第20話 縁って廻るよね、ロマンチックじゃん♡ ……えっ昔のこととか覚えてるかって? まあ、まあまあそれは……ね、フフッ(誤魔化し)

「カヲリちゃんってさー、昔どんな子だったー? やっぱ元々、スポーツとか得意だったのー?」


 ルナ、カヲリ、そして読書中のすみれと、定番の三人の室内で――だら~んと上半身を机に預けていたルナが不意に尋ねると、カヲリがのんびりと返事した。


「んお~……? あー、そーだなー……小学生くらいまでは、男子とかにも混じってサッカーとかバスケやってたな。あとドッジボールとかもか。まあ、あの頃は女子も混ざんの割と普通だったけど、何やるにせよドカドカぶっ飛ばしてたよ、男子共」


「ウッヒョー♪ カヲリちゃんらしーわねっ。……ちなみに野球とかは?」


「ボール投げたら大体はキャッチされずぶつけたりするからな……あと細かいルールとかよくわかんねーし。まあルールよくわからんの今もだけど。ガハハ」


「にゃるほどねー。まあアタシも野球のルール、詳しく知らないな~。ていうか大体のスポーツ、ルールそんな詳しい自信ナイけど。にゃはは」


(いやルール良く知らないのにしょっちゅう第三野球部の話を? いえまあ、スポーツ漫画が好きだからって、その競技に詳しくなるとは限らないでしょうけど……)


 ちなみにすみれは真面目なので、野球のルールも結構詳しい。そもそもルナ達がやたら第三野球部の話をして、読んでみたことがきっかけなのに……ドウシテ……。


 何となく腑に落ちない気分でいるすみれに、ルナが続けて語り掛けた。


「そ、それでそれで……すみれちゃんは子供のころ、どんな子だったん? や、やっぱ昔から本とか読んで……清楚でお淑やかな文学美少女……もとい文学美幼女だったのかな……!?」


「へ? あ、美なんとかは良く分かりませんが……確かに昔から、本は好きでしたね。小学校に図書室あったんですけど、卒業までにほぼ全部読み切っちゃうくらいには……まあそれで視力が少し落ちて、眼鏡をかけることになったのかもです――」


やったぜやったぜやったぜやったぜ)」


「いえ何がで……いえそれどうやってるんですか? どう……どういう発音を!?」


 ルビにカッコにと駆使して一人四重奏カルテットするなんて、ヤルじゃん……♡


 さて、本当になぜだか〝やったぜやったんだぜ〟と噛みしめている表情のルナに、今度はカヲルの方から尋ねた。


「てか、そーゆールナはどうなんだよ? 子供んトキどんなカンジだったんだ?」


やったぜヤルねぇ……んえ? あ、アタシ? えーと、確かねー」


 人差し指を下唇に当て、んー、と思い出す仕草をしたルナが、あっけらかんと口にしたのは。


「アタシ昔、そういやイヂめられてたんだよね~。小学生の低学年くらいん時」


「「―――――えっ」」


「アホな男子共からね~。まあ大したコトない、軽~いくらいのだったんだけど。……えっ、あの、ちょ……カヲリちゃん、すみれちゃん? ど、どったの?」


 ルナはあくまで軽い調子だが、カヲリとすみれは少々焦燥しょうしょうしょうそう(早口言葉みたいやね……♡)しているようで、それぞれ気遣い始めた。


「その……まあ何だ、昔のハナシだしな! つか、もし今そんなんあったらすぐウチに言えよ。ぶっ飛ばしてやっかんな、そんなヤツ! ま、まあ茶でも飲むか?」


「そ、それで……大丈夫でしたか? ちゃんとその人達、砂にして埋めましたか?」

※砂にする=よーするに囲ってボコるってコトぞ☆ 真似すんなよな☆


「いやホント軽いのだし、そんな気ぃつかわな……いやすみれちゃんも珍しく強火だねぇ!? 逆に興奮するわ!(何でだよ) や、だからまー、何てーかさ?」


 思ったより深刻に受け止められて戸惑うルナが、うーん、と当時を振り返りつつ、いつも通りの明るい調子で説明した。


「いやホラ、アタシって見てのとーり、欧州おーしゅー生まれのママ譲りの金髪じゃん? でも生まれ日本だし、育ちもめちゃ日本だし……ぶっちゃけ英語とか一切よく分かんないんだよね。だから〝その見た目で詐欺みたいなヤツだな〟みたいなカンジで……いやまあ英語喋れないの今もだし、勉強苦手なんだけどね?」


