第24話 ちょ、待てよっ……文学美少女がメガネ取ったら……もうただひたすら美少女でしかないじゃないっ!(文学=眼鏡ってワケじゃねンだわ)

 いつもの文芸同好会エロ研究部ではないの部屋で、今日は珍しくすみれ一人。


 ルナとカヲリは小テストの補習があるようで、遅れてくる――とはいえ簡単なものらしいので、それほど遅くはならないだろう。


 と、黙々と読書を続けていたすみれが、軽く息を吐いて本を閉じる。


(ふう……今日は珍しくルナさんもカヲリさんもいないから、読書がはかどっちゃいましたね……目が、かなり疲れちゃいました。ちょっと眼鏡外して、何か温かいものでもれますか……)


 本を仕舞うと同時に、眼鏡も丁寧にケースへ入れ、せっかくだからとルナ達の分も用意すべく――純喫茶『小夜子さよこ』で教えてもらった紅茶の淹れ方を実践じっせんしてみようと、ティーポットとお湯の準備をする。


 お湯を沸かすついでとは言わないが、蒸気の熱を程々に離れてまぶた越しに受けると、すみれの疲れ目も何となく気持ちよくなっているらしい。


 さて、そうこうしている内に、補習を終えた様子のルナが部屋に入ってきて。


「――ンッはぁ~! ぁー、勉強したしたぁ~、もう一生分はした! もう勉強したくなぃ……さっ、この疲れを煩悩で洗い流すべく――今日もエロ研究部の活動、がんばっぞ☆」


「小テストの補習くらいで一生分とか言っちゃ、先生方せんせいがたが可哀想ですよ……でもお疲れ様でした。煩悩で洗い流してもヨゴれちゃいそうですし、そこは全力で止めますけど……紅茶を淹れますので、疲れは洗い流してくださいね♪」


「わーっ、ホント? すみれちゃんの紅茶とか癒されまくりだわー♡ 全身全霊ぜんしんぜんれぇ誠意セーイをこめてゴチになりま―――――――えっ?」


「? どうしたんですかルナさん、今まで見たことないくらい、謎の絶句を……えっ本当に何なんですか? 悪霊でも出ました?」


 ちょっと背後を確認してしまうすみれ、だがルナは何やら青ざめた表情のまま、すみれを凝視ぎょうししつつ――問うた。


「……あ、あのさ、すみれちゃん、もしかして……何か、悩みゴトでも……ある?」


「へ? や、いえ……別に特段、何も……あ、いて言うなら、文芸同好会をエロ研究部だとか言い張り続ける方々がいらっしゃる、とかですかねー……」


「なるほど、それエロ研の話は冗談だよね……ううん、冗談でごまかそーとするなんて、やっぱりオカシイ……ね、すみれちゃん。何かあったんでしょ? 大丈夫、アタシは絶対ズェッテェー味方だから……お願い、言って?」


「え、ええ……? まず冗談でもないですし、それに悩みとか本当にないんですけど……そもそも、何でそんな風に思っちゃったんですか?」


「何で、って……そりゃ、さ。……ねえ、すみれちゃん……あの、さ」


 本当に、幽霊か何か見えてしまったのでは、と疑いたくなるほど――ルナは、かつてなく、深刻な表情で。


 すみれを真っ向から見つめつつ――――ついに、聞いた。




――――――――――

 ――――?」


「そんなにですか?」



 そんなにかな……そうかな……そうかも……。


 まあ、すみれのツッコミは即座だったが、続けて〝目が疲れただけですよ〟と簡単に説明しようとする――その直前、今度はカヲリが部屋に入り。


「ンォッほぉ~~~勉強しすぎたぁ~エロ研究部らしい息を吐くほどに! いやもうマジ疲れたぜ~。おっ、ルナとすみ……れぇっ!? ……あ、その、すみれ……何つーか、その……メガネ切った?」


