第5話 ヤンキー


 カッパの謎を解明したあと、わたしたちは勢いに乗って他の謎の調査に邁進した。



六、骸骨軍団長・ランゴバルト藤島

深夜0時、禍島海岸の砂浜に、突如として現れるランゴバルト藤島、彼には生きた肉体はなく、骨だけの姿となってしまった。かつてここら一帯の暴走族をまとめ上げた伝説のヤンキー・藤島 馬瑠兎バルトは事故を起こし死んだことにも気づかず、海岸沿いを走っているようだ。ヤンキーによる目撃情報が多く、彼の姿を一目見ようとツーリングするヤンキーで夜は大騒ぎになる。


「似たような話だと首なしライダーみたいな感じだな。」


「おっ、竹内会員もかなりオカルトに詳しくなったじゃないかぁ。」


「ま、まあな。…よくわかんねぇけどヤンキーの作り話じゃねえのか?」


「とりあえず実地調査だな!ところで、梅谷会員はどこにいるんだ?」


「いや、何も聞いてないな…。もしかしたらこんな部活動に嫌気が差して出ていったのかも。」


「な、なんてことを…」

「すいません!!遅れました!ちょっと用事があって…」


「おっ来たな梅谷会員!どうした?びしょびしょじゃないか。まさか雨降ってきたのか!?」


「いや、さっきトイレ掃除中に転んじゃって…」


「大丈夫?梅谷さん、怪我はない?」


「はい、竹内先輩全然平気です!」


「よし、じゃあ今日の深夜0時に海岸へ向かう!総員、準備!!」


「…3人しかいないけどな」



 夜になった。わたしたちは禍島海岸へと調査に来ている。静かな夜の海を見ていると、後ろから突風に吹かれた。


「うわっ風、強いですね…!」


「うむ、天気があまりよろしくない。モトさん、今日はどうしますか?」


「これは、幽霊来るだろうね。」


「ホントですか!?やったぁ!!ついに霊体に干渉できるのかぁ!!お、奥からバイクが来たぞ!あれがきっとランゴバルト藤島に違いない!おーーい!おーーい!」


 先輩が呼びかけるとバイクが止まった。数秒経ってこちらに降りてきたのは、骸骨でなくいかつい男だった。


「また、ただの人だったというのか?」


「おいテメェ何してんだ?」


 しまった。おそらく彼は俗に言うヤンキーという生物ではないだろうか。竹内先輩の長めのものと違う坊主のようなツーブロックで、切れ長の目には殺意が感じられる。やばい、逃げなければ。UMAより恐ろしいものが目の前にある…!


「あれ、君はいちじくくんではないか?」


「あ?お前…松田じゃねえか!」


「イサム、お前イチジクと仲良かったのか?」


「えっえっ、先輩、この方はど、どちらさまで…」


「あぁ、この人は私のクラスメイトのいちじく 拡夢ひろむという方だよ。学校に来ない不良生徒さ。」


「(えッそんなこと言っちゃ怒っちゃうんじゃ…)」


「俺からしたらお前もだいぶオカシイけどな」


「なんだね、九くん、私のオカルト愛を馬鹿にしたいのか?」


「オカルト…あ、そうだオカルト研究部だったか?お前ら。」


「今はまだ同好会だ!間違えないでくれたまえ。」


「いいだろどっちでも。それより頼みてえことがあんだよ。」


「頼みたいこと…?」


「俺、幽霊に取り憑かれてんだよ。」




 九さんによると、彼はかなり前から幽霊に取り憑かれているらしい。幽霊の名前は花川 深幸みゆき。九の住むアパートの隣の部屋に住んでいたらしいが1年前に亡くなっている。それから少したった頃、彼女の姿が自分にだけ見えるようになり取り憑かれたと実感したらしい。またその幽霊が廃ホテルに行きたがっており、その理由を知るべく、喋れる幽霊を探して海沿いを走っているらしい。