「そうだったんですか……じゃあ今すぐ砂にしに行きましょう。大体、人を見た目で勝手に決めつけて、更に勝手な揶揄やゆをするなんて、許せません」


「オウすみれ、花子ハナコレイ先生も呼ぼうぜ。エロ研究部の絆の力、見せつけてやんぞコラ……!?(ピキッピキッ)」


「いやだからオチツイテ二人とも~!? ……それに、もーどーでもイイってか……むしろ、その~……ふ、ふひひ」


「!? る、ルナさん、どうして嬉しそうな顔を……まさか、Mマ……ゲフンゲフン……もとい被虐気質が!? だ、だからエロ研究部とか言い出して……!?」


「いやすみれちゃん、どえれぇ誤解してくれてんね!? 逆に興奮してくるわ!(だから何でだよ) ……そうじゃなく、その時にさ~……えへへ」


 戸惑うすみれを宥めつつ、ルナが幸せそうに語るのは――いじめられたというはずの、昔の思い出話で。


◆ ↓オイオイちゃんとした回想もやるんじゃん……♡↓ ◆


 それはまだ10歳にも満たないルナの、小学校の帰り道の出来事――


『ウェーイ! オマエ金髪なら英語喋れんだろー? 喋ってみろよ~!』

『ムリムリ~! だってコイツ、アイアムアペンおめーペンなのかよ。スゲーなもわかんねーんだぜ~!? おれなんてミンナに言って回ってんのによ~!』

『全く、困るんですよね。そんな見た目で詐欺のようなムゥブをされては。クイッてやりますよ自分は。このグルグル眼鏡をクイッとね』


 しょっちゅうそんな絡み方をしてくる三人組に、それでもいつものルナなら、

〝イヤミか貴様らッッッ!!!〟と一喝して追い払うのが常……だったが。


 この日ばかりは、そういう心持ちだったのか、どうしてなのか……今となっては、ルナ自身にも思い出せないのだが。


『っ。……ぅ、ふぇ……え~ん……』


 泣いてしまった――泣いてしまうと、どうにも止められず、視界が滲むほどに涙が流れてしまい。


 そんなルナに、けれどまだ幼く配慮できない少年クソガキども……あら失敬☆らは、自分達の気持ちを口に出すばかりで。


『ホントよ~金髪のクセに英語も喋れないんじゃ……もうただの美少女っつーか……か、勘違いすんなよ、別にオメーのことなんて好きじゃね~しウェ~イ!?』

『まあだから、おれみてーにアタマよくなれって……べっべつにベンキョーおしえてやるとか言ってないですけどぉ~!? カンチガイすんな、ぶ~すっ!』


 オマッ、バッ……バカッ! 悪手……それは悪手! 〝好きな子にはイジワルしちゃう♡〟とか現実には通じねーから! 相手の記憶にはいじめられたっつー、ただただネガティブな記憶しか残ってねーから!

 後の同窓会とかで〝オレ昔、ホントはおまえのこと好きだったんだよね~(笑)〟とか言っても、相手の子がその場は愛想よく繕ってくれても、心の中じゃ反吐ヘドしか出てねーから! ガキん頃の悪行はそのままオマエの罪の歴史だかんね!?


 ……アッすいません取り乱しました……まあまあ、子供のやることなんでね――


『でも泣き顔もね、そそるというかね。こう、ゾクゾクするんですよね。自分は焼き付けますよ。クイッてやったグルグル眼鏡越しに回想ルームに焼き付けますよ』


 オマエはもう手遅れだから帰れ。


 さて、幼いルナが涙し、それに絡む男子三人組――そんな渦中に、幼くも清廉な声が割り込んできて。


『―――女の子をよってたかってイジメるの、楽しいですか?』

『『『――――!?』』』


『………ふ、え?』


 涙で滲んだルナの視界はぼやけて、薄っすらとしか見えない――ただ、どうやら止めに入ってくれたらしい女の子が、今度は絡まれているようで。


『なっ……お、オメーにはカンケーねーだろ! どこのどいつか知らねーけど……イマ、この英語もしゃべれね~金髪とハナシてんだからよ~!』

『そ、そーだそーだ! ちょっとカワイーからって調子ノんじゃねーぞ! オウフッ……ど、どっかイケよ! しっ、しっ……Shit down!(座ればいいワケ?)』

『おやおや、飛んで火にいる蝶々ですねぇ。いいでしょう、美少女二人、泣き顔を並べるのもオツなもの。さあ、泣きわめきなさい……嘆きこそが美しい……!』


 最後のヤツは何なんだよ。魔王かなんかか。


 さて、女子ならば、三匹もの男子クソガキに絡まれれば、本当に泣き出してしまうかもしれない――と思いきや。


『――Can you guysそういうあなた達は speak English英語を喋れるんですか?』


『『はっ、へっ……はっ??』』『…………』


Can't you speak喋れないん Englishですか? at that levelそんな程度で...make fun of people人をバカにするとか


