第34話 エロ研究部(文芸同好会)――夏休み前・合宿!(中編)

 私立のお嬢様学園として有名なだけあって、充実した設備――運動部などには、それ目当てで有力な選手が入学を望むケースもあるほどだ。


 そんな設備の内の一つ、部活棟にある大浴場は――もはやレジャー施設として運営可能ではないか、と思えるほど広々として、なおかつ清廉せいれんで上品な造り。


 今まさにその大浴場で、細いウエストラインに手を当てて仁王立ちしているルナは、感無量かんむりょうの声を漏らしている。


「ンッフッフッフ……噂にゃ聞ーてたケド、ホントにイイ欲情よくじょ~♡ね……運動部だけが独占するなんてモッタイナイわっ。まあ運動部でも第三野球部とかだと使わせてもらえなかったりで、一悶着イベント♡あるかもだけどっ」


「なぜわざわざ第三野球部を挟むんですか。でも本当に、良い浴場よくじょうですね……というかルナさん、お風呂で仁王立ちは、はしたないからダメですよ?」


「えーっ、イイじゃんイイじゃん、ダイジョブだよ~。な・ぜ・な・ら♡」


 既に入浴態勢を整えている面々の中、ルナがその場で、くるりとステップを踏むと――湯浴み着の裾が、ふわりと舞った。


「――ジャーンッ☆ この前のショッピングモールの買い出しで、皆で一緒に買った、この……お風呂入るトキの服? ん? なんていうんだっけコレ?」


「湯浴み着とか、湯着ゆぎとか……あと、ゆゆ着とか呼ぶみたいですねぇ」


「ゆゆぎ! ゆゆぎ可愛いじゃんね♡ まあコレあるから、ダイジョーブッ!」


 そう、泊りがけの合宿なら入浴もあるだろうと予測し、すみれや花子の提案で色違いの湯浴み着を買うことにし、それぞれ身につけているのだ。


 よって、けっこ〇仮面よろしく全裸おっぴろげというわけではない。レイティングはしっかり守られているのだ、やったぜ! チッ(やめなよ舌打ち(・ω・`))


 とはいえ、湯浴み着一枚という現状、すみれの言う通り、あまり大胆なポーズをとるのはよろしくない。しっとりと湿って体に張り付き、魅惑的なボディラインをしっかり強調してしまっているし。やったぜ(やめなよ(・ω・`))


 とにかく、ルナが身につけるのは、薄いピンクを基調きちょうとした湯浴み着――色はすみれに選んでもらったのが嬉しいのか、見せつけるようにポーズを取る。


 と、そこへ長身と好スタイルが特徴的なカヲリが、薄緑の湯浴み着を身につけて現れた。


「おいルナ、気ぃ付けろよ、横乳ヨコチチエロ研究部してる」


「え、マジ? あぶなー。ってカヲリちゃんも背ぇ高くて足も長いから、ふとももエロ研究部しちゃってんじゃん~」


「マジかー。かたじけねぇなァ~(意味不明な供述)」


「うえっへっへっへ☆」

「うえっへっへっへ♪」


「あのルナさんカヲリさん、エロ研究部を動詞だか形容詞だかみたく使うのやめません? やめましょう? ね?」


 制止するすみれ、ちなみに彼女の湯浴み着は、ルナと花子による一時間にも及ぶ熟考の末に、薄い水色と花柄のデザインで決定された。彼女らの謎の熱意に、さしものすみれもちょっぴり引いた。


(まあでも真剣に悩んでくれたこと自体は、ありがたいかな……)


 と、すみれがほっこりしていると、熟考してくれた一人である花子が現れ――


若女将わかおかみ


「いや誰が若女将ですかハッ花子フローラさん」


「だってすみれさんたら、思わず〝ヨッ若女将!〟と称えたくなるくらい気品がある佇まいなんですもの! ……ん? ところで今、ハッて……」


「気合を、気合を入れたんですよ、ハッ! って。ほら合宿ですから、気合も入ろうというものですよ花子フローラさん……ウッ」


「なるほど、さすがすみれさん、一寸の疑念も感じさせぬ、完璧な理論武装ですわ(そうかぁ……?)。……ん? どうかしまして?」


 どうかしまして、というか、どうかしている、というか――

 花子の湯浴み着の色は、そう何というか……。


 ……ドきんピカなので、ルナとカヲリも、思わず――


「「ウオッまぶしッ」」


「あらお二人とも、わたくしのお嬢様オーラに目もくらんでしまっているようですわねっ、オホホ……よくってよ!」


「……花子ハナコちゃんはそれ、自分で眩しくないの?」


「フローラですわい。んで、まあ眩しいですわよ、正直」


「眩しいんだ。ヤバ。逆に根性あるじゃんね……☆」


 お嬢様の意地じゃんね……☆


 さて、とにかくこれから、入浴――入浴タイムである。

 見目麗しさに定評ある仲良し女子グループによる、キャッキャウフフの浴場お花畑、イベントスチルの一枚や二枚はあってしかるべき一大イベントだ。


 ついついイタズラっぽく、

〝え~、胸おっきくなったんじゃな~い☆〟

〝ちょっと~やめてよ、も~っ☆〟

 そんなイベントが許される、そんな時間なのだ――そんな、時間に。


 ―――更に一人、来訪者が現れる。



「こらこら、我々しかいないとはいえ――あまり騒がしくするんじゃないぞ」


「! れ……れいちゃん先生センセ……」



 そう、彼女とてエロ研究部文芸同好会の一員――顧問教師・黎が、グレーの湯浴み着をまとい、手にタオルを持って現れた。


 それにしても、何たるプロポーションの持ち主か。スタイル抜群のカヲリにさえ匹敵、あるいはそれ以上の、湯浴み着を隔てていても隠せない肉体美。


 出るところは出て、そのくせ、芸術的なまでにた腰つき――運動をする者が持つ特有の、しなやかな筋肉の付き方さえ美しい。


 そんな。


 そんな、グンバツ(死語)のスタイルの持ち主が。


 ―――手に持ったタオルを、振り上げるや否や―――



「―――フンッ!」(スパーーーーンッ!!)


ルェイチャン先生スェンスエッッッ!!!」

先生スェンスエッッ!!』『先生スェンスエッ!』『スェンスエッ――』(エコー)


「お、おお? どうした江神えがみ、ていうか浴場だとエコーすごいな。なんか合唱のようだぞ。ガハハ」


女子力いのちをだいじにーーーっ!!」


〝だいじにーーーっ〟というルナのエコーが響き、その後――


 エロ研究部文芸同好会一同で、突発的な〝黎ちゃん先生・女子力強化合宿〟に注力する入浴タイムと相成あいなった。


 なんかもう黎ちゃん先生、全部持ってっちゃうんだわ(だわわ)

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