第4話 意思と力
「この超能力の正体”意思の力”、それがおそらく君たちの覚醒条件だろう。」
「意思の力…?」
「意思の力というのは簡単に言えば『こうしたい』『変わって欲しい』と望むものに生まれる力…みたいなものだよ。」
「欲望…的なことですか?」
「そうだね。大体そんな感じと思ってくれて構わない。」
ここから話がややこしくなる。前提となる知識が多すぎるからだ。
「まず、この宇宙は、高次元から低次元にかけて特殊な力を受けている。これを俺らは”HDP”(ハイパーディメンションパワー)と呼んでいる。この特殊な力に触れると人間は”意思の力”に目覚めるんだ。」
「ハイパーディメンションパワー!!それはずばり文明を発達させる作用があると言われるあのハイパーディメンションパワーのことでありましょう!?」
それを聞いた竹内先輩はあからさまに呆れた様子を見せた。
「なんでイサムは知ってるんだ…」
「テレビなどで取り上げられるほどの有名なオカルトだからな。」
「まぁ、その認識はある意味間違っていないよ。」
「ある意味?」
「HDPは実は身の回りの色んなところに降り注いでいるんだけど、それとは比べ物にならないようなHDPの塊みたいなものが存在しているんだ。俺等はそれを『オーパーツ』と呼んでいる。」
すると、松田先輩の顔が曇った。
「それはオーパーツの本来の意味ではないと思うのですが?」
「たしかにそうだ。まぁその話は今じゃなくてもいい。
遠回しになったんだけど、簡単に言えばあの石はオーパーツで、それに触れた君たちはHDPに曝されてしまったんだ。」
「だから、わたしたちが能力者になると予想したってことですか…。」
「そうだね。文明が発達するというより、”意思の力”を引き出すんだ。君たちが何かを強く望んだとき、その望みを叶える”超能力”が生まれるはずなんだ。」
「じゃあ先輩がテレパシーを使えるのは…」
「ああ、あの宇宙人に襲われた瞬間、話し合えばわかるんじゃないかって思ったんだ。まぁ、現在では一方的に思いを伝えることしかできないのだがな!」
あんな化け物に話せばわかる、だなんて言おうとするのが実に先輩らしい。ただまぁ理屈はなんとなくわかった。簡単に言えばわたしが何かを望んだときに望みを叶える力が手に入るということだ。
「俺から君たちに今言えることはこれくらいだ。」
モトさんの話が終わったところでわたしたちは解散し、長い長い1日が終わった。
次の日から、わたしたちは七不思議と街の謎を解明するためモトさんと行動をともにした。
七不思議とは一体何なのか。
禍島の七不思議
一、禍島の社の禁じられた扉
二、彫りの深いカッパ
三、T字路のTバック男
四、旧禍島ホテルに棲まう亡霊
五、ゅるさんのオマジナイ
六、骸骨軍団長・ランゴバルト藤島
七、七回目の告白による悪魔の降臨
正直な話、七不思議と呼んでいいか悩ましいものばかりだ。ネット掲示板に掲載されていたのはこの7つだが、『T字路のTバック男』なんていうのはただの不審者ではないのか?そう思えて仕方ない。とりあえず一つずつ解明していき、その様子を部の発行している部誌(松田先輩がむちゃくちゃに書きなぐっているオカルト新聞)に載せて部員確保と実績を得ようという計画らしい。早速明日から1つ目の謎に取り掛かるらしい。最初に解明するのは…
「なんですかこの恰好…?」
「なんだ?梅谷会員、嫌なら脱いでもいいぞ?」
「いや、嫌なのは確かですけど、そういうのじゃなくて…」
先輩に着せられた作業着を見て、わたしは露骨に嫌な顔をした。それは竹内先輩も同じだった。
「こういうのってあんま潜って探したりするようなのじゃねえ気がすんだけど…」
「竹内会員もわかってないのか?相手はカッパだぞ!?」
第二の謎、彫りの深いカッパ。禍島大城公園の中にある小さな池には、彫りの深いカッパが棲んでいる。背は2メートル近くあり、近づくと大声で威嚇する。その姿を見て、帰ったものはいないという。
