第22話 卓球、楽しい~っ! いや~ホント……アンタはアタシに飛び方を教えてくれたかんね……☆(ピ〇ポンの話までする気かキサマーッ)

「まあアタシらエロ研究部的には、稲中〇球部か悩んだんだけどネ……☆」


「いきなり何の話だよルナ。まあ確かにウチら卓球しにきたんだけどよ」


 ルナにツッコむカヲリと、ラケットを持つすみれと花子――四人がいるのは卓球部が普段使っている第二体育室という、体育館よりは狭いが普通の部屋よりはよほど広い場所だった。


 もちろん卓球部は休みで、使用許可も取っている。卓球台も二台、既に用意されているが……にしてもこの子達、色んなトコで色んな遊びしすぎでは? 青春、満喫してんなァ~。


 んで(んで)、それぞれ既に体操着に着替えており――卓球台の前で、花子とすみれが会話する。


「ウームム……テニスは嗜んでますケド、卓球は初めてですわねー……まあテーブルテニスというくらいですし、意外と上手くできるかしら?」


「コートと台では動く範囲も大きく違いますけど……一番大きな違いは、卓球だとより回転スピンが重要になるかもですねー……初めてだと戸惑っちゃうかもです」


「なるほど、勉強になりますわっ……けれど初心者とはいえ、お嬢様として負けは許されませんわ。絶対負けない唯一の方法は、勝つことですわねっ」


「あっピン〇ンは知ってる感じです?」


 ちなみにすみれは経験者なので、シェイクハンドのマイラケットも持参している。ルナ達はほぼ未経験と知ってもいたので、初心者を困惑させない用に両面を表ソフトラバーにして配慮もしている。


※表ソフトラバーは表面に細かいツブがあって、反動でスピード出るけどやや回転かけにくいぞ☆

※裏ソフトラバーはツルツルだから回転かけやすいけど、初心者さん相手にはこくやんね……す~みん突然のあだ名は気が利く娘やんね……☆

※あと逆回転かけやすい粒高とかあるけど今回出ないし細かいこと言うな(だ、誰もなんも言ってないじゃん……)


 まあそれはそれとして、すみれはそもそもの疑問を呟こうとする――


「というかなぜまた急に卓球を……野球の話は一体どこに……まあ人数的に、現実的にプレイできる範囲ですけど、とはいえ文芸同好会なのに――」


「シッ! 静かにしな、すみれ……」


「えっ、カヲリさん? ……あ、ルナさんと花子さんがいつの間にか始めて……」


 すみれが目を向けた台上では、ルナと花子が打ち合っていた。その激戦の様子を音で表すなら〝ぽこぽこ〟というところだ。


 そしてカヲリは、なぜか目を閉じて耳をすましている。何でだよ、目の前でやってんだから見ればいいじゃない、目を開けなさいよ……。


「……金髪のほうは、カットマンか? ぜ、ぜ……前陣速攻ゼンジンソッコー? のほうが押してるみて~だな……」


「どっちも金髪なんですよカヲリさん。そして初心者ですし戦型スタイルとか無いっていうか、普通に打ってるだけなんですよカヲリさん」


「ほう、聞いたコトのねぇ音が……打った後、ボールが台を叩く音が二度聞こえたぜ……?」


「自陣のほうで落ちてから、相手の方に入りましたからね……(※普通にアウト)」


 恐るべきラリーの応酬、一言で表せば〝ぐだぐだ〟な勝負が、ついに終わり――その場に膝をついたのは、花子だった。


「――っ! ま、まさかこのわたくしが、敗北するとは……不如意ふにょいですわ!」


「あ、花子フローラさんが負けなんですね。……ルナさんのほうがアウト多かった気するけどな……ま、まあドンマイです」


「こうなったら、勝利のために……はみ乳サーブでも繰り出すしか……!」


「こらっ、年頃の乙女がそんなことしちゃダメですよっ。……まあ冗談だと分かってますけど、自分をもっと大事にしてくださいね?」


「! す、す……すみれママぁ……!(ですわ)」


「誰がママですかハナ花子フローラさん」


「えっ今ハナって……いえ気のせいですわね、赤子の心(※No孟子)に戻っちゃったから、幻聴が聞こえちゃったんですわきっと……」


 自己解決してくれて助かります(話が早~い!)


