第7話 ステータス測定

「―――ようこそ覚醒者協会第10支部へ。覚醒者登録です……って洋介さん? 今討伐に行っている頃では……?」

「それがな、この青年が先に倒していたんだ」

「はい? B級巨神獣をですか?」


 協会の受付の男性が、そう言いながら胡散臭さそうに俺を見る。

 その反応にも、まだ帰ってきて間もないが、だいぶ慣れて来たので、特に悪感情とかそう言った類のものは浮かばない。


「そうだ。俺が倒した」

「……本当ですか? 協会で嘘を吐けばどうなるか分かっていますよね?」


 尚も疑り深く懐疑的な視線を向ける受付の男性に、洋介が嗜める様に言った。


「それ以上は失礼だよ。それに、ちゃんとこの目で彼がB級巨神獣を倒すのを確認したから。我が『要塞』が証拠人となるよ」


 パーティの名前を出してまで俺を擁護してくれる洋介に、流石の受付の男性も嘘ではないと感じ取ったのか、俺の方を向いて頭を下げた。


「疑ってしまい、申し訳ありません。最近嘘の報告が増えていますので、過敏になっていました」

「いや、別に問題ない。誰だって疑うに決まっているからな。まずは……俺の覚醒者登録を確認して欲しい。もう何年も来てないから剥奪されているだろうが……」

「? 分かりました。お名前は?」

「斎藤神羅だ」

「斎藤神羅様ですね。少々お待ちください」


 受付の男性は、近くのソファーを指差して「あちらにお掛けになってお待ち下さい」と言った後、何やらステータスボードの様な半透明なボードを操作し始めた。

 俺は、指示の通り、洋介を除いた『要塞』のメンバーとラウンジの様な所でソファーに座る。


「神羅くん登録してたの?」

「15年前にな。だが、もう既に剥奪されていると思うけどな」

「15年!? 神羅くん何歳!?」

「わ、私も気になります! 見た感じ20歳いってない感じですけど……」

「神羅くんが最低でも20代後半……俺達よりも年上じゃん」


 心だけでなく、咲良や綾人も俺の言葉に驚いていた。

 確かに幾ら覚醒者が老いるのが遅いとは言え、15年も全く容姿が変わらないのは少し異常だろう。

 しかし、俺はレベルが高すぎるので、多分もう100年はこの体だと思う。

 一体何年生きればいいのか。


「多分……今年で34歳だと思う」

「わぁお! 私達より本当に年上じゃんっ! でも確かに見た目にしては落ち着いてるもんね。綾人とは大違い☆」


 心が綾人を見て、ぷぷっと笑う。

 そんな心に向けて少し怖い笑みを浮かべた綾人が、挑発的な笑みを浮かべて言い返す。


「おっ、言ったな。お前も23のくせにいつまでギャルやってんだよ」

「あ? ギャルは50までは出来るんですぅ! 神羅くんはどう思う?」

「本人が好きにすればいいんじゃないか? やりたいなら飽きるまでやればいい」


 服装や見た目の自由な覚醒者は、本当にどんな格好でもいいと思う。

 普通の人と同じ様にオシャレして巨神獣殺す人も居たし。


 俺のこの言葉はどうやら心にとっては正解だったらしく、綾人にドヤ顔を向けていた。

 それに対して綾人は少し悔しそうだ。

 

「し、神羅さんはどうして15年も協会に行かなかったのですか? 一度くらいなら行きそうですけど……」


 そう言うのは先程まで2人の争いに苦笑いを浮かべていた咲良。

 しかしその質問に答えることは出来ない。

 

「…………」

「あ、そうでしたね……何処かに篭っていらっしゃったんですよね……」

『斎藤神羅様、5番受付口にお越しください』

「少し行ってくる」

「あ、はいっ」

「あい〜行ったら〜」


 丁度タイミングよく呼ばれたのでソファーから立ち上がり、先程の受付をしている男性の下へ向かう。

 受付には難しい顔をした洋介と、此方を更に疑惑の篭った目で見る受付の男性の姿があった。

 

「どうだった? やはり剥奪だったか?」

「ああ神羅くん。……言いづらいが……どうやら剥奪されていた様だ。既に15年間何もしていなかったと言うことらしい」

「一応剥奪から5年は経っていますので、再登録が出来ますが如何しますか?」


 受付の男性がそう尋ねてくる。


 再登録か……俺の時代にはなかったな、そんな制度。

 この15年の間に出来たのだろうか。


「再登録をするにはどうすればいいんだ?」

「機械でレベルと魔力を測定します。これはすぐに終わりますが、次に攻撃力と防御力と敏捷性、その場での判断力などを測るため、仮想の巨神獣と戦ってもらいます。登録する等級によって敵の強さは変わりますが……どの等級を受けますか? 最高でA級までです」

「ならA級だ」


 俺が即答すると、再び疑惑の目を向ける受付の男性が苦言を呈す。


「……仮想とは言え、精神的なダメージは受けます。それに貴方の前回の登録はF級と記載されております。それでもやりますか?」

「勿論だ」

「大丈夫だよ。彼はB級巨神獣を1人で倒したんだ。しかも無傷で。きっとS級はあるんじゃないかな?」

「洋介様がそこまで言われるのであれば……いいでしょう。必要な機材を持って来ますので、少々お待ちください」

 

 俺の再びの即答に渋い顔をしていた受付人だったが、洋介の援護射撃のお陰で何とか受けれる様になった。

 1人で此処に来ていたらきっと門前払いされていただろうから、洋介様様だ。


 受付こ男性が一度席を立つと、奥から不思議な球体の水晶の様な物を持って来る。

 俺の受けた時にはなかった代物で、見た目は完全にラノベにある様な水晶玉だった。


 俺が不思議そうに水晶を見ていると、それに気づいた受付の男性が説明してくれる。


「これはレベルと体力、魔力を測定できる物です。10年前に現SSS覚醒者の『技術者』が生み出しました。それでは手をこの水晶に乗せてください」

「分かった」


 俺は素直に水晶に手を乗せる。

 すると水晶が一瞬光ると、ホログラムの様な「計測中」と書かれた文字が飛び出した。


 成程……随分とハイテクな代物だ。

 これを開発した『技術者』と言う人には一度会ってみたいな。


「因みに、これはどれくらいまで測れる?」


 今の俺のステータスは99,999のため、そこらの支部にある様な測定器では測れない気がしてならない。

 俺の記憶ではSSS級覚醒者のステータスは10数万程度だと記憶しているからだ。


 しかし受付の男性は「安心してください」と力強く断言すると、少し自慢げに説明し始めた。


「これはS級覚醒者程度のレベルであれば余裕で計れます。なので大丈———」

『———error。レベルを計測できません。error。正確な魔力を計測出来ません。error。正確な体力を計測出来ません』

「———………ほえ?」


 『error』を告げる無機質な機械の声がしたかと思えば、受付の男性の間抜けた声が、静かな空間に響いた。


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