「そもそも、彫りの深いカッパってなんだよ…」
先輩の言う通りだ。ただのカッパですら見たことないのに彫りが深いとはどういうことなんだろうか。
「モトさん、イサムの言う通りほんとに超能力が絡んでるんですか?」
奥で準備体操しているモトさんが竹内先輩の声に気づく。
「うーん、正直微妙かな。意思の力も感じない。」
「やっぱガセネタだろ?池の周り適当に調査して終わりにすりゃいいじゃんか。」
「ててて適当にだって!!?リクト、お前はオカルト研究同好会としての自覚を持て!もしカッパが見つかれば、それが妖怪であろうとUMAであろうと新種の生き物であろうと大発見であることに間違いはないだろう!?池の水が汚い程度の事前条件で大発見の可能性を棄てるなんて、オカルトマニアとしてあまりに無礼だと」
「あーもうわかったって。ごめん。で、俺らは何をすんの?」
「私がまず池の中に潜りカッパを探そう。いたら持っているきゅうりで誘導しできるだけ水面まで連れて行く。そこからはモトさんが引き上げてくれるから、竹内会員はその記録を残してくれ。梅谷会員は、その補助をしてくれ。」
「直接池に入るのは先輩だけなんですね。」
「俺はちゃっかり大仕事を任されてるね。」
モトさんは困り笑顔を見せた。
「梅谷会員はれっきとした女学生だ。汚濁した池に飛び込ませるなんて、立派なパワー・ハラスメントになりうる。」
「あ、いや、わたしは汚れるの慣れてるんで大丈夫ですよ?」
「そうであっても、カッパを追い立てるのはやはりオカルト研究同好会会長の責務といえよう!よし、作戦開始!!」
先輩が池に潜り探索を続けること約20分。池から出るのは息継ぎの瞬間だけというかなりのハードワークだ。わたしたちは池の横にカメラを設置し、持ってきたスナック菓子を食べながら座っていた。
「松田先輩って結構体力ありますよね。」
「そうなんだよな。イサムは意外と身体能力が高い。それに勉強も得意だ。」
「えっそうなんですか?」
「学年でも7〜8位くらいだった気がする。偏差値も60後半くらいだったような…」
「この高校はそこまで偏差値高くないですよね?どうしてここに…」
「…オカルトがほんとに好きだからさ。イサムは勉強も運動もできるけど、根っからのオカルトマニアだから。中学生の時から禍島高校でオカルト研究部に入るってずっと言ってたんだよ。」
先輩の意外な一面を知ってしまった。それでもオカルト一筋のひたむきさは変わらないようだけど。
そんなことを、考えていると池から松田先輩が顔を出した。
「いた!カッパいた!!」
「嘘だろ!!?」
モトさんが急いで飛び込み陸にあげたところ、そこにいたのはカッパ…のような形相をした男だった。
「…た、たしかに彫りが深い。」
どうやらカッパだと思われていたのは、この公園に棲むホームレスだったようだ。食べものを探すために池に潜っていたところを運悪く見られてしまい、カッパとしての噂が広がってしまったということらしい。なんとも言えない結末になってしまった。
「まぁ都市伝説なんて、案外こんなもんだろ?」
しょげてしまった松田先輩を竹内先輩が励ましていた。
「カッパは居なかったのか…」
「まぁ松田くんも竹内くんも、まだまだ六不思議あるから!この街がおかしいのは俺から見ても間違いないと思う。全部調べ終わる頃にはきっと面白いのがあると思うよ!」
モトさんが、声を加える。そうだ。今日カッパを探してみて、わかったことがある。オカルトを解明するのが思ったより面白いということだ。私はほんとにオカルトが好きでオカルト研究同好会に入ったわけじゃないけど、このときはとても楽しかったんだ。
2週間後
前言撤回。面白いなんて言ってる場合じゃなかった。今、幽霊に殺されそうになっている私は涙を流していた。
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