第35話 エロ研究部(文芸同好会)――夏休み前・合宿!(後編)

 21時を過ぎた頃、いつものエロ研究部文芸同好会の室内で、けれどいつもとは違い、たためる机や椅子は部屋の端へまとめ、中央に広くスペースを作っていた。


 そこへ敷き詰められているのは、がギリギリで入れる程度の寝床。全員が顔を突き合わせるように、枕は中央へ向けられている。


「イッヒッヒ☆ こ~やって夜中にみんなでお喋りしながら過ごすのも、お泊り……もとい合宿の醍醐味よねぇ……テンション上がっちゃって寝れないカモ☆」


「やれやれですわ、ルナさんてば、そんな子供じみた……とか言いつつわたくしもお友達とお泊りって初めてなんで、テンションだだ上がりですわ……友達なることパジャマパーティーの如し、よくってよ!」


 メンバーの中でもルナと花子は、特にお元気なご様子。

 そこに、やや呆れ顔のすみれが軽く口を挟む。


「お二人とも、お元気ですねぇ……というかパジャマパーティーというには、あくまで学内での合宿なので、ジャージ姿で味気ない――」


「見て見てすみれちゃん。アタシと花子ハナコちゃん、ブルマ穿いてみた件☆」


「いえよくありましたねそんなの。一昔前のっていうか、もはや絶滅危惧の装備ですよ。RPGとかなら結構防御力とか回避率が上がるやつ」


「すみれちゃんも結構、知ってんネ☆ まあ実際ジッサイホ~エンハイムハナコちゃんのコトぞ☆さんちからお借りしたコスプレなんだけどネ☆」


「ブルマってコスプレなんですか?」


「FG伏字♡とかの☆」


「納得しましたけど、こんな意味の無い伏字……いや何か前にも見ましたね……」


「まあまあ、サービスシーンってコトで……ほいハナコちゃん、フトモモがっつり強調して~? うっふ~ん♡」

「フローラじゃい。チッ、仕方ねぇですわね……うっふーん♡」


「テンション高いですねぇ……」


 彼女達の姿勢に感謝の念は枚挙にいとまがなく、誠にありがたい話です。



 まあそれはそうと、ここにいるのは、エロ研究部文芸同好会のメンバーである、ルナ・カヲリ・すみれ・花子。顧問教師・れいは急な電話連絡などに備え、宿直室に泊まり込むため、ここにいない。


 つまりは、あな恐ろしや、存在しないはずなのにいつの間にか――……というホラーな話ではなく、生徒会長である美々香みみかが合流してきていた。


 八月前後には総体を控えたソフトボール部の、追い込みナイター練習があったらしい。それを知っていたルナとすみれが、良ければ美々香も、と誘った結果である。


「そ、ソフトボール部のわたしが、文芸同好会にお邪魔しちゃってよかったんでしょうか……それこそ、お邪魔じゃないですか?」


「……フフ、なーに言ってんの美々香チャン☆」


 ルナがうつぶせの体勢から、両肘を枕について両手で顔を支え、パチン、とウインクしながら言う。


「もう美々香ちゃんは……エロ研究部の部員ジャン……☆」


「え、えええええいつの間にそんなことに!? ……ん? エロ研……? 多分、大幅に聞き違いだと思いますけど、文芸同好会ですよね……?」


「その通りですよ美々香さん、文芸同好会ですー」


「ンアアアッ! そんな殺生セッショーな! す~みれちゅわぁ~ん!」


 何やら服を脱ぎ捨てながらベッドに飛び込みそうなリアクションのルナだが、それは置いといて、とすみれが美々香へ提案する。


「まあルナさんのジョーク(あくまでジョークですよジョーク)はともかく……せっかくだから、じゃないですけど……美々香さんも、掛け持ちで文芸同好会に入りませんか? もちろん生徒会やソフトボール部が優先で、気が向いたら参加、とかで。そもそも明確に何かをする、という集まりでもありませんし……いつも多忙な美々香さんが、たまに羽を休めに来るような……そんな場所になれたらいいな、って」


「……すみれさん……。……わたし、実は鬼河原おにがわら先生にも、言われていて……ルナさんに、カヲリさんに、フローラさんにも……たまに。……そ、それで、えっと……わたし、ですね」


「……はい」


「……と、途中参加で、申し訳ないですけどっ……これから正式に、メンバーとして……そしてこれからも、よろしくお願いしますっ!」


「……はいっ、こちらこそっ♡」


 すみれの快い返事、ルナの笑顔、頷く花子――



 こうして、文芸同好会エロ研究部ではないに、めでたく五人目のメンバーが加入したのだった――!



