第26話 学園の有力者たちが集まってくる恵まれた環境……それがエロ研究部の部室……!(文芸同好会だっつの)

 文芸同好会のいつもの部屋で、上品な所作で紅茶を啜るお淑やかな少女は、すみれ――ではなく、生徒会長である〝やなぎ 美々香みみか


 6月も中盤を過ぎ、屋外などは大いに蒸し暑くなっていく時期、けれどエアコンの利いた快適な室内で、ほう、と美々香は落ち着いて息を吐く。


 そうしていると、ゆっくり扉が開かれ、入室してきたのは――

 顧問教師たる、〝鬼河原おにがわら れい〟。


「む……おお、柳ではないか。珍しいな、文芸同好会の部屋で会うのは」


「あっ、鬼河原おにがわら先生。えとえと、お邪魔してますっ。その、すみれさんが図書委員の会議で少し出ていて……お留守番をお願いしてくださったんですっ。えへへ、本当は休憩させてもらってるだけなのに、お留守番だなんて気を利かせてくれて……紅茶も、淹れていってくれたんです♡」


「ふっ、なるほど、美嶋みしまも気が利く子だからな。柳が生徒会の仕事で多忙なのを察し、案じてくれているのだろう。……とはいえ江神えがみ呂波ろなみもいないのは、なかなか珍しいがな」


「あっ、はいっ。お二人も、今日は、その……しょ、小テストの結果がかんばしくなく、補習だとかで……遅れてくるそうで……」


「ほう……面白い話ではないか……勉学べんがくが全てとは言わんが、学生の本分ではあるからな……近いうち、このあたしが直々に、教育をほどこすべきかな……?」


「ほ、ほどほどに……お手柔らかにしてあげてくださいね……?」


 黎の背後に修羅のオーラが見える気がして、美々香は少々心配になっているようだ。


 とはいえ、冗談……かどうか定かでない黎が、椅子に座り(盛大に「どっこいしょ」と言った)――

 美々香がティーポットからカップに注いだ紅茶を啜って(「っあ゛~~~生き返るわ~~~」と言いながら)ひと息つく。


「ふう、それにしても最近、柳も良くここに顔を出してくれているな。美嶋だけでなく、江神や呂波とも仲が良いようだし……何なら文芸同好会に入るか?」


「そ、それは江神さんも、たまに言ってくださってますけど……でも生徒会とソフトボール部も、既に掛け持ちしているみたいな状態ですから。……でもここ、本当に落ち着きますし……皆さんも、こちらも掛け持ちで良い、顔に出す(※ルナに本当にこう言われた)のも自由で良いと言ってもらってますし……も、もしかしたら、いつかお邪魔させていただくかも、ですっ……」


「フッ、その時は大歓迎さ。きっと、皆もな。……まあ確かにこの部屋、異常に居心地いいというか、設備も整っているからな……冷暖房・除湿機能完備のえあこんに、DVDでーぶいでーだかBlu-rayぶるぅれぇだかの、れこ、れこ……再生できるアレに、冷蔵庫まで。……自由な校風とはいえ、良いのか……まあ過ごしやすいから良いか」


「(何か所々、発音に違和感が……?)あ、あはは……確か聞いた話では、ホーエンハイムさんが贈答を――あっ」


 美々香と黎が会話している最中、不意に廊下側から、何やら威勢の良い声が室内にまで聞こえてきて――


『アッス! フローラお嬢様アッス! いつもご利用アリアッスありがとうございますの意! うちん店の自慢の茶葉、多めに仕入れてきたンでどうぞお収めくださアッス!』


『アッハイ。……あ、あの小夜子さよこさん、人の少ない旧校舎とはいえ、もう少し声量を落として……あとその、ホント普通にして頂ければですわね……』


『アッ。……スンマセンデシタァァァァ!!(今日一番の大声) どうか機嫌を直して……うちの店のスポンサーから撤退すんのだけァ勘弁してくださァァァい!!』


『勢いが怖い! いえあのスポンサー撤退とかそんな話は出てませんし、ホント普通にしてほしいっつか……あの大丈夫ですから、と、とにかく……紅茶ありがとうございますですわ、すみれさんも喜びますわ、きっと!』


『あら、すみれちゃんが喜んでくれるなら、お姉さんも嬉しいわ♡ ……したらばこれにて失礼しまっさ! 御用件あればいつでも呼んでつかァさいフローラ様! ほんだらこれにてそそくさ退散、ドロンでござ~い~~~!』


『ハイ、ドウモデス……アリガトウゴザイマス……デスワ……』


 なんかさ、すごいよね(素直な気持ち)


 そうして疲れ顔で入室してきた花子を、美々香と黎が迎えた。


「……あ、あの、お疲れ様です、フローラさん……すみれさんの淹れてくれた紅茶があるので、どうぞ……」


「なんか元気そうだったな、純喫茶の店長さん。まあ座るといい、ふろぉら」


「……はっ。あ、あら珍しい組み合わせですわね、ごきげんようですわ、お二人とも。オホホホホ。…………」


 優雅さお嬢様っぽさを主張するかのような笑い方をする(意図的なんだね)花子、だが――何となく様子がおかしいのは明らかで、美々香が心配そうに声をかける。


「あ、あの、どうかしましたか? さっきの、やっぱり疲れちゃったり……フローラさん、大丈夫ですか?」


「あ、いえ、そういうわけでなく……って呼んでくださるんだなー、と思ったというか……まあ小夜子さんもですけれど……」


「へ? でも、その……フローラさんですよね?」


「そ、そうですとも! 正しく呼ぶ、その心がけ、良くってよ! ……べ、別にちょっと物足りないかな~とか、そんなん思ってないですわ……ええ、ホント――」


 不明瞭なことを花子が述べていた、その時――部屋の扉が勢いよく開かれ、ルナが転がり込むように入室してくる。



「―――オイスー! はあ~補習やっと終わった~! 多いよう、最近多いよう、置いてけよう……学力、置いてけよう……! おっ花子フローラちゃん、元気してる~☆」


「だからフローラじゃなくハナコだっつ……………ハッッッ!!? いや今のは間違いで――」


「ええ、そうだぜ……だがマヌケは見つかったようだな……!」


「ちっ……チクショー、チクショーッ! よくも間違えず呼びやがったッ……よくも間違えないでくれたアアアア!(ですわ)」


 結果、名前の呼び方を訂正する機会を失った、花子の元気いっぱいな慟哭の叫びに――美々香と黎は顔を見合わせ。


「……あ、あはは、なんだか元気いっぱいというか……気心きごころが知れてるからこその関係、というんですかね? こういうのも」


「ほう、江神……そんなに多いのか、補習が……それは、なるほど……お勉強が必要そうだなぁ……?」


(あっ怖い。大変です、江神さんが大変そうなことになりそうです。あわわ)


 いつものドタバタと慌ただしい雰囲気になりつつも――何だか不穏な気配がある、ルナ(とカヲリも)の明日はどっちだ――!?(どっちだ)


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