第33話 エロ研究部(文芸同好会)――夏休み前・合宿!(前編)

 私立・聖コープル女子高等学園の校庭に――休日であるにも関わらず、四人の学園生たちが集う。


 その中の一人、欧州系の血を引きし金髪と美白が麗しい美少女、江神えがみルナが、不敵な笑みと共に口を開いた。


「ンッフッフ……遂にきちゃったわね……この時が――」


 そんなルナの隣に進み出るのは、お嬢様学園の生徒としては異色な野性味ワイルド♡と、されど随一ずいいちの長身とスタイルを持つ――呂波ろなみカヲリ――!


「オウよ……始めちまうンだな? ウチらの伝説れじぇんどをよォ……!(ピキッピキッ)」


 そんな二人より少し後方に、慎ましく控えるのは――立てば芍薬しゃくやく、座れば牡丹ぼたん、本を読んだら文学美少女――美嶋みしますみれが美声で囁く――!


「……いえあの、ちょっとしたお泊り合宿ですし、そんな大げさな雰囲気を出さなくても……そもそも文芸同好会が何の合宿をするのかも、謎ですし」


 どんな時でもコンスタントにツッコんでいく、安定性に定評があるすみれに続き、お嬢様の中のお嬢様として有名な――花子=M=ホーエンハイムが述べるのは。


「ウフフ、楽しみですわねぇ……一体、どんな事件イベント♡が起こるのか……さあ、わたくし達を楽しませてみるが良いですわーっ!」


(ヤバい、挟まれてしまいました、どうしよう私)


 割りとツッコミに回ることが多い花子だが、さすがトリックスター、ルナとカヲリ同様にボケ始める。すみれの負担がとっても心配。


 そうして、並び立った四人――ルナ・カヲリ・すみれ・花子、と順番で言い放つのは。


「さあ、行くわよ――アタシ達エロ研究部の合宿は、これからだァ――ッ!」


「ウチらエロ研究部はまだ、泊まり始めたばっかなんだからよ……この果てしない合宿をな――!」


「エロ研究部じゃなく文芸同好会ですし……まだ何も始まってないのに、終わっちゃいそうな感じ出して大丈夫です?」


「突然の暴走トラックには注意したいところですわね!」


 クライマックス感アリアリだけど、まだ始まったばっかなんですよコレ……。


 こうしてワイワイと騒がしく、合宿はスタートしたのだった。

 果たして何が――彼女達を、待ち受けているのだろうか――?



 ♥ ♥ ♥ ♥



「――お待たせしました、紅茶と、お茶けのクッキーですよー♡」


「イエーイ! 待ってました、すみれちゃ~ん☆」


 待ち受けていたのは、ティータイムでした。


 いつもの文芸同好会エロ研究部の部屋で、とりあえず荷物を置いて小休止、とすみれが手際よく用意してくれたのである。


 更にルナも称賛しつつ、ティーカップとクッキーを並べる手伝いをし――カヲリと花子が幸せそうに声を漏らす。


「んん~っ、めちゃおいひ~♡ このお茶請け、超助かる!」


「すみれさんのれてくださった紅茶、小夜子さよこさんのお店のお味にどんどん近づいてますわね……いえ待って、わたくしのために淹れてくださった、と考えれば……友情補正で、命中率と回避率が10%上がる……!?」


「シミュレーションゲームとかのシステムなんですか? ……あ、ちなみにお茶請けのクッキー……なんと、ルナさんが作ってきてくれたんですよ♪」


 すみれが軽くツッコみつつ補足を加えると、カヲリと花子の眼の色が変わった。


「マジかよ!? でかしたルナ! みんな、クッキーは持ったな! 食うぞォ!」


「なんかさっきからカヲリさん、彼〇島っぽい香り(カヲリだけに☆)がすんですけれど……でもマジすげーですわねルナさん、そんじょそこらのお店と比べても遜色そんしょくないどころか、それ以上にオイシイですわよコレ」


「うっしっし☆」


「いや〝うっしっし〟て。リアクションが古臭くないですこと?」


 ツッコみつつ、花子も一つまみしたチ〇コクッキーを小さなお口で頬張った。じ、地の文まで裏切るのかキサマーッ。


 さて、そうこうしている内に、部屋の扉が開かれて。


「――おーう、どうだ、やってるかー?」


「れ、れいちゃん先生……居酒屋じゃないんだからさ……」


 ルナのリアクションの古臭さに釣られてきたのだろうか、いやそんな話ある?