 さて、すみれと花子がイチャイチャしていると(そうでもないよ)、戦いの気運を高めたルナがすみれを手招きする。


「フフフ、なかなか煽ってくれるわねすみれちゃん……よろしい、ならば戦争だ。さあ、決戦バトルぅ☆とシャレこーべじゃないの……!」


「煽ってませんし、しゃれこうべじゃ髑髏どくろですよ……洒落しゃれこむんですね? ま、まあ良いですけど……じゃあ、よろしくお願いしま~す」


 一礼しつつ、ルナと台を挟んだ向かい側へ陣取る。へえ、ラケット交換も無しなんて、る気マンマンじゃん……☆


 ついに(二戦目)決戦の時――サーブはルナから始めるようで、左手でボールを握りながら不敵な笑みを浮かべている。


「フフッ、じゃあすみれちゃん……アタシが勝ったら、ちゃんと〝さん〟くれろ?」


「いつも〝さん〟付けてますよルナさん?」


「さあ、行くわよっ……大和魂ッ!」


 威勢の良い一喝と共に――〝ぽこん〟と打たれたサーブが、なんか思ったよりイイ感じにすみれ側のコートに入りましてん。


「上手ですよ~ルナさん。……えいっ」


 一方、すみれは落ち着いた眼差しでボールを捉え、羽毛を思わせる柔らかなタッチで――ラケットを巧みに操作し、ボールを撫でるように打ち返す。


 ふわりと宙を舞ったボールが、ルナの目の前に躍り出ると――打ち頃に調整されたボールに、ルナはギラリと目を輝かせた。


「! これはっ……アタック、チャ~~~ンスッ!」


「スマッシュですよルナさーん」


「い、今こそ、は、はみ乳……ムリ間に合わっンオッワッオリャアァァァ!」


 ルナは、なんかてんやわんやな感じで、でもがんばって全力で打ち返したよ。


 そして、渾身の力で放たれたスマッシュは、見事――


 ――大ホームランで、すみれの遥か後方の壁にぶつかった。


 文句なしのアウトです。


 ……さて、そんな見事な大アウトをかましたルナは、なぜか背を向けて、満足そうな微笑みを浮かべながら。


「フフッ。……ここはいい、ここは素晴らしい」


「特に白一面の空間でもなく、ただの第二体育室なんですが、ここで良いんですか?」


「すみれちゃん……また、連れて来てくれる?」


「まあ卓球部さんがお休みで、許可が取れれば……」


「そうさっ……」


「特にかっこよくはなかったですよ? ルナさん」


 すみれの色々な意味で的確なツッコミに、ルナは再度〝フフッ〟と笑う。


 ……と、そうこうしている間に、もう一台の方でも打ち合いは始まっていた。花子とカヲリである。


 花子は、何やらアライグマのようにワチャワチャしている気はするが、テニス経験者の運動神経――少しずつ慣れてきてはいるようで。


「ふおっ、な、なかなか難しいですわね、でもコツが掴めてきて……っちょわぁ! あー、打ち上げちゃいましたわー……」


 ボールは相手側のコートに入ったが、大きく弾んで宙を舞い――宙を、舞い。


 ―――――刹那。


「――――ハッ!!」


「「えっ」」「ですわ?」


 跳躍した――ラケットを大きく振りかぶった体勢で、カヲリが――人間一人分さえ飛び越えそうな、大跳躍をし――


 ――――宙を舞うボールに、自身のラケットを、渾身の力で叩き付け。



「――――――フンッッッ!!!」


「ひぇぁっ(ですわ)」



 隕石のような勢いでコートに着弾したボールが、巨大風船が弾けたような音を立て、反応など不可能な速度で花子を横切っていく。


 そして、スタッ、と着地したカヲリは……今しがたスマッシュを繰り出した右腕を、軽く回しながら呟いた。


「うしっ、準備運動はこんなトコだな……んじゃ、続けっかー。……ん? どしたよ花子ハナコ……つかルナもすみれも、ボーッとしてどーした?」


「「「………………」」」


 花子でさえ〝フローラじゃい〟と訂正するのも忘れ、沈黙する。


 暫くして、ようやく口を動かした三人が、揃って同時に放った言葉は。


「「「ヒーローじゃん」」ですわ」


「んおー?」


 カヲリヤツはモノが違うからね、仕方ないね……☆

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