 早口でまくし立てられ、もはや何と言っているかも分からず呆然とする三人組に――謎の少女は、トドメの一言。


That's not coolカッコ悪いですね♡』


 ルナも、恐らく男子共も、何を言っているのか分からないが――語感から完全に小馬鹿にしているのは伝わったようで。


『う、ううう……お、覚えてろよーチクショ~~~!』

『クソッ、クソッ……なんか、なんか……ドキがムネムネすんぞクッソ~~~!』

『なるほど完全敗北、そういうのもあるんですねェ……イイですね、背筋がゾクゾクしてきましたよ。新しいセカイが見えたので帰って即座に浸りますよ自分は』


 どうやら男子共は、逃げ去ってしまったようだ。


 ……さて、謎の少女に助けられた、ルナはというと。


『っ。ぁ、の、ありが……ぅ、うぅ~っ……』


 安堵感も束の間、初対面の人に助けられ、しかも泣いてしまっている、その恥ずかしさから――むしろ涙はより溢れ出し、そのことが更に恥ずかしくて、と悪循環に陥ってしまい。


 ……けれど、助けてくれた謎の少女は、あくまでも優しい声音で。


『――もう大丈夫ですよ。変なヒトたちは、どっか行っちゃいましたから。……これ、ポケットティッシュですみませんけど……使ってください。』


『ぁ、う……ぐ、ぐしゅん。チーーーンッ』


 受け取ったティッシュで豪快に鼻をかんだルナに、少女は静やかな声で――


『ふふっ。それでは、私はこれで……Adiosバイバイ♪』


『! ま、待っ……んぐ、んぐんぐ。ぷは……あ、あの――あっ』


 ルナが慌てて顔を拭き、どうにか視界が開けた時には――既に少女の姿は無く。


 礼を言えぬまま、名も聞けぬまま――そんな心残りもあったが、けれど。


『……か、か……カッコイイー……♡』


 顔も知らぬ君への、温かな憧憬どうけいの情を、ルナは今でも覚えている。


◆ 回想終わりなのじゃ。のじゃロリじゃ。敬ってへつらえ ◆


「―――てぇコトがあってさ~……もうホント、チョーカッケかったのよー♡」


 話し終えたルナが恍惚こうこつに浸っていると、カヲリも納得したように頷く。


「そりゃ大したヤツだな~……男子共の反応といい、聞く感じじゃルナとそんな歳も離れてなさそうなのにな」


「そーそー! んで、その子のおかげかなー……今までウザ絡みしてきてた男子共も、よっぽどコリたのか何なのか、それからあんま近寄ってこなくなってさ……ホント助けられちゃった☆」


「なるほどなぁ~……ああ、そんでルナ、すみれみたいな知的キャラ何となくヒイキしてんだな? な~すみれ……ん? すみれ?」


「………………」


 カヲリに声をかけられても、すみれはなぜか無言で――こめかみを指で押さえつつ、思うのは。



(………それ………私だ………)



 心当たりを、はっきりと思い出したらしく――すみれが、続けて思うのは。


(考えてみれば、通っていた小学校もこの近辺で……ルナさんもそんな感じなら、すれ違うなりしていても、おかしくはないですよね。……でも、でも……絶対に、バレる訳にはいきません……だって、だって……!)


 正体を隠さねばならない、その理由とは――


(―――あんな英語、ぶっちゃけGoogle翻訳レベルなんですよ~!? いくら小学生とはいえ……人助けのためとはいえ! ドヤ顔で! 未熟な英語をご披露して! そんなの、恥ずかしすぎるんですってば!?)


「んも~、その時の子……すっごい知的で、英語ペラッペラで~……めっちゃクールだったし、いつか会ったらお礼とか言いたいなってぇ~♪」


(うおおルナさんその英語ペラッペラは薄っぺらのペラなんですよ~! し、しかも最後、最後……わ、私、なんて言った……なんて言った昔の私ィ!)


 心の中でキャラぶれが起きるすみれに――トドメは恍惚のルナが発する。



「別れ際の〝Adiosあでぃおっす♪〟……もう耳に沁みついて、死ぬまで永遠に忘れらんないわ~♪」


「………………」



 沈黙するすみれの耳に、脳裏に響く、〝Adios〟〝Adios〟〝Adios〟……。

 完全に羞恥に打ちのめされたすみれが、両手で顔面を覆いながら叫ぶのは――



Domine, quo vadisどこへ行かれるのですか!? 私は磔刑たっけいか~~~!?」



「!? すすすみれちゃん、どったの!? 時が加速する系!?」


「ご乱心か!? なんか知らんが発音イイな~オイ~!?」


 ルナとカヲリに心配される、お元気なすみれ。


 いつか笑って話せると良いよね☆(済ますな)


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