「そんな〝髪切った?〟みたいな質問あります? ありえないですよね?」


「あ、そ、そっか、そだな。ウチとしたコトがうろたえちまって……その、アレだ、なんか……失恋でもしたのか? ……げ、元気出せよ、な!?」


「それだと眼鏡を外すたびに失恋することになっちゃうじゃないですか、お風呂や寝る時とかどうするんですか。もう……ちょっと目が疲れて、外してるだけで――」


 その簡単な説明さえすれば、すぐ終わる話――だが、その前に花子が入ってくる。何なのよアンタら、タイミング見計らってんの? いい加減にしなさいよね……。


「オーッホッホッホ! ご機嫌よう、皆さ……マアアアアアすみれさん!? なっ、あっ。………………」


花子フローラさん、あなたまで……今度は何ですか、もう」


「……ど、どっ……どっこのドイツNo欧州☆じゃあああすみれさんをけがしやがりましたんわぁぁぁぁ! ブッチメて差し上げますわよオラァァァァイッ!!?」


「そう飛躍しますか花子ハナコさん……」


「ハウアァァァ!? すみれさんがわたくしをハナコと……これはもう、間違いありませんわっ……何か悲しいことがあり、心が乱れている証拠! 誰でやがりますの!? オメーかルナ公!?」


「違うわ花子ハナコちゃん。満更マンザラでもないケド☆」


 満更であれよ。


 さて、静かだった室内が、盆をひっくり返したような大騒ぎ。その渦中にあって、先ほどまで冷静にツッコんでいた、すみれは――


 ――ぷいっ、とそっぽを向き、頬を膨らませていた。


「……ふーんだっ」


「えっすみれちゃん可愛い……じゃなく、ど、どしたの? ……あ、あれ、すみれちゃん? お~い?」


 ルナが呼びかけるも、返事せずそっぽを向き続けるすみれ。


 カヲリも花子も慌てだす中、ようやくすみれが発言したのは。



「……皆さん、どーやら私のことなんて、眼鏡の付属品としか思ってらっしゃらないよーで」


「「「――――――――」」」



 拗ねちゃったすみれの言葉に――発射された弾丸の如く、ルナと花子が飛びつき。


「ちっ―――違うわぁーーー! 違うよぉーーすみれちゃん! すみれちゃんがイッチバンだから! さっきのジョォーダン! マイコォジョオーダァーン!」


「ごごごめんなさいですわぁー! いえなんかあったんちゃうかと心配してたんはホンマですけれどもっ……ちゃうねんですわ! 眼鏡なんかより、もちろんすみれさんが大事でぇじですわよーっ!?」


「フーン……どうだか、ですねー?」


「「オアァァァァアン!!」ですわ!!」


 すみれに縋りつく勢いで、慟哭どうこくを叫び、〝すんまそん!〟〝ゆるしてつかぁさい!〟〝対戦オナシャスお願いしますの意!〟とチヤホヤ(?)するルナと花子。


 だが、完全に乗り遅れたカヲリは、見た――妙なむせび方をするルナと花子にすり寄られる、そんなすみれは。


〝……ふ、ふふっ〟と含み笑い、不意にカヲリと目が合うと、すみれは自身の唇の前で人差し指を立て。


「………しーっ、ですよ♪」


「アッハイ。………………」


「ウオオン、ウオオンッ……すみれちゃん機嫌直して~!?」

「代わりに、代わりにっ……わたくしも眼鏡かけますからぁ~!?(イミフ)」


 そうして暫く、わちゃわちゃとしているルナと花子に構われつつ、機嫌を損ねたフリをするすみれを見て――ぽつり、カヲリは一言。


「なんつーか……エロ研究部の魔性の女だよ、すみれは……ウン」


 とりあえず、すみれだけは本当に怒らせるまいと、カヲリは誓うのだった。



 ……ちなみに淹れかけですっかり忘れて放置していた紅茶は、めっさめさとてもとても渋く苦くなっていたが。

 皆で「にげぇ~!」「しびぃ~!」と悶えながら、何だかんだで笑い合いつつ飲みました。


 ウンウン青春だな☆(よかったなァ~オイ☆)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る