第36話 アラアラ、20代前半のお姉様が二人そろって、お色気ムンムンなサムシングかしらン★ もうイヤな予感しかしねーんだわ。

 雨脚あまあしが強いせいか、夏の夕方時でも薄暗くなった折――カランカラン、と入店を知らせるベルの音が《純喫茶・小夜子さよこ》に鳴り響く。


「――ふうっ。全く、予報にあったとはいえ、こんなに降るとはな……失礼します、店長さん」


 入店したのは文芸同好会Noエロ研究部の顧問教師・れい


 そんな彼女を笑顔で迎える店長・小夜子が、簡易的コンパクトなタオルを差し出した。


「いらっしゃいませ、鬼河原おにがわら先生。大変でしたねぇ……こちら簡素なもので申し訳ないですが、タオルをどうぞ♪」


「おっと、こりゃ失敬、ガハハ(やめろや)。ありがたくお借りします。ふう――」


 予報どおりの雨のためか、店内に他の客はいない、解放的な空間で。


 しっとりと濡れたシャツが危うくボディラインを強調する、そんな黎がポニーテールの黒髪を片手で上げ――後ろ首を艶美に伝う水滴に、狙いを定めるようにして。


 ――うなじをタオルでゴシゴシと拭きながら、発する言葉は――


「―――ふー、こりゃたまりませんな。さて、っと……」


 それだけ、それだけでも、―――、黎女史は。


 その長くしなやかな片腕を上げ、恥ずかしげもなくあらわになった、乙女にとって耐えがたき恥部――濡れたシャツ越しの、へ――


「おっと、こっちも失礼……ふいーっ、生き返りますな~!」


 アッ、ワッ、ヒッ―――わ、腋をタオルで拭いたァ―――ッ!!


 ………………。


 そ、そんな蛮行の一部始終を見届けながらも、穏やかな微笑を崩さない店長・小夜子が、黎とは机を挟んで向かい側の椅子を引き。


「ふふっ、鬼河原先生ったら、豪快で逆に気持ちいいですねぇ……さて、このお天気じゃお客さんも遠のきそうだし、私も休憩いただいちゃおうかしら♪」


「おお、それは良いですね。私も一人では味気ない、話し相手がいるのは有難いです。せっかく、よわいも近い者同士ですし」


「はい♪ それじゃ、失礼して~……」


 言いながら、黎と小夜子が、同時に椅子に腰かけ――



「「―――あ、どっこいしょーっ!」」



 ………………。


 スイマセン、イヤな予感しかしないというか、ここからが本当の地獄だ。


 絶対に放置してはいけない二十代前半女子――そんな二人の対話は、果たして次のようなものであった。


「いやしかし店長さんも大変ですな、ほとんど一人でお店を切り盛りして……臨時でバイトを雇うこともあるとはいえ、なかなか大変でしょう?」


「いえいえ私なんて好きなことをやってることですから、気楽なものですよ♪ そこいくと鬼河原先生は教職者として、普段から若い子の相手をするわけですから、何かと気苦労も多いでしょう?」


「いやいやそんな、むしろ若者の活力をもらっているくらいですとも。いやぁ、若さとは眩しいもんですな、ガハハ(やめいっつの)」


「うふふ、わかります♪ ここには学園の生徒さんもお客さんとして良く来てくれるけど、声を聴くだけで青春時代に戻った気分ですよ~」


※↑二十代前半の女性の会話です↑※

↑こんな注意書きしないといけねぇくらい、おかしいのよアンタら。小夜子ちゃんまでいつの間にかヤベー感じになっちゃってんじゃない、なにこれ地獄?


