第13話 懺悔室
私は、リクトと別れ、声のした本校舎の上階へと登っていった。リクトは無事だろうか。まぁ、彼は私より運動能力に優れ、機転も利く賢い男だ。私より立派に対処してくれるだろう。十年以上の付き合いだ。私も人の救助をしなければ。
二階の階段を上がると奇妙な光景を目にした。横たわった黒く巨大な直方体。いや、直方体というより箱だろうか。内側から音がしている。硬いものをガンガンと叩く鈍い音と…誰かの叫び声。
「まさか、内側に閉じ込められているのか…?」
この真っ黒い箱は金属のような感触だが、おそらく意思の力によって作られたものだろう。押しても引いてもピクリともしない。私の”超コミュニケーション”を使っても動くことはないだろう。では、これはどうだろうか。私は呼吸を深め、自らの意思を手に集中させる。先ず伝えたいことを明確にしなければならない。中の人間に安心してもらう。大丈夫だ、落ち着いてくれと願いを込め、箱に触れる
「PG
この箱が意思を貫通するかはわからない。しかしやってみる価値はある。
その瞬間、私は感じてしまった。それは拒絶。
私の言葉を根源から否定する反抗の証。
「これも駄目か。だが、やはり意思は貫通できるようだな。拒絶ということは受け入れるという選択肢があったということ。いずれかは助けられるかもしれない。しかし、まず元凶を断たねばなるまい。」
今日は少し、嫌な予感がしている。オカルトの神が私にくださった予兆だとすれば、それはあまりにも邪な配慮だ。この先に、見てはいけないものがある気がした。しかし、見てはいけないものを見なければならんのがオカルト研究の宿命だ。この後、不幸なことに、私の予想は的中する。
進んでいくと徐々に直方体の数が増えてきた。そして、全てにおいてうめき声や泣き叫ぶ声が聞こえてくる。そもそも、この境界に入ることができる人間は限られる。あの時だって…ん?そういえば、私の前に倒れていたあの女生徒は何故…いや、今はいい。とりあえず、一般人には入ることができないはずだ。入れるとしたら、意思の力を扱える(既に一般人ではない)か、相当な意思を向けられたか。
この感じはおそらく後者だろう。この学校に意思の力を扱える超能力者のようなものがこんな量いたとしたら、私の耳に必ず入ってくるはずだ。一般人を大量に巻き込み、私達を潰そうとしている超能力者、ヤト。意図がよく見えないが、人物像は少しだけ見えてきたかもしれない。そんなことを、考えながら直方体を横目に進んでいたが、思わず足を止めた。
聞き覚えのある言葉が聞こえたからだ。それは先程までの「ごめんなさい」や「助けて」などとは違い、明確に人の名前だった。
直方体に近づく。
耳をすませば、間違いじゃない。それは私もよく知っている人の名前だった。
「許してくださいぃ梅谷さん!俺が悪かった!!謝るから、謝るから、殺さないで!!」
中の男性は梅谷会員に許しを請い、泣いている。
そして今度は後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
間違いじゃない。
我がオカルト研究同好会の同胞・梅谷由以がそこにいた。
「…先輩、わたしもうダメです」
そういった梅谷会員のシャツははだけていて、ところどころに靴跡がついている。
「こ、こんなところで何をしているんだ梅谷会員。服がボロボロだし、まさか、宇宙人に襲われたんじゃ―」
「ほんとは分かってますよね。わたしの力が覚醒したこと。」
居場所のない沈黙が空気を固定しているようだ。しかし、負けてはいけない。口をいつもより大きく開け、声を振り絞った。
「…梅谷会員。これは一体、どういうことなんだ?き、君は人のことを理由なく傷つけるような人間ではないだろう?何があったのか私に話してはくれないか?」
「…先輩は優しいですね」
「えっ?」
「わたしの犯行だとわかっていながら、あなたはまだわたしを善人だと信じてくれてる…。わたし、あなたの思うような人間じゃないんです。」
「…」
「ほんとはわたし、オカルトなんてなんにも興味がないんです。変な先輩がいるって言うからふざけ半分で入ったんです。先輩のこともずっと軽蔑してたんです。自分勝手に生きて、自分勝手に人を傷つけて、苦しめても、なんとも思わないんです。」
「…そうか。それは、嘘だ。」
「何を―」
私は一枚紙を取り出した。それは、叫び声が聞こえる直方体のそばに落ちていた”遺書”。
「君のことを心配してた。私も、竹内会員も、モトさんも、九くんもね」
「…」
「私の落ち度だ。気づけなかった。君の隠した大きな痣と、心の痛みに。」
梅谷会員はうつむいたまま動かない。
「何があったのか思い出すのが辛ければ、何も言わなくていい。これ以上彼等を君に近づかせないよう、わたしも尽力したい。こっちに来てくれないか…?」
「…なんで」
「さぁ、もうこんな気味の悪い場所を抜け出そう。またオカルト研究同好会で一緒に―」
「なんで嫌いになってくれないんですか!!!」
悲痛な声が廊下に響く。その瞬間、私の体の周りに黒い箱が現れた。
「今度は私の番ということか。…君を人殺しにするわけにはいかないからな!私も抵抗させてもらう!」
「先輩。ごめんなさい。
私はついに閉じ込められてしまった。中は全面が真っ黒な空間だった。あの大きさの箱ではありえない広さ。おそらく幻覚などといった類だろう。どこまで歩いても端が見えない。時間の経過も完全に止まっている。外との時間に差があるかも知れない。
どういう仕組みなのだろうか。とりあえず脱出を試みよう。
その時、不意に後ろから人の気配を感じた。振り返ってみれば、そこには
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