第31話 つ、ついにやるのか、やるんだな、今ここでッ……野球だァァァア!(ソフトボールだしカヲリちゃんだけだし)

 その日の放課後、聖コープル女子高等学園のグラウンドにて――すみれの隣で、ルナが腕組みしながら呟いた。


「ふっふっふ……ついに、ついに来ちゃったわね、この時が……!」


 グッ、と握りこぶしを作ったルナが叫ぶのは――!



「アタシ達、エロ研究部が――ついに野球するのよ――!」


「違いますよルナさん?」



 ツッコミは即だった、そんなすみれが述べる真実の事情とは。


「生徒会長兼ソフトボール部の美々香みみかさんから、助っ人を頼まれただけじゃないですか……練習試合なのに、レギュラー部員の子が期末の結果が良くなくて補習だから、欠員が出ちゃって……だから野球でなくソフトボールですし、試合してるのもカヲリさんだけですよ。……しかも、もう最終・七回の裏まで進んじゃってますし、私達の出る幕とかは無いですからね?」


「う、うぐぐ、そうなんだけどっ……でもせっかくの機会だし、アタシらだって何かしたいじゃん~!」


 味方側のバックネット裏で、ルナが声を上げる、と――様子を見に来てくれたのか、助っ人を要求した張本人の美々香が現れて。


「あ、あのっ。江神えがみさんも、参加してもらってますよっ……応援、聞こえてますからっ。すごく声が良く通るから、普通の声援が応援歌みたいだって、チームのみんなも喜んでますっ。もちろんすみれさんの声もですよっ、わたしもすごく力、頂いてますからっ」


「! そ、そお? ふっふー、そっかな~♪ まあ当然よ、何せ……すみれちゃんはアタシらエロ研究部の文芸女神だかんね!?」


「(? エロ研究部?)あっ、え、江神さん自身の話より、すみれさんの方が自慢なんですね……な、仲良しですねっ。……あ、それと、あくまで練習試合なので……助っ人のお礼とかではないのですが、良ければ代打で実際に試合参加して頂いても、良いんですけど……」


「! ……ふふふ、マジ? そんなハナシ、聞かされちゃさぁ……!」


 ニヤリ、笑みを浮かべたルナが、すみれと顔を見合わせて頷き合う。


「特に運動神経とかよくないアタシらが、公式に残んない練習試合とはいえ、ジャマしちゃうのはなんかチガウっしょ?」


「そうですねえ、私とルナさん、実は前に下校の時、バッティングセンター行ってみたんですけど……一番遅い設定だった80㎞/hでもあんまりバットに当たりませんでしたし。素人が場を濁してチーム全体に迷惑かけられませんよね。この最終回まで同点でもつれ込むくらい、相手も強豪で……部員の皆さんも、良い経験になると思いますし」


「だよね。てか練習試合だからこそ、ミンナの気持ちまとめるの、大事じゃんね。欠員が出ちゃったのは仕方ないけどサ。まあアタシらがんばって応援するよ~☆」


「高校総体も近いですし、大事な時期なんですよね? 私達に気をつかわなくても、大丈夫です。だからこそ精一杯、応援で参加しますね♡」


「あっそっなっあっありがとうございますっ(め、めっちゃ真剣に考えてくれてますし、ありがたいですし、いっそ逆に申し訳ないですね……!?)」


 美々香、思わず面食らう――が、そうこうしている間に、2アウトまで追い込まれた状況で、クリーンナップである1番バッターに打順が戻る。


 そして、当のバッターは――我らが文芸同好会エロ研究部ではない呂波ろなみカヲリ、その人だ。


 ネクストバッターズサークルから離れたカヲリが打席に立つと、その次の2番バッターである美々香が一礼してバックネット前から離れ。


 バットを構えるカヲリに向かって、ルナが声援を送る。


「いけいけカヲリちゃ~ん! タイミング合ってきてるヨ、がんばれ~~~え♪」

※現在、相手選手へプレッシャーをかける野次やじのような声援はマナー違反・もしくは禁止とされており、配慮しています。スポーツマンシップは大事やんね……☆


『………………』


 ここまでカヲリ、ノーヒット――だが強打性の当たりは何度かあり、相手チームは守備のファインプレーに助けられている形だ。


 強豪たる相手チームも、カヲリを警戒する雰囲気が見て取れ、守備位置は深めに取られている。


 そして、ピッチャーが腕を一回転させて放つウインドミル投法を繰り出すと――!


『―――ッシ! うおおっ!』


「!? ば……バント!? うわっ、カヲリちゃん足速ッ、すげぃ~~~!」


「完全に相手の虚を突きましたね、バントで見事な安打、すごいですカヲリさん!」


 見事、塁に出たカヲリ――そしてこの瀬戸際の局面で迎えるのは、この学園の生徒会長にして、2番バッターである美々香。


『……ッ(さすがに、緊張しますね……でもわたしの仕事は、いつも通り。2アウトだからバントの選択はない……かといってわたしじゃパワー不足で、長打は難しい。なら……安打で次へ繋ぐのが、一番――)』


 と、美々香の狙いが定まると共に、ピッチャーが球をほうると――


「―――美々香さん、がんばってくださーい!」


『!(すみれさん……ッ――!)』


 安打を、狙っていた――が、すみれの声援を受け、美々香の手には思いがけず力が入ってしまい。


 バットが捉えたボールは、思いがけず飛び過ぎてしまい、このままでは簡単に捕球されてしまう――


 ――――かと思いきや。


『!? なっ……2番バッターの子、技巧派じゃなかったの!? こんなに飛ばせるなんてっ……ッ!』


 打球は外野手の頭上を大きく超え――大きく、長打性のヒットとなった――!


 そのまま、俊足が自慢のカヲリが、ホームベースを踏むと。



「っ! ぎゃ、ぎゃっ……逆転だっ、カヲリちゃん美々香ちゃんすげ~~~い!」


 聖コープル女子高等学園ソフトボール部――勝利と相成あいなった――!


 逆転の長打を放った美々香が、けれど自分自身、驚いている様子で己の両手を見つめている。


 ……と、バックネット裏のすみれの背後から、顧問教師・れいが声をかける。


「ふっ……おまえのおかげだな、美嶋みしま


「うわビックリした黎先生いつの間に!? ……って、私のおかげ、って……いえ私、応援してただけで……」


「その応援がきっかけで、やなぎ(美々香ちゃんの苗字ぞ☆)は、自身の可能性を広げられるかもしれん。……あいつは技巧派だが、自信に乏しい所があり、今のような場面でも〝次へ繋ごうとする〟傾向があった。染みついたスタイルだから仕方ないが……相手にも読まれて、前進守備で補給の危険もあった。だが今、それを遥かに超える長打を放ち、勝利した――己の殻を破ったともいえる。

 ……それは、お前の応援のおかげだと……柳も思っているようだぞ」


 黎が言う通り、勝利を決めた美々香は――満面の笑みで、すみれとルナに向けて、手を振っていた。


 それに応えるように――すみれとルナも、また。


「……美々香さん、カヲリさん! チームの皆さんも――おめでとうございます!」


「相手チームのみんなも、ナイスファイト~! 良い試合だったよー☆」


 こうして、練習試合は――勝者も敗者も、誰もが全力を尽くし、後悔の無いゲームセットを迎えたのだった。




 ……ていうかこんなガチで試合とかすると思わなかったからビックリしたんよ。どうなってんのよコレ、先に言ってよねこういうの……。

(無茶言うな☆)

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