 そんなヤベー二人がダブルスを組み、話は何とも気が早く、終業後の予定にまで至る……が。


「そうだ店長さん、せっかくですしお店が終わったら、いつもの店でちょっと一杯やりませんか? 酒に合う良いツマミが出来たみたいでしてね♪」


「またまた鬼河原先生ってば~絶対ちょっと一杯じゃ済まないくせに~っ。でもいいですね~日々の仕事のストレスを、ぐいっと一杯洗い流して、なんつってウフフ!」


「ワハハ、こりゃこりゃ失敬! いやー何だか話してたら、早く飲みたくなってきましたな~!」


「も~仕方ないですね~! 今日はお客さんも来なさそうですし、何ならちょっと早めにお店を閉めて――」


『お飲み物でーす♡』


「おっこりゃ気が利きますなっ。ささっ店長さんもご一献いっこん


「「―――カンパーイッ! ぐびっ、ぐびっ! プハーッ!!」」


 流れるように差し出されたジョッキ入りの飲み物を、二人同時に喉奥へ流し込み――ドンッ、と空のジョッキを机に置いて満面の笑顔で一言。


「「麦茶だコレ!!」」


「ふふっ、黎先生も小夜子さんも、少しは頭が冷えるかなって思いまして♪」


「ヒッ!? ……み、みみ美嶋みしま、な……なぜここに……?」


 そう、先ほど飲み物を提供したのは、学園生であり文芸同好会の一員。

 美嶋すみれ――彼女がなぜここにいるのか、それは小夜子が説明した。


「あっ、すみれちゃんには時々、紅茶の淹れ方を教えたり……逆に新メニューの相談を受けてもらったりしてまして、ウフフ♪」


「そそ、そうだったのですかぁ~……あ、あの、美嶋……その、これはだな、ちょっと気がゆるんだだけで……ど、どうか江神えがみには内密に……」


 己の女子力の欠如に気付いてはいたのか、震える声の黎に――けれどすみれが返すのは、安心感を与えるような笑顔だった。


「ふふっ♪ もしルナさんが、大変なところでしたね♪」


「! あ、ああっ、そうだな、ははっ、大変だったな―――」



「つまり大ピンチは今ってコトよ黎ちゃんスェ~~~ンスェ~~~エッ!!」



「ギャーーーーーーーッ!!」


 もはや楳図〇ずお大先生の漫画風の叫び顔なんよ黎ちゃん先生。


 すみれの背後に隠れ、飛び出してきたルナについても、小夜子が説明する。


「いやールナちゃん、すごい料理上手でビックリしましたね~……すみれちゃんと一緒に新メニュー開発を手伝ってもらってたんですけど、も~助かっちゃって♪」


「そ、そぉぉなのです、かぁ……あああの、江神……これはその、違くてェ……」


 いつもとはまるで違う、弱々しく震える黎に――されどルナは容赦なく。


「……アタシ達の合宿は、この前に大団円はっぴ~えんど♡なカンジで終わったケド……次は黎ちゃん先生の番みたいだネ★

 そんなワケで……今から、しちゃおっか……女子力・強化合宿★」


「ヒィンッ……なんか☆が黒いよおヒインッ……!」


 知らないのか、女子高生からは逃げられない――!(そうかぁ……?)


 ルナと黎のやり取りに、首を傾げながら困り顔をする小夜子……だが。


「あ、あらあら? 何だか大変なことになってるわ……お姉さん、心配――」


「――小夜子さんもですよ? さっき見てましたけど、充分ヤバかったですからね……女子力・強化合宿、良ければ一緒にどうぞ♪」


「えっすみれちゃん、えっ。あら何かしらコレ怖い、文学少女性癖の笑顔が怖い――逆にクセになりそうで怖い――! 次は文学少女の淹れてくれた紅茶が怖い♡」


「ハイ、ルナさんの鬼特訓しごきゆきで~す♪」



「「ン―――ンアアアアアアッ!!?」」



 その後、絶対に女子力を殺してはいけない特訓が、おっぱじまり――


 ルナとすみれのおかげで黎と小夜子の女子力はちったぁ回復したみてーだぞ☆

 ウッヒャ~やるなぁ~オメ~ら★

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