第30話 美嶋すみれの危機――本屋さんでの仲間達との邂逅――!(や、ヤベェよ、ヤベェよ……!)

 午前中のみの授業で学校が終わった、ある日のこと――美嶋みしますみれは、一度家に戻ってから、自宅の最寄り駅から数えて二駅分ほど離れた本屋へおもむいていた。


 そこで、出会った――いや、、というべきか。


「お……? あれーっ奇遇じゃんすみれちゃ~ん☆」


「…………。……あっ、ルナさん。ふふっ、つい少し前、一緒に下校して別れてからぶりですね♡」


 すみれはにこやかに対応しつつ、さりげに隠した――購入予定の参考書や、週刊誌、の小説……に、挟み込んで。


 官能小説エロいぞ♡を―――隠した―――!


 ……とはいえ表紙も含め、見た目には普通の装丁そうていだし、気付かれることはないかもしれない。それでも万が一を危惧きぐする、すみれは慎重な少女である。


 と、偶然にも遭遇したルナが、すみれに問いかけるのは――


「すみれちゃん本屋めっちゃ似合うね~☆ んでんで、今日はナニ買うのー?」


「(! きたッ)本屋が似合うとかあります? で……まあ大したものじゃないですよ。ほら……参考書とか、週刊誌……あと趣味で読む小説を色々ですかねー」


「おおっ、さすがすみれちゃんっ。参考書とか、アタシ絶対ズェッテェー買わないもんにゃ~。さすが文学美少女……完璧なクリーンナップだねェ、ウンウン♪」


「クリーンナップじゃ野球ですよ……というかルナさんこそ、何を買いに? 学園付近からは、ちょっと離れた本屋さんですけど……第三野球部ですか?」


「ちょちょいくらアタシ達が第三野球部のハナシしょっちゅうしてるからって、第三野球部ばっか読んでるワケじゃないんだかんね~!? んも~っ☆」


 話しつつも、すみれは成し遂げていた――自らの秘密はあえて、さりとて強調せず、流すように早々に話を終わらせ。


 そして相手の話へ切り替える――完全に意識を逸らすことに成功したのは、ルナの話からすぐに分かる。


「んでアタシはね、新し~服とか見たいなって、ブティックいって、そのついでに寄ったの。たまたま見つけちゃってね……第三野球部のコンビニブックス☆」


「やっぱり第三野球部じゃないですか。いや別にいいんですけどね?」


「いや~最近じゃ本屋さんでもコンビニブックスたまに置いててくれて、楽しいよね~。単行本の何冊分か収録されてるし、比較的安価。特に過去の名作漫画などにも触れる機会が増えるので、非常にオススメです☆」


「なぜ急にコンビニブックスのダイレクトマーケティングを……ルナさん、大丈夫ですかルナさーん?」


「………ハッ!? そ、そーだよね、アタシなんかまた取り憑いてた……? 怖い……怖いよおすみれちゃん!」


「はいはい、大丈夫ですよルナさーん。よしよし」


「どぅえへへ♡ アザッス♡」


 すみれが撫でて宥めると、ルナもご満悦のご様子――だがその時、すみれの背後から声が。


「―――んお? すみれにルナじゃん、奇遇だな~こんなトコで」


(この私が……背後を取られただと……!?)


 まあ別に普通の女子高生だし、背後を取られても別に不思議でもないのだが、言ってみたかったんですスイマセン。


 兎にも角にも、現れたのはカヲリ――ならばとすみれは、今度は機先を制すべく、先に話しかけた。


「あっ、カヲリさんとも本屋で会うなんて、珍しいですね……それで、その手に持ってるのは……グルメ本ですか?」


「! おお、そーなんよ! いやせっかくガッコも午前で終わったし、今日は買い食いでもすっかな~って。んでこの辺って何かあるかなって、グルメ本でも見ながら探してみっか~ってなってよ!」


「なるほど、そうなんですねぇ……私はいつもの参考書ですし、面白味もないですけど。せっかくならカヲリさんについて行って、三人で食べ歩きもいいですね♪」


「お~っイイねイイね! 一人で食っても味気ねーし、大歓迎だぜ~!」

「アタシも賛成サンセエ~っ♪」


 成った――もはやルナもカヲリも、すみれの本には興味など示してはいまい。自身の秘密を秘匿することに成功し、すみれは内心でほくそ笑む。


 と、その時――


「――あら? すみれさんじゃありませんの! ルナさんにカヲリさんも……偶然ですわね――」


「いや文芸同好会のメンバーが不思議と集まってくるの何なんですかね!?」


「うおビックリしましたわー!? す、すみれさんがこんな大きな声だすなんて……新鮮……♪ あ、ちなみにわたくし、この辺にお父様がスポンサーしてるお店があるので、挨拶しにいってたんですケド、せっかくだから本でもってなりまして」


