第11話 ビデオカメラ

 廃ホテル探索の一件から一週間、梅谷さんは来ていない。残り二つの七不思議、ヤトという謎の超能力者、まだまだ向き合わなければならないことが沢山ある。イサムはいつも通り平常運転で…と言いたいところだが、顔が暗いように感じる。本人は元気に振る舞っているつもりだろうが、俺の目はごまかせない。あの事件からみんなの心が少しずつ離れていっているように思う。

 とは言え、一応今日は部誌を作る予定日のため、俺たちは部室に来ていた。


「リクト、梅谷会員は今日もいないのか」


「そう…みたい」


「ま、まぁ部誌は今までも竹内会員が一人で書いてきたじゃないか。」


「それもそうだな…」


 なぜだか会話がぎこちない。その空気に気づいたのだろう。イサムは次から次に仕入れてきたオカルト情報を垂れ流してきた。へんに声がこわばっていて、それが耳に若干の違和感を与えていた。イサムがガラスのドクロの話をし始めたとき、俺は不意に思い出した。


「ビデオカメラ…」


 俺はビデオカメラをあの廃ホテルで失っていた。あのあとも少しだけ探してみたが、見つけることはできなかった。あのとき幽霊が撮れていたのかもわからない。そもそも、部誌に使う予定だった写真を撮り忘れていた。何もできていなかったと反省し大きなため息を吐いていると、イサムの口から予想だにしない言葉が聞こえてきた。


「そういえば、あの時ビデオカメラを拾ったんだ」


「…えっ?」


「これなんだが、形が似ていたような気がして拾っておいたんだ。カメラはほとんどリクトに任せっきりだったから、よくわかんなくてな。」


 そう言って取り出されたのは間違いなく俺の持っていったビデオカメラだった。


「それだよそれ!イサムが持ってたのかよ!」


「いやはや、申し訳ないな。リクト、早速動画を確認しよう」


 イサムとはすでに十二年の仲だ。そのせいか、二人のときはリクトと呼ばれる。オカルト研究同好会にいる間は、頑なに会員と呼び続ける(まだ部活ではないことを強調したいらしい)ため、久しぶりに名前を呼ばれた気がした。

 突然だった。カメラに手を伸ばした瞬間体が別人のものになってしまったような違和感を覚える。なんだこれ…


「イサム…ちょっと待ってくれ、なんか急に気分が…」


 俺の異変に気づいたのはイサムも同じだった。


「リクト、まさか…」


 そう言うと、イサムは俺の肩をそっと触れた。イサムの心配している感情が手を伝って入ってきた。これは比喩でもなんでもなく、イサムの超能力・テレパシーの力によるものだろう。しかし、なんだろうか。感情とは別のなにか、力のようなものが流れ込んでくるのがはっきりとわかる。戸惑っている俺を見て、イサムが言う。


「超能力だ!!リクトも超能力が使えるようになったんだ!!」


 えっ今?ただビデオカメラに触れただけで…?

この体に異変が起きているのは明白だ。しかし、超能力は”意思”の力によって発動すると聞いている。そんな超能力を手に入れるほどの望み、意思なんてない。俺は夢が幻のように感じ、フワフワとした内情だけが残っていた。


「どんな能力なんだ!?教えてくれ!」


 イサムの興奮が収まらない。しかし、残念なことに俺がその期待に応えることはできなさそうだ。


「どんな能力かなんてわかんないって…」


 イサムは、あっそうかと言うように口を動かし大きく頷いた。結局、俺らは能力が開花した、ということしか分からかったため、また各々の作業に戻ることにした。

 ビデオカメラで撮影した動画を開く。すると、メモリの中に何やら見覚えのある知らない動画が入っていた。

 こんなものまで撮っていたのかと、中を確認し、俺は思わず声を出した。


「これ…」


 そこに映っていたのは紛れもなく、俺が見ていた藤島と九の殴り合っている映像だった。


「おぉ、よく撮れてるじゃないか」


「違う…俺はこの時このビデオカメラを持っていなかった。この映像は俺が見た映像だ。」


「…どういうことだ?」


「俺が、で見ていた映像と全く一致している。このカメラになんで…」


 すると、イサムがなにかひらめいた。


「それが、リクトの能力じゃないのか!?」


「そんな…」



 俺の能力は”戦記作家ウォー・ロガー”(さっきイサムがつけた)といい、俺の目でみた映像を記録し、それを映像媒体にダビングできる、みたいな感じの能力だ。おそらく、本当はもっと細かい制約があるのだろうが、今はわからない。にしても、戦記作家ウォー・ロガーって、別に記録しているだけで小説を書いてるわけじゃないのに…。相変わらず変なネーミングセンスだ。しかし、なんだかピンとくる気がしなくもない。

 俺についに能力が覚醒した。なぜかはよくわからない。いや、このときはまだ、わかろうとしなかったのだ。


「ついに、リクトにも能力が覚醒するとは!私は嬉しいぞ!あとは梅谷会員だけだな!」


「そうだね…。梅谷さん、何してるんだろ…」




―学校裏の雑木林にて―


「!!」


 とてつもなく大きな意思が、突如二つの場所に生まれ始めた。一体なんなんだ?

 早く松田くんに伝えなければ。意思が生まれた場所は一つが禍島の社、そしてもう一つは…





―禍島高校内旧校舎・オカルト研究同好会部室


「何だ!!?」


「お、おいすごい揺れだぞ!はやく机の下に隠れよ!」


 その瞬間イサムの電話ノベルがなった。かけてきたのはモトさんだった。


「いま、学校にいるかい!?緊急連絡だ!君たちは間もなく”境界”に引きずり込まれる!この連絡もできなくなるだろうから端的に伝える。学校の中にがいる!!相当強大な力だ!君たちで対処してくれ!俺はもう一つの元凶に探りを入れる!死ぬなよ!」


 死ぬなって、そんな大げさな…と思ったその瞬間、身に覚えのある感覚に襲われた。この不快感…

 間違いない。あの宇宙人の化け物と出会ったときと同じだ。


「私たちで超能力者を倒さないといけない…。いいな?覚悟を決めろ!」


 奇妙な空気が体にまとわりつく。恐怖を振り払い、俺たちはドアを開けた。

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