 とにかく入室してきた顧問教師・黎が、メンバーに向けて尋ねる。


「うむうむ、全員、集まっているな。まあおまえ達なら、そこまで厳しく監督するまでもなく、平和に過ごせるとは思うが……しかしせっかくの合宿だ。文芸同好会にちなんで、文系科目の勉強でもやってみればどうだ?」


「うぐう! じ、実はソレ、すみれちゃんが〝やりますよ〟って言っててぇ~……」


 ルナの声が弱々しくなっていくと、代わりにすみれが理由を述べた。


「もう今の時点で夏休みの課題が出てる教科もありますし、せっかくの合宿なら、出来るところは早めに手を付けようかと……聞いた感じだとルナさんもカヲリさんも、最終日ギリギリで慌てちゃうタイプらしいので。でもこういうのは結局、取っ掛かり次第と思いますし……手を付け始めておくだけでも、違うと思うんですよね」


「ふっ……さすがだな、美嶋。実際、江神も呂波も、去年は大変だったからなぁ……今年は期末テストの結果が良かったおかげで、夏季補習も免れたのだし……美嶋の言う通り、ちゃんと始めておけ♪」


「「……フェエェィッ……」」


 ルナとカヲリが返事……返事かコレ? なんかの鳴き声では?


 さて、紅茶に顔を突っ込みそうな勢いで項垂うなだれるルナに、すみれが激励の意味も込めて補足する。


「まあまあ、課題なんて早めに終わらせておいて、悪いことなんてありませんよ。それに……課題があるままでは、気になって楽しめないでしょう……夏休み♪」


「! えっ、えっ……すみれちゃん……夏休みもアタシ達と、遊んでくれるの?」


「おや、ルナさんは私と、夏休み中ずっと顔も見せてくれないつもりだったんですか……私、寂しいです……よよよ」


「そっ、そっ……そんなワケないじゃ~~~ん!? むしろ夏休み中ずっと、いやむしろ24時間、いやむしろ86400秒……ず~~~っと顔見せ続けるヨ~~~!」


「勉強は苦手なのに、24時間が86400秒とかは普通に知ってるんですねぇ……あと、ちゃんと休憩くださ~い♡」


 ルナの冗談とノリにも、すっかり慣れてきたすみれ――冗談、冗談ですよね?


 と、そんなこんなで、ほとんどいつものノリになっている室内で――花子が腕組みして頷きつつ、本題に言及する。


「ウフフ、もちろんわたくしも楽しみですわ、初めてお友達と一緒に遊ぶ夏休み…… まあ未来の話も楽しいですケド、目先の……今日の合宿って、何するんですの?」


「! ……ンフフ、よく聞いてくれたわ、ハナコちゃん!」


「フローラじゃい」


 律儀に名前を訂正する花子に、依然いぜん、構うことなく(少しは気にして差し上げろ)


 ルナがニヤリと笑みを浮かべ、呟くのは。


「この学園……運動部とかも合宿したりするコトあるじゃん……? 大人数の泊まり込みのためにさ……あるんだよネ。そう、ガッツリお嬢様学園なだけあって、めちゃ豪華な……大欲情だいよくじょ~が、ネ☆」


「ええ、確かにありますわね、大浴場だいよくじょう……なんかアクセントおかしかった気はしますケド、気のせいですわねきっと。……って、るっ、ルナ公……まさか!? やるんですわねっ!? 今……この学園で!?」


「ええ……勝負は今ここでじゃないけど、キメるわ!」


 ぐっ、と拳を握ったルナが、言い放つのは――



「エロ研きゅ(やばっ黎ちゃん先生いるじゃん)ゲッホゲッホ!

 もといアタシ達の――〝ハイパー☆入浴タイム〟!

 アタシ達の入浴は、ここからだ―――!!」


「そんな進撃するレベルで気合入れることなんです?」



 そうだぞ気合入れることだぞ


 さて、ルナの気合に、すみれのツッコミが入る中、遂に始まってしまった合宿編。

 果たして、どうなってしまうのか――!?


「クッキーおいし~♡」


 カヲリだけはマイペースに、何だか既に大満足の様子である。

 それはそれでイイじゃんね(ね)

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