「藤島ならわかるかもと思ってよ。頼む、俺、どうすればこいつを成仏させられるかわかんねぇんだよ。喋れねえし。」


「ううむ…私たちじゃ判断しかねる。私もその幽霊の姿が見えなくては触れられないからな…モトさんを呼ぼうか。」


「モトさん…?」


「めっちゃ頼りになる…霊媒師?的な感じの人だよ。」


松田先輩なら変なことを言いかねないと思った竹内先輩が横から付け加えた。


「ホントか?騙されてんじゃねえのか?」


「…お前見た目の割に結構ちゃんとしてんだな。」


「そのモトさんとかいうやつが信用できなかったらブン殴るからな。」


「殴らないでくれよ。」

ぱっと振り向くとモトさんが立っていた。

いつから後ろにいたのかわからずビクッとしてしまったが、それは九さんも同じだったようだ。


「あ、あんたがモトさん…?」


「そうだ。俺は本宮。よろしく。」


「つ、強いなあんた」


「それはどうも。」


何やら分からないがモトさんの強さを感じ取ったようで、素直に言うことを聞くようになった。


「うん。君は幽霊につかれてるな。」


「やっぱそうすか?」


「うん。ちょっとまってね。今見えるようにするから。」


 そう言うとモトさんは懐から謎の粉を取り出し、それを九さんの後ろの方へばらまいた。すると、粉が人の形を作っていくのが見えてきた。粉をまくたび、その姿は鮮明なものになっていった。


「これで見えるんじゃないか?」


 そこにいたのは小柄な女性の霊だった。


「えっえっ私もしかして見えちゃってます?」


「完全にみえるし、声も届くはずだよ。」


「えっとあの私、花川深幸と、申すものです…えとこんな事になってしまったのはその、」


「…ほんとに深幸サンすか?

深幸サン、大丈夫なんすか?」


「あっあっい、九くん、ごめん私ホントはその取り憑きたくて取り憑いてるわけじゃ」


「そんなのは別にいいすよ。それよりなんで成仏できないんすか?」


 わたしたちはその二人に何があったのかを知らない。花川さんはおどおどしながらも、九さんと話せて嬉しそうだった。その様子を隣で聞きながら今回の事件について整理していった。


「花川氏は何故廃ホテルに向かっているのですか?」


「あの、松田…くん?は知ってるのかな、その、廃ホテルの都市伝説…。」


「ええ、もちろんです。それを今調査中なので。」


ほんとはランゴバルト藤島を調査する予定だったことを言わないなんて先輩にしては珍しい。


四、旧禍島ホテルに棲まう亡霊

今は廃墟となっている旧禍島ホテルは、有名な心霊スポットである。ホテルの中では、女性の霊が見えたり、叫び声が聞こえたりするという。また、307号室に入り、生きて帰ったものはいない。


「じ、じつは私、い、い言われたんです。」


「な、なんと言われたんでしょうか?」


「そ、その、ほ、ホテルの中にいる人に頼めば、成仏できるよって」


「一体誰にそんなことを…?」


「わわ分かりません…でも確か普通の男だったような…」


「…それは、マズいね」


「モトさん、マズい…って?」


「…俺や松田くんと同じように意思の力を使える”超能力者”が絡んでる可能性が高い。」


「ってことはあのオーパーツに触れた人が、いるってことじゃ…」


「いや、その線は低いだろうね。触れたとしても命に関わるような強い望みがない限り能力は覚醒しない。それに、幽霊が見えるほどの能力者になるほどの力はあのオーパーツにない。」


「…そもそも霊体は意思と関係があるんですか?」


「幽霊というのは、何者かの力によって縛られている意思の集合体のことを指すんだ。何者かは分からない。大抵の場合、一番大きい意思を軸に霊体は形成される。だから今見えてる花川さんは花川さんの意思が一番大きいからこの体を形成しているだけで、花川さんのものでない意思も含んでるんだよ。変な言い方をすれば、意思が濁っている。濁った意思を一つの意思として捉えるのはかなり根気のいる作業なんだ。」


いっぱい意思という言葉が出てきてややこしくなってきた。とりあえずわかったことは、別の超能力者がこの問題に絡んでる可能性が高いことだ。


「この街がおかしいのもそいつが怪しいってわけか。」

 

「モトさん、…深幸サンは成仏できるんすか?」


「分からない。でも廃ホテルになにかあるのは間違いない。」


「では行くしかなかろう!」


松田先輩が勢いよく立ち上がった。


「みんなで廃ホテルに突入するのだ!作戦決行は2週間後!それまでに各自情報収集に努めよう!」



 こうして街全体を覆う闇にまた一つ近づいていった。これ以上近づいてはいけない、そんな気が何処かでしていた。

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