 現れたのは、花子――結果として文芸同好会Notエロ研究部のメンバーが、学園よりちょっと離れた本屋さんで勢ぞろいしてしまう、という塩梅あんばいとなった。


 さて、そうして登場した花子だが――このトリックスターお嬢様、ちょっぴり思いがけないことを言い始めて。


「あっ、そうですわっ……すみれさん、何の本を買うおつもりなのか、教えてくださいませんことっ!?」


「へ。……え、ど、どうしてですか?」


「ええ、お恥ずかしながらわたくし、帰国子女で……まだ日本語慣れしきれてませんでしょ? この前の期末試験で、痛感いたしましたわ……だからこそ、勉強のためにも日本文学に触れるべき――そしてせっかくなら、すみれさんのご趣味の小説に合わせてたしなみたいんですの! 感想を述べあったり、チョー楽しそうですわ~♪」


「……な、なるほど! それは楽しそうですね♪ …………」


 肯定的な言葉を返しつつ、これにはすみれ、困った――興味本位なら適当な理由でもでっち上げて逃げられるかもしれないが、むしろ勉強のためと言われてしまえば。花子の向上意欲のために、無碍むげにするわけにもいかず。


 更に、釣られたのかルナとカヲリまで、とんでもないことを言い出す。


「……そんならアタシも! ぶっちゃけ、お勉強ベンキョー不足は花子ハナコちゃん以上だし、アタシだってすみれちゃんと趣味、共有きょーゆーしたいもん~!」


「ん~、ウチもホントは、文字とかズラーッと並んでんの見ると、アタマ痛くなるけど……おまえらが頑張るんなら、ウチだって頑張んねーとな! てなワケで、教えてくれすみれ♪」


「……み、皆さん……ふふっ、何だか私、感極かんきわまってきました……!」


 軽く鼻の頭を擦って照れるすみれ、だがその背には嫌な汗が伝っており、感極まるというか進退窮しんたいきわまる現状だ。


 そして、更に更に――文芸同好会、最後の刺客が現れて――



「――――おや、おまえ達。こんな所で奇遇だな――」


(なぜれい先生までもが――)


 すみれ達に届いた声は、顧問教師・黎――実直さは人一倍、だがそれゆえに風紀の乱れには厳しい彼女が、すみれの買おうとしている禁忌エロ小説♡を知れば。


 もはや、命数めいすうは尽きたか――なかば諦め気味に、すみれが振り返ると。


「……あ、あはは。黎先生、どうも―――って上下ジャージ姿―――!?」


「ん? どうした美嶋、先生、どこか変か?」


 変かどうかと問われれば、今の黎の姿、すなわち上下ジャージ姿は――もうぶっちゃけちゃいますけど、芋っぽいですね……妙齢の女性が、しかも街中でして良いファッションじゃないッスね……。


 クセ強すぎて終わったわ、そんな突風の如く現れたヤバめな黎ちゃんの服装に、彼女の意識改革に取り込み続けるルナが口を開いた。


「……ごめんすみれちゃん、皆も……アタシ、やんなきゃいけないコトできたわ」


「! ……いいえルナさん、付き合いますよ……」


 コクリ、すみれが頷くと、カヲリと花子も続く。


「なーに、ウチだって一年の頃は似たようなモンだったけど、ルナにケツ叩かれて(もうちょいお上品に言いなさいよね)改めたんだ……黎先生だって大丈夫サ!」


「わたくしがさっき言ってたスポンサーしてるってお店、ブティックですの。良い服ありますし、割引もガッツリ効きますから……いきますわよ!」


「さすがだぜフローラ! いっくぜぇぇぇ!」


「その調子ですわカヲリさん! 持続させろよわたくしの正しい名を!」


 本屋での買い物はそこそこに、お会計は早々に済ませ、黎を押していく文芸同好会の面々――本人は「んおー? なんだなんだー?」と呑気だったが。


 ……まあ何にせよ、この流れにおいて、すみれがこっそり内心で思うのは。


(……た、助かった……ホッ)


 きっちりお買い上げしている上に、秘密は守られたぞ、良かったな☆(済ますな)

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