第6話 自らの尻拭い

「———悪いな。わざわざ巨神獣を収納して貰うどころか車にまで乗せてもらって」

「ぜ、全然大丈夫です! 容量はパンパンになりましたが他にもありますし、車の席はまだ空いていますのでっ」


 俺は現在、協会の支部に案内してくれている心優しい覚醒者パーティー———『要塞』の車に乗っていた。

 そして車に乗る際、巨神獣が邪魔だったので『要塞』の《空間圧縮ウェストポーチ》なる物に収納してもらった。


 このパーティーのリーダーである阿久津宗介あくつそうすけはが言うには、どうやら支部は数年前に移転し、街から離れて車でも数十分程の時間を要する場所に設立されたらしい。


 何でも、協会には巨神獣が好む周波の音を絶えず放出して、街に巨神獣が向かうのを阻止するという役割があるのだとか。

 そのために敢えて街から遠く離れた場所に建てたらしい。


「昔と随分違うな……」

「む、昔……?」


 俺の独り言に困惑の表情を見せる要塞の荷物持ち兼回復係の中島咲良なかじまさくらと言う20代前半の見た目をした美人な女性だ。

 勿論琴葉と比べれば俺は琴葉の方が断然美人に見えるが、それでも世間一般で言えば十分美人の部類にはいるだろう。


「少し事情があってとある所に篭っていたせいで少し世間に疎いんだ」

「そ、そうなのですか……? どう言った事情———」

「はい、そこまでにしとけ咲良。悪いな神羅君。コイツは人見知りでな。人と会話とか距離感掴むのが苦手なんだよ」

「わわっ! や、やめて綾人さん!」

「別に気にしなくていいぞ。俺だって初対面の人と話すのは緊張するからな」


 俺も昔はそうだった。

 今では人に会わなすぎてどうなっているかはイマイチ不明だが。

 

 因みに今咲良さんの頭に手を置いて俺に人見知りだと暴露したのが城原綾人しろはらあやとさん。

 見た目は20代前半で咲良さんと同い年くらいに見えるが、此方は随分と落ち着いていた。

 まぁ茶髪に染めてピアスをしているし、人見知りという咲良さんと仲が良さそうなくらいだから根っからの陽キャ気質なのだろう。


「そう言えば神羅君は何処から来たの? 辺鄙へんぴな場所に篭ってたなら、家はあるの?」


 俺が綾人さんのコミュ力に感心していると、俺の隣に座っている新井心あらいこころと言う、少しギャルっぽい女性が身を乗り出して聞いてくる。

 

 ……この際何と答えれば良いのだろう。

 EX級巨神獣の中に閉じ込められていたせいで家はありませんとは言えないし……。


「……無いが、そのうち適当にマンションの部屋でも借りるつもりだ」

「ふぅーん……覚醒者なのに何で一般人のマンションに住もうとするの?」


 一般人のマンション……?


「覚醒者が住む所は違うのか?」

「勿論よ。だってもしそのアパートで一般人を傷付けたりトラブルにでもなったりしたら覚醒者のイメージが悪くなるじゃない。それに異能力の暴走とかも起きるから安全のために覚醒者と一般人で住む場所を変えているの」


 成程……非常に合理的な規律だな。

 しかし……俺の知らない15年の間にそんなことが決まっていたのか。

 この15年間に何が起こったのか、何か現代についての本を読みたくなって来た。


 俺が図書館は何処にあるのだろうか、などと考えていると———


「もう直ぐ着くぞ———ほら見えて来た。あの山の上だよ」


 運転をしている『要塞』のリーダー、ムキムキの洋介さんが指を差して教えてくれる。

 その指の差す方に視線を向けると、確かに山の山頂付近に高層ビルの様な山には不似合いな建築物が建っていた。

 そして近付くにつれて、とても不快な音が俺の耳に入ってくる。


「この奇妙で不吉な音が巨神獣を誘き寄せる音か……?」

「音……? そんなの何処からも聞こえないけど……?」


 綾人さんにそう言われ、残りの3人に視線を向けてみると、3人ともそんな音はしていないと言うではないか。

 今もこんなに俺の鼓膜をぶち壊そうと五月蝿く鳴っていると言うのに。


「……もしかして聞こえるのかい? 『巨神獣誘導エコー』が。因みにどんな音か分かるかい?」

「これは……鉄が出す音じゃない……人の出す音でもない……動物か……? それとも———」


 俺が訝しんだその時———


「ガァアアアアアア———ッ!!」


 頭上から怒りの籠った咆哮が上がる。

 その音は衝撃波を伴って俺達の所に届いた。


「うおっ!?」 

「何だよ急に!?」

「「きゃああああ!?」」


 要塞メンバーは、衝撃波によって車が揺れたことで、驚きの声を上げる。

 そんな中俺は、上空に停滞する巨神獣を睨み付けていた。


 あれは……さっき俺が倒した巨神獣と同じ種類の奴だな。

 そんな奴がこんな怒り狂って此処に来たと言うことは……。


「……ごめん皆。どうやら奴は俺を狙っている様だ。此処で待っていてくれ」

「神羅君!? 1人は———」

「大丈夫、すぐに終わる」


 俺は洋介さんの静止の声を振り切り、車から降りると、軽く地面を蹴って宙に舞う。

 奴は俺の動きに合わせて目線を動かし、その瞳には憎しみが込められている。


「あれはお前の嫁だったのか?」

「………」


 巨神獣は何も音を発さないが、俺を威圧する力は更に上がった。

 どうやら当たりの様だ。


 そう思うと申し訳なってしまうな……。

 

 しかし———決して巨神獣だけが家族を失っているわけじゃない。

 この世には巨神獣に無慈悲に殺された人間、動物はそれこそごまんといる。


 お互いに、殺し合う運命にあるのだ。


「すまないが……此処で倒させてもらうぞ。このまま見逃して街に行かれたら困るからな」


 それに……自分がやったことの後始末くらい、自分でやらないとな。


 俺は魔力を足に纏わせて虚空を蹴る。

 瞬く間に俺の身体は最高速度に達し、数十メートルの距離を一瞬で縮めた。


「ふっ———!」

「ガァアアアアアア———ッッ!?!?」


 そして巨神獣が攻撃してくる前に拳を握り、隙だらけの腹に打ち込む。

 

 瞬間———風船が割れる音を何十倍にも大きくした様な破裂音が辺りに響き渡る。

 巨神獣の腹には巨大な風穴が空き、数秒も経たない内に、巨神獣は瞳から光を消して地に堕ちていった。


 『ドスンッ』と言う地響きと共に巨神獣が地面に落ち、辺りに砂埃が舞う。

 少し遅れて俺が地面に着地すると、『要塞』のメンバー達が血相を変えて駆け寄ってきた。


「大丈夫かい!? 怪我は!?」

「何処も怪我してないぞ。全く問題ない。返り血も付かないように回避したからな」


 俺がそう言うと、皆ポカンとして呆けてしまうが、すぐに活動を再開する。


「……神羅君って凄いんですね……」

「正直疑ってたけどこれは認めざるを得ねぇな……」

「わぁお……だいたぁん……でもかっこいいねぇ……」


 どうやら3人とも俺の話を本当の意味で信じていなかったようだ。

 まぁ見た目18歳の俺がB級を単独で倒したなんて到底信じられないのも無理はない。


 俺自身、仮に逆の立場なら絶対に信じていないだろうからな。

 まぁと言うことで……。


「コイツも買い取って貰えるよな?」


 俺はコイツも一緒に売ることにした。


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