第12話 裸のUMA


 …こんなお手紙でしか伝えられなくて申し訳ありません。ですがどうか、わたしの感謝の気持ちを正直に綴らせてください。オカルト研究同好会に入部届けを出して、2ヶ月が経過しました。最初は変でちょっと怖い部活だと思っていましたが、最近になってわかったことがあります。

 オカルト研究同好会の先輩たちはみんないい人です。少し変わっているかもしれないけど、どこまでも真っ直ぐな松田先輩。それにいつも振り回されて文句を言うものの、頼りになる竹内先輩。そんな中にわたしもいさせてもらえて感謝の限りです。ありがとうございました。オカルト研究同好会がわたしの唯一の居場所でした。わたしが唯一、わたし自身を好きになれる場所でした。これ以上自分を甘やかしてはいけないと、わたしは覚悟を決めたんです。死後、本当に幽霊になれるか試して、先輩たちの研究の一助にしたいです。今までありがとうございました。


「やばっ!!ガチでウケるわそれ!!」


「そんな遺書見たら先輩泣いちゃうよーw」

 

「大丈夫だよ、オカルト研究にしか目がないんだから、お前が死んだところで実験ができるくらいにしか思ってないって」


「遺書十枚提出の刑っていったよね?まだ6枚だよ?」


「親と、先生と、クラスメイトと、部活…あっそうだ中学の先生とかは?」


「あっそれめっちゃいい!恩師的な?w」


「はい、じゃあはやく書けー。提出期限はもうすぎてるぞー」


「10分が期限とか短っw」


「てか、なに?真面目に書いてるこれ?だとしたらめっちゃイタくない?」


「わかるわ、なんか言葉選びから頭いい感じ出そうとしてるもん。」


「そういうのマジやめてくんない?お前さ、俺らはおふざけで書いてみたらって言っただけだからね?別に強制とかしてないから。」


「…してないよなッ?」


太ももに強い衝撃が走る。


「お前が勝手に気ぃ狂って遺書書き始めたんだもんなぁ!」


何度も蹴られて、足が必死に力もうとしている。


「マジでイライラするわ。ドブスが調子乗って楯突いてくんじゃねえよ。もうまた”晒し”やっちゃおうよ」


「もう今日6回目だけどw」


「いいよいいよはい足開いて」


「先輩だったら興奮するかなぁ?」


「ウ!何ダコレハ!未確認生命体ダ!」


「ちょwその先輩のモノマネ最高!」


「裸ノUMAヲ発見シタゾ!!写真ニ残セ!」


「足抑えてて」


「りょーかぁい」


「うわっなにこれ痛そ」


「やべー腹変な色になってんじゃん」


「こんな無防備なUMAだったらよっ!」


腹に重たい拳がめり込む。


「俺でも倒せんじゃねえかなwほらほら」


吐きそうになるが吐くこともできない。


「うわきったなっ」


「やっぱ昼飯食わないと吐いたりしないっぽいね」


「だめでしょwお母さんが作ってくれたのにちゃんと食べなきゃ」


「もうトイレにしずんじゃったけどねw」


「そもそも弁当の中身も冷凍だし。愛情とか受けてなかったんじゃね」


「それいいね!この痣が見つかったら親がしたことにするか」


「生きててもしょうがないクズなんだから、せいぜいうちらのお金の足しになれてよかったね。」


「じゃあもう一発殴っとくか」



「え、うそ」


「うわっ…きたねえ漏らすなよ」


「すぐそこにトイレあるんだから我慢しろよw」


「これ売れるわ、ちゃんと撮って撮って」


「ねぇまじきもいってなんでこれに興奮するん?」


「宇宙人みたいなドブス顔を写さなきゃいいんだよほら」


「マジで無理。」



「お前さ、なんか言ったら?」


「確かにw」


「自分可哀想ですみたいな顔すんのマジで腹立つんだけど。」


「ほらなんか言ってみろよ」


「言えっつってんの。わかんないん?小学生かよ」


「脳みそほんとに詰まってんのかなぁ!?」


 顔面に激痛が走る。鼻から血が吹き出し、初めてに傷ができた。


「ちょ、それまずくね?バレたらやばいかんね」


「うるせえわもう、俺我慢の限界だわ。顔見なけりゃドブスも女優も一緒だっつうの」


「うわwマジでヤルんかw」


「うちらも飽きてきたし好きにしなよ」







「…よ」


 その時、ボロくなった制服のポケットから、昨日のお守りが落ちた。


「…全員死んでよ」





 俺はイサムとともに廊下を走っていた。今の学校はやはり異様な空気感に包まれている。角に置かれた何の変哲もないバケツにさえ、なにか恐ろしいものを感じる。どこかおかしい。自分がこの世界にいることを歓迎されていない感覚。


「これを”境界”っていうんだよな?」

 

「あぁ、そうだ。モトさんに聞いた限り、これは時空の歪み。とてつもなく大きな意思の変動が起きた時、この異世界みたいな場所に引きずり込まれる。しかし、一時的なものだから、意思と一緒に高次元へ吸収され、私達のような異物は自動的に境界からはじき出されるんだ。だが、個人の超能力程度では絶対に生まれない。つまりここに、とんでもないタネがあるということだ。」


「そのタネを成長させちまうトリガーになったやつがいる…ってことか。」


「それをモトさんは超能力者・ヤトであると睨んでるというわけだな」

 

超能力者・ヤト(仮)。おそらく相対すれば俺たちに勝ち目はない。どうしたものか…


「しかし、私は少し違和感を覚えているのだよ」


「何に?」


「ヤトは実は……じゃないのだ…うか?」


 急な地響きでイサムの声が聞こえない。問い返すが、イサムも聞こえていないようだ。どこかで鳴る轟音。これがいつも通りの工事の音だったらどれほど良かっただろうか。


「うわあああ!!!」


 突如として叫び声が聞こえた。本校舎の上の階のほうだ。ずっとまさかとは思っていた。前に襲ってきた宇宙人、あいつはオーパーツの意思の力を目当てに現れた。ということはとても大きな意思の力を感知する力があるはずだ。


 そこにあったのは、あのときと同じように凶暴な宇宙人の姿だった。


「リクト、こいつはやばいぞ!」


「いいよイサム先に行け!」


イサムは呆気に取られはっ?と顔を歪めた。


「な、何を言ってんだ!リクト、一人では勝ち目はないじゃないか。」


「ああ、そうだ。だから逃げるよ」


 でもそれでは、とイサムは必死に訴えてきた。しかし、俺の腹はすでに決まっている。


「俺だって死にたくていくわけじゃねえよ。イサム、お前もあのとき一人で俺等のために戦ってくれたじゃねえか。借りを返してえのさ」


「だからって…」


「イサム、中にはまだ人がいる。それを助けられるのはお前だけだろ!俺がこいつを校外の開けた場所まで連れてくから、お前は中の人を助けて、超能力者を打ち倒せ!」


「…」


「頼んだぞ、オカルト研究同好会会長!!お前が頼りだ!終わったらまた会おう!!」


 イサムは戸惑いを振り払い、大きく頷いた。


「死ぬなよ!リクト」


 あのときの借りを返す。あぁ、よかった。


 俺はまた、イサムの為になれる。

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