第27話 風邪とかの時って、弱気になりますよね……ゲホゴホ、うう、甘やかしてほしい、チヤホヤしてほしい……次は一杯の熱~いお茶がホシイ☆(オイ)

 日曜日、すみれは自室のベッドに気だるい体を横たえ、布団をかぶって頭には保冷枕を添えていた。


(ぁー、ぅー……昨日、小雨だからって濡れながら帰っちゃったのが、災いしましたかねー……そういえば買った本を早く読みたくて、ロクに乾かしてませんでしたし、はあ……まあ日曜で学校が休みなのは、幸いだったかも……ん?)


 熱と暇に浮かされ、ぼんやりとしていたすみれの耳に、ふと聞こえてきたのは――耳慣れた母からの、ドア越しの声。


『――すみれさん、起きてますか? お友達がお見舞いにきてくださったから、お通ししますよー?』


「ン……お母さん? は~い、どうぞぉ……」


 小声の生返事だが、どうやら届いたようで、入室してきたのは――マスクでしっかりと予防している、ルナだった。


「オイスー☆ すみれちゃん、暇してるー? このエロ研究部の期待の星、右投げ右打ち9番ピッチャールナちゃんがお見舞い来たヨー♪」


「ぁ~……こんにちは、ルナさん……お見舞い、ありがとうございますぅ~……」


「お~……ツッコミもままならないほど、弱ってるご様子よ~す……これは重症じゅ~しょ~だねぇ……ムリしなくてイイかんねー☆」


〝いや判断基準ツッコミの有無ですか〟というツッコミも出来ないすみれ、だが――言葉にせずとも、分かることがあった。いつも通り茶目っ気のあるルナだが、明らかにいつもより小声で、病床びょうしょうのすみれを気遣っているのだと。


 それが理解できればこそ、ルナの快活でありつつ良く通る声は、すみれにとっては心地よいBGMのようにさえ思える。


「いやー、にしても災難だったね~……日曜にちよー、せっかくの休みなのに、遊べないのザンネンじゃなかった?」


「ハハ……むしろ風邪ひくにしても、休みの日で幸いだった、って思ってたところですよ……勉強が遅れても、困りますしぃ……」


「おぉ……さすがすみれちゃん、清楚な文学少女の鏡(それじゃミラーだっつの)だねェ……☆ ってあんま関係ナイかっ。てかすみれちゃんのママ、めっちゃ上品な美人さんだね~、さすがすみれちゃんのママって感じ♪ あっそうそう、ケーキ持ってきて渡しといたから、食べれそーになったら食べてねー☆」


「わ……ありがとうございます……わざわざ買ってくてきれたんですか?」


「んにゃ、丹精たんせぇ込めて作ってきちゃった。おかげで夕方前になっちゃったケド~」


「えぇ……すげぃ……わざわざ作ってきてくれたとか、そっちのほうが……ていうか、もう夕方だったんですねぇ……」


 寝っぱなしだと、時間もあやふやになる……と、すみれとルナのスマホから、同時〝ニャー♪〟〝ポコチ伏せるぞ♪〟と通知音が響く。何なのよルナあんたその通知音、やめなさいよ……。


 さて、どうやらメッセージはカヲリからのようで、すみれは動かさないようルナが自身のスマホで内容を確認した。


「おー……えとねー、もうすぐカヲリちゃんも着くって~。んでなんかね、釣りしてきたんだって。そいえば精のつくモン釣ってくんぞー、って張り切ってたな~」


「えぇ……そんな、わざわざ……なんか、申し訳なぃ……あ、きましたかね……?」


 すみれの部屋は二階、だがカヲリの声も良く響くもので、一階からでも聞こえてきた――その内容とは。


『あ、どもです、お袋さん。コレお見舞いス。捌くの手伝いますね。なんか、釣れたんで……タイ


「釣ったんだ、タイ。ヤバ。普通にいそ釣りで。やっぱスゲーわカヲリちゃん」


(釣ったんだ、鯛……ヤバいですね……)


