第3話 外に出た影響
「…………」
俺は無言で、目の前にある懐かしい一軒の何処にでもありそうな家を見つめていた。
そして記憶にある琴葉の家の玄関には『入居募集』と言う張り紙が貼ってあった。
そうか……琴葉はもう此処には住んでいないのか。
俺は巨神獣の空間の中で数万年も閉じ込められていた。
そのため此方の世界では果たしてどれだけの時間が経ったのか、全く検討もつかない。
スマホはあまりの時刻ズレに修正出来なかったのか、はたまた空間から出て一気に時間が流れ壊れたのか、電源すらつかない。
周りを見回してみるも、俺の記憶が曖昧なせいで、これが過去と同じなのかさっぱり分からなかった。
ただ、この家の見た目が大して変わっていないことから、そこまで年月が経っていないことが予想出来た。
「しょうがない……アテはないが、どうにか探してみるか」
俺は若干の名残惜しさを感じながら、ゆっくりとその場を後にした。
「―――まさか15年も経っていたとはな。通りで所々見たことないわけだ」
俺の体感数万年前、EX級巨神獣飲み込まれた砂浜で腰を下ろした俺は、憂鬱と言う感情を全面に出してため息を吐く。
どうやら俺は、あの巨神獣の腹の中で数万年過ごしたが、此方の世界では15年しか経っていなかった様だ。
これには思わずホッと安堵したものだが、予想外にも15年の間に色々と街も人も変化していた。
まず、15年前までは俺が出会った巨神獣も含めずに1体しか確認されていなかったEX級が、現時点では世界中に7体確認されているらしい。
日本に1体、アメリカに2体、ロシアに1体、オーストラリアに1体、イギリスに1体、太平洋の真ん中辺りに1体。
俺が飲み込まれた巨神獣が見つかっているかは未だ不明だが。
そして年々巨神獣の発生件数は増加しているらしく、所々巨神獣に奪われた土地もあるのだとか。
そんな巨神獣対策として、公園に結界を張ることになったらしい。
今ではC級以下の巨神獣であれば公園の結界を壊せないらしく、保護者に人気なんだって。
まぁ子供の安全を考えると結界が張ってあった方が安全だよな。
そのお陰というか、そのせいで俺はここまで追いやられたわけだが。
勿論その他にも訊いてみたが―――1番の衝撃は琴葉が何処かのクラン? みたいな所のSS級覚醒者になっていたことだ。
その話を聞いた時は腰が抜けるかと思ったが、15年も経てばそれくらいまで上り詰めていてもおかしくないか、と思い直した。
初期ステータスが俺とは違って全て「100」とかだったので、才能があったのだろう。
俺がSS級のステータスを手に入れるのに何千年と掛かったわけだが、琴葉は僅か十数年の間に辿り着いたわけで……やはり才能と言うのは末恐ろしい。
だが……そうなってくると、どうやって琴葉に会おうか。
今は人気者だろうからおいそれと会うことは出来なさそうだし……そもそも今の俺は完全に無一文。
まずは生活を安定させることから始めた方が良さそうだ。
「前途多難とは、まさにこう言う時のことを示すんだな」
覚醒者として一応登録しているが、15年も何もしていなければ間違いなく強制退会されている。
折角強くなったのに勿体無い。
俺がぼーっと海を眺めていると、前方十数キロメートル辺りに体長100メートルあるか無いかの鳥型巨神獣が夕焼けを隠す様に此方を見ていた。
これでは唯一の癒しである綺麗な夕陽が見えない。
「ったく……邪魔だ、どけ」
俺は砂浜に腰を下ろしたまま、近くにあった拳大の石を魔力でコーティングした後、軽く投擲。
まるで花火が上がる様な音と共に、一瞬にして5メートルくらいありそうな巨神獣の頭の4分の1が消滅する。
あまりにも呆気なくその巨体はゆっくりと海に落ちていく———その前に俺はその巨体を片手で掴んだ。
今の俺なら十数キロ程度なら一瞬で移動できるし、鳥型巨神獣は体長に比べて軽く、数トンから十数トンしかないので余裕で持てる。
その筈なのだが———。
「……おかしいな……何で俺の攻撃がこの程度の威力なんだ……? いや、それだけじゃない……速度も筋力も思い通りの動きが出来ない……一体どうなってんだ?」
俺は自身の身体に起こった違和感の正体を掴むため、ステータスを開く。
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【年齢】18(51,867)歳
【Lv】999,999
【職業】極致到達者
【体力】99,999/99,999↓
【魔力】99,999/99,999↓
【攻撃】99,999↓
【防御】99,999↓
【敏捷】99,999↓
【極致異能】
《−−−》《−−−》
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「おいおい……ふざけてんのか? 何でステータスが10分の1になってんだよ」
俺はこの世界のあまりの理不尽さに思わず愚痴が漏れる。
だが———この世界は俺が幾ら愚痴ったところで現状が変化する事はないのは既に分かりきったこと。
「このステータスはどの位の強さなんだ? B級巨神獣は殺せる……いっててもS級か」
これでは琴葉に胸を張って強くなったと会いに行けないな。
それに《肉体再構築中》と言うのも少々理解出来ない。
「身体に何の変化もないんだがな……」
自分の力が落ちた事以外は。
ただ、あの世界は体の時間が止まっていたし、見た目は全然変わらないのにステータスだけ伸びていたので、こうなるのも妥当なのかもしれない。
これを納得できるかは別として。
「まぁいいか……ゆっくり力を取り戻していけば」
俺はそう考え、ステータスについて考えるのをやめた。
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