 ……ただ、カヲリの反応はというと。


「――……ンゴッ。ぐががが……スカ~~~ッ」


「……んで、わたくしの隣から、すんげぇ健康優良児を感じる寝息が聞こえてくるんですわ。てかまだ21時過ぎてちょっとくらいなのに、この豪快な寝つき。そらもうフィジカル育つわなって納得なんですわ」


「ンガ。………すや、すや………☆」


「急に安らかになるジャンですの……不安定すぎて逆に心配ですわ……」


「すやぁ……へっへっへ、ええ肉、入っとるやないかい……こら90分食い放題でたまりまへんなぁ~?」


「肉欲(お肉を食べたい欲☆)に塗れたハッキリしすぎな、されど今まで一回も使ったことない方言による寝言、ほとばしる不安定さが正式に心配ですわ」


 即ち、どう転んでも心配ということ。カヲリちゃん、表裏おもてうらがない、素直な子ってことやんね……☆(済ますな)


↓ちなみに位置関係、大体こんなもんです↓


      ・すみれ ・ルナ

    ・美々香【頭コッチ】・花子

          ・カヲリ<スヤスヤ☆


※楽してすまんねこ☆(怒られっぞ)



 さて、そんなこんなで話がまとまると、緊張の糸が切れたのか、それともナイター練習の疲れか――美々香が眠たそうな顔であくびをした。


「ふわ、ぁ……ぁっ。す、すいません、みっともないところを見せちゃって……で、でもすいません、もう、限界かも……ん、くぅ……」


「ええ~っもうオネムなカンジ~!? 今からこういうシチュエーション定番の、〝ねえねえ好きな子とかイル~? ほらほら隠してないで言っチャイナ中華ではないよ~☆〟って女子高生ジョシコ~スェ~トークが始まるトコじゃ~ん!」


「え、ええっ……? それは、興味深いですけどぉ……ま、まさか誰か好きな人とか……学外に、カレシさんとかいたり……?」


「うんにゃ? オトコとか一切合切イッサイガッサイ☆興味ないし、カレシとかアリエナイね~☆」


「ぁぁ、話が早くて助かりますぅ~……すう、すう……」


「ち、チックショー! アタシが、アタシがエロトークの一つも持ち合わせてねぇエロ研究部員なばかりにっ……美々香ちゃんが犠牲にーっ!」


 いや生きてる生きてる、とすみれが首を横に振りながら、静かな寝息を立て始める美々香に布団をかけ直す。


「まあまあ、仕方ないですよルナさん、この部屋……冷暖房完備で、今でも正直めちゃくちゃ過ごしやすくて、寝つけそうですもん……とはいえ、はい、美々香さん。ちゃんと布団をかけないと、風邪ひいちゃいますからね~……」


「ふぁ……ありがとぉ……ママ……」


「ママじゃないですよ~♡」


 ツッコミも穏やかに、優しく布団をかけなおす、そんなすみれを見て――なぜだか対抗すべく、ルナが布団もはだけ気味に仰向けになって声を上げる。


「ぐー、すやすや! ぐー、すやすや! すみれチャン、アタシもスヤスヤと眠ってますケドー!?」


「いやぁお元気そうな眠りっぷりで……はいはい、ちゃんと布団をかけましょう~」


「うえへへ♪ あざっす、すみれママ♡」


「ママちゃいますよ~♡」


 ツッコミも雑である……と、更になぜだか花子が悔しそうな顔をする……が。


「くううっ、わ、わたくしだって位置さえ近ければッ……しくじったッ……お泊り会(合宿では?)にテンション上がりすぎて、しくじっ―――ひっ!?」


「!? ど、どうしました、花子フローラさん……?」


 急に上がった悲鳴に、すみれが驚いていると――花子が現状を説明する。


「だっ、だっ……誰かにケツ揉まれてますわっ……!?」


「お嬢様としては、もうちょっとお上品に言ったほうが良くないです? ……そして、誰か、といっても……カヲリさんくらいしか――」


『……へっへっへ、ええ肉しとるやないかい姉ちゃん……こいつぁ食いでがあるのう……すいません店員さん、ここ全部切り取って焼いてください♡』


「やっべー貞操どころか命の危機まで感じますわコレ。わたくし明日、ケツが半分なくなってたらどーしましょ」


 冷静に、けれど恐々としている様子の花子、まあがんばれ(投げんな)


 状況を静観するしかないすみれ……だが、不意に隣のルナの異変に気付き。


「だ、大丈夫ですかね、花子フローラさん……って、あれ? ルナさん?」


「……すう、すう……」


「……あらら、眠っちゃったんですね――」


 疲れていたのかな、と和みつつすみれが笑うと――ルナの口かられた寝言は。


「……すみれちん……みんなでぇ、ずっといっしょに……あそぼぉねぇ……☆」


「! ……ふふっ……ええ、そうですね……そうしましょうね♪」


 改めて布団をかけ直し、すみれも自分で布団をかぶる。


 こうして、突発的に始まった、エロ研究部文芸同好会の一日かけた合宿は。


 メンバー全員に、爽やかな満足感を与え、和やかに終わった――



『―――ンアアアア! ケツをっ、ケツを噛まれましたわァァァ! 学園に犬、入ってきた時も噛まれませんでしたのにぃぃぃ! チックショーーー!』


『もぐもぐ……う~ん、これは……前に食ったAのほうが本物の肉!』


『格付けしてんじゃねぇぇぇですわぁぁぁ! しかも負けてっし!』



 ……………………。


 和やかに終わったのだった!!(押し出せ押し出せ☆)

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