 オイオイオイ、ヤバイわカヲリちゃん。


 さて、着々とエロ研究部文芸同好会の面々が集まってくると、すみれとしては気になるのか、ぼんやりしつつについて尋ねる。


「ぁー……そういえば……花子ハナコさんは?」


「オヤオヤ、ハナコちゃんって言っちゃってるねぇ☆ ま、ぼんやりしてるから仕方ないにゃー、黙っといてあげるね☆ ……んで、ハナコちゃんのコトだけど……聞かないほうが、イイかも……ね」


「ぇぇ……めっちゃ気になる言い方……一体、なにが……?」


「だよね☆ ……うん、実はね、最後に見た時……こう言い残していったヨ……☆」


 すみれが風邪で寝込んでいると、そう聞いた後の花子が、ルナ達に発した言葉は――次のようなものだったらしい。


『わかった。……全てAll総てAll……解ったGot it


「えぇ……こわぃ……」


「ね~、コワイよね~。〝ですわ〟すら無かったし、表情が戦場せんじょ~に赴く兵士そるじゃあ☆だったモン、マジで☆」


 その割に言い方は軽めなルナ、だが――今まさに、その花子が来訪したらしく。


 ……ただし模様で、数名の足音を伴い――


「ごきげんよう、すみれさん。名医三銃士を連れてきましたわよ!」


「名医三銃士!? いやすみれちゃん、ただの風邪なんだケド、ハナコちゃん」


「フローラだっつんじゃいルナ公。んで、まず一人目……神がかったメス捌きと強靭な肉体でバトルもこなす、スーパードクターJK女子高生♡!(大丈夫? 医師免許ある?)」


『今のアナタは文学少女じゃない……治療が必要な患者なのよ』


「そして二人目は、闇医者でありながら天才的な外科手術の腕前を持つWホワイトQクイーン!」


『金は払える? 金は払えるのね? ……その言葉だけが聞きたかった……!』


「そして最後は、戦場の〝赤い天使〟という異名を持ちし、〝全ての病原菌はゼッタイ殺すガール〟………まあ、アレだ………バーサーカーですわ」


「悉く免許の有無が心配ってか、最後の人に至ってはサー〇ァントじゃない? いやまあコスプレってか成り切ってるだけだろーけど、名医かはマジ心配☆」


(コレ私……今日、死ぬかもな……)


 病身のすみれの代わりにルナがツッコむ、一気に慌ただしくなった室内。

 更にはカヲリも、大きめのトレイの上に土鍋といくつかの器を重ね、入室した。


「うーっす、すみれー。お袋さんが鯛の出汁だしと切り身いれた卵粥たまごがゆとか作ってくれたぞー。いっぱいあっからウチらも皆で食ってってイイってさ。ゴチになろうぜ~」


「わぁ……ありがとうございます-……」


『『『いただきます』』』


「誰だコイツら」


「名医三銃士ですわ。ちなみに女性ばかりなのは――わたくしの忖度そんたくですわ」


「ふゅ~ん。なんだかわからんが……とにかくヨシ!」


 カヲリちゃんからヨシが出たので、ヨシです。


 結果、賑やかすぎるほどになった室内で、突然の卵粥パーティーとなり――調子を取り戻してきたすみれが、まだ少しだけぼんやりとしながら思うのは。


(一気に賑やかに……と思いきや、みんな、小声で喋ってくれてますし……気を遣ってくれてるんですね。……正直、最近は一人の静けさが、味気ないと思ってましたし……ありがたい、かも? ……あ、そっか……風邪、休みの日で良かった、て思ったの……学校いかないと、皆に――)


「ふーっ、ふーっ……はいすみれちゃん、あ~ん♡」


「あーん。……んぐ、はふ……おいひぃです……」


「おおぉ……すみれちゃん、めっちゃ素直~……うへへ、これはハマるぅ~……♡」


 結局、そのまま夜まで軽く雑談したし、その間ずっと三銃士もいた。


 あと本当に腕は良かったので、その後すみれちゃんビックリするほど回復したぞ。良かったな☆

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