第28話 恐怖、激闘、死戦――それ即ち『お勉強会』である――!(あらイヤですわ今日もお平和ですことねオホホホ)

「アタシ、常々つねづね思ってたのね――勉強のために勉強するの、間違ってるって」


 いつものエロ研究部文芸同好会の部屋で、真剣な表情で語るのは、ルナ。


「学ぶってさ、人から強要きょ~よ~されて得られるものなのカナ? 学びたいコト、好みとチガウことを……それこそ教科書みたいに突き付けられて、それを暗記するって作業さぎょ~が……本当に、勉強ってコトなのかな? ……ウウン、アタシは、違うと思う……そんなの、イツワリの勉強なのよ……!」


 そうしてルナは、真っ直ぐな眼差しと同様の、貫くような言葉を――放った。



「アタシ達は、今こそホントの勉強と――ううん!

 真実の勉強と―――向き合うべきじゃないの!?」



 キリッ、と決め顔で叫んだルナに。


 ――竹刀を抱えつつ腕組みして座っていた顧問教師・れいが、地の底から響くような低い声で言う。


「いらんもんと向き合ってないで、いいから今は目の前の問題用紙と向き合え」


「アッス! スマセンッシタッ! コロサナイデクダシャイッ!!」


 黎の声色がどうも冗談ゼロカロリーの様子で、そそくさと用意された問題用紙……の分厚い束に、ルナが向き合う。


 さて、そんな彼女の行動を見届け、黎が呆れ顔でため息を吐いた。


「はあ、全く……そんな大それたことは、少なからず〝最低限は出来て初めて言えること〟だ。赤点で補習を連発しているような現状で、真実の勉強だとか本物の学びだとか、寝言にも程があるぞ」


「ヒ、ヒィンッ……正論がツライ日もあるのにぃ……お、お勉強会はガンバルから、せめてもっと優しいカンジでぇ~……」


「あ゛?」


「アッスッス! ナンモイッテナイス! 文句モンクナンテナンモナイス! ナイスッス! ナイスピッチングッス!!」


 軽く野球が混ざっている気はするルナだが、更に〝やれやれ〟と首を横に振るのは、お嬢様然とした花子で。


「全く、ルナさんにも困りものですわね。勉強は学生の本分ほんぶん詭弁きべんで乗り切ろうなんて甘々ですわっ。やれやれ……」


「……ハナコちゃんも確か、日本語で赤点だったんじゃ?」


「フローラじゃっつんじゃいルナ公。……んで、そーですわよ! 正確には現代文と古文で! 海外生活が長かったんだからしょーがねぇですのに、ちっとも手加減してくれねーんですもの! うわーーーん!」


「ハナコちゃんも苦労してんねェ……ワカルよ、日本語ムズイよね、ウンウン☆」


「フローラな。……てかルナさんはずっと日本在住のハズですし、何なら英語も赤点だったって聞きましたケド……」


 花子もルナ同様、補習組コッチ側の模様。とはいえ花子は真面目なので、ルナのように黎が付きっ切りという訳ではないのだが。


 ……ちなみに、もう一人の補習組、カヲリは――チーン、と机に突っ伏して、息をしているのか心配になるほど沈黙している。


 ……が、しかし。


「――ほらカヲリさん、寝ていないで起きてくださーい。この中じゃ一番補習が多かったんですし、まだまだ先は長いですよー?」


「………う、うう、すみれェ……ウチはもうダメだ、ここはウチが食い止める……ウチは置いて、先へ行けェ……」


「死亡フラグじゃないですか。もー、仕方ないですねぇ……もう少し頑張ったら、休憩にしますか。紅茶と、付け合わせにクッキーもありますので……ね♪」


「! お、おおっ……マジか!? よーし、やる気、出てきたぜェ~……つかすみれの教え方、優しくて丁寧だし、わかりやすいしなァ……助かるぜ!」


「そ、そうですか? 自分では、よく分かりませんけど……でもまあ、お気に召したのなら、良かったです♪」


「へへっ♪」

「ふふっ♪」


 復活したカヲリと、彼女に勉強を教えるすみれが、和やかに笑い合っているのを見て――空虚な目で見つめていたルナが、ぼんやりと呟くのは。


「……あ、アタシも……あっちが――」


「ほう……あたしでは不服だとでも……?」


「インエ~ッナンモッ! ナンモッス! 黎チャン先生スェンセッサイコース! フマンゼロ運動ウンドーッス! アイアーッス!」


「フン、それは何よりだ。……全く、それにしても先ほどから集中力は欠けているし、不満ばかり。……そんなんでは」


 黎が腕組みしつつ、椅子の背もたれに体重を預け――何気なく言い放った言葉。



「――問題用紙を作ってくれた美嶋みしまに、申し訳ないと思わないか?」


「「―――――えっ」」



 重なったのは、ルナと花子の声――今まさに目の前にある問題用紙に注目し、ルナが震える声で確認する。


「えっ、ちょ……これ作ってくれたの……すみれちゃんなの? ……なんですか? 黎ちゃん先生センセ


「うん? 言ってなかったか? ……ああ、そうだ。美嶋は文系は全て成績良好だからな。現代文・古文……ついでにと漢文・英語まで、手伝いを申し出てくれたぞ。江神えがみとふろぉらのためなら、と言ってな。まあ美嶋は苦手な数学でさえ、中間でも期末でも80点を下回ることは無いが。おまえ達も、少しは見習って……聞いているのか? ……ん? どうした――」


「……ッ、ッ………ッ――!!」


 瞬間、目を見開いたルナが――まさに開眼した勢いでペンを取り、問題用紙に取り組み始める。



「う、うっ――ウオオオオッ! すみれちゃんが、アタシのためにっ……俄然ッ!  やる気ッ! 出てきたッ! コスってコスってタンジェントォォォォ!」


「今おまえがやってるの、現代文なんだが」


「そうでしたッ! ウオオオオありおりはべりッ! イマソカリィィィ!!」


「現代文だっつってんだろ」


 空回り気味ではあるが、やる気が漲っているルナ。


 一方、花子は静かに――けれどその眼には、静かに燃ゆる青き炎が宿っていて。


「すみれさんが、わたくしのために……そうか、わたくしの……ために……」


「ウオオオオオオオオ!!」


「静かにしろい、ルナ公……すみれさんが……わたくしを、甦らせる……何度でもよ! ウオオオオオオ!」


「「ウオオオオオオオ!!」」


 勉強って叫びながら出来るもん? 気ぃ散らない?


 さて、そんなこんなで騒がしい室内に、すみれとカヲリは。


「? 何だか騒がしいですね……勉強で叫ぶ学習法なんてありましたっけ……」


「クッキーおいし~♡」


「マイペースですねカヲリさん。何だかわかりませんが……とにかくヨシ!」


 すみれちゃんからヨシ出たんで、ヨシで~す♡




 ――ちなみにその後、抜き打ちテストがあったものの、お勉強した三人は――平均点以上を獲得し、補習を免れた。


 劇的な変化ではないが、すごい進歩だぞ、良かったな☆

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