初から目立つと分かってやっているため、全て俺が悪いので別に撮るなとも言わない。


 逆に撮って拡散してくれるとありがたいまである。

 もしかしたら琴葉が俺の写真を見て気付いてくれるかも、と言う僅かだが可能性が生まれるからだ。


 しかしその注目は俺の予想以上で、どんどん観衆が増えてきて、俺が注目されるのに少し居心地悪く思っていた時———


「———下がりなさい! 巨神獣の死体には触れない様にしてください!」

 

 人混みを掻き分けて複数人の、武器を所持して未来のバトルスーツみたいな物を着ている者達が現れた。

 帰還後初めての武器を所持した覚醒者に会えたことに少し安心する。


 俺が安堵する中、何人かは一般人が俺に近づかない様にバリケードの役割をしていた。

 そして俺には、バトルスーツを着た、完全に近接系異能を持っていそうなムキムキの男が近づいて来た。

 

「そこの君! その巨神獣はどうしたんだい?」

「殺した。夕陽を眺めるのに邪魔だったんだ。ただ……狩ったはいいものの、収納するものがなかったので騒ぎを起こしてしまった。すまない」

「お、おお……それはいいんだが……こいつはそんな簡単に倒せる奴では……」

「まぁそうだが……取り敢えず倒したものは倒したんだ」


 勿論普通の覚醒者ならば死を覚悟する相手だろうが、俺からすればそうでもない。

 何ならあの空間の生物は頭を吹き飛ばした程度では大した足留めにもならず、すぐに復活するので、それに比べれば全然狩りやすいまである。

 異能を使わずとも余裕で倒せたのが何よりの証拠だ。


 俺の言葉を聞いた男は、『そんな馬鹿な』と言った感じの視線を俺に向けてドン引きしていたが、直ぐに我に戻った。


「と、取り敢えず、見た感じまだ若い様だし協会支部まで移動しようか。それでいいかい?」


 正直知らない人に着いていくのは大概危険が付き物だが……彼らからはそこまでの強さを感じないので大丈夫だろう。

 もし襲われれば……まぁ適当に相手してやればいいか。


「勿論だ。何なら此方としてもありがたい提案だしな。丁度コイツを換金したかったし……色々と調べないといけないことがあるからな」


 特に昔の俺の覚醒者登録はどうなっているのか、と銀行口座がどうなっているかだ。

 この2つは生きていく上で大切なので、しっかり把握しておかなければならない。


「そ、そうか……此方としては素直に言うことを聞いてくれて助かるよ。それじゃあ行こうか」

「ああ」


 こうして俺はムキムキ覚醒者に連れられて協会支部に行くことになった。


—————————————————————————

 是非フォローと☆☆☆宜しくお願いします!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る