第19話 五月も末でもうすぐ六月☆ ……最初からこんな風に何月かとか出すようにしておけば……私(作者)はいつも大切なことに気付くのが遅い……遅すぎるんだ……(元気で~す☆)

 ルナとカヲリが雑談するいつもの室内で、静かに座って本を読んでいたすみれが、珍しく話題を切り出す。


「そういえば五月も今日で終わって、明日からは夏服ですね。とはいえまだ少し冷え込む日もありますし、私、冷え性だから少し心配で――」


「………………」


「え、あのルナさん、何でこっちを凝視して……あの?」


 無言で見つめられて戸惑うすみれに、状態異常でも付与しそうなほど凝視するルナが、ようやく発した言葉は。


「肌を露出するのか……アタシ以外のヤツに……」


「いやそんな〝結婚するのか……〟みたいな真面目顔で言われても……というかそれ言うなら、ルナさんもじゃないですか。学生さんほとんどそうですし」


「まあそうなんだけどネ! でも冷え性なんだね、すみれちゃん……ちょい心配だし、いざって時のために使い捨てカイロとか持っとくのオススメだよー☆」


「おぉ……そ、そうですね、ありがとうございます。……ルナさん本当、意外と細かいことまで気が付くっていうか……自然と気遣いできるの凄いですよね」


「ポエッ!? えええそうかな? ってかすみれちゃんイキナリ褒めっからビックリすんじゃ~ん、いっつもサ~!」


 慌てて身振りしつつ嬉しそうなルナ、に――しかしカヲリは苦言を呈す。


「おいおいルナ、エロ研究部の頭領アタマとして恥ずかしいぜ……今のはすみれなりの〝冷えたアタイをアッタメて♡〟って誘い文句だろがよ……!」


「!? マジで……!? 〝アタイを求めなさい……♡〟って計算問題だったの!? さすが知的なメガネっ……!」


「そんな計算ありませんし、なぜ私はレディースか何かのようなキャラに?」


 すみれが冷静にツッコんだ、その瞬間――バタン、と扉を開いて花子が入室し。


「温められるんですの……? わたくし以外のヤツに……」


「この流れ、文芸同好会内で流行ってるんですか?」


 すみれのツッコミはあくまで冷静、スムーズで超助かります(私情)。


 それはさておき、扉を閉めた花子は何やら不敵な笑みを浮かべ、室内の面々に向かってもったいつけながら言葉を発した。


「ウフフ、カイロを常備するのも良いですが……されどこの部室内では必要なくなりますわ。そう……もう明日からでも、ね……!」


「!? なっ……ど、Do youどーゆーコトなの花子ハナコちゃん!? ま、まさか……!」


「フローラだっつてんスわよルナこう。……んで、聞いて驚きなさい……今日わたくし達が帰ってから、夜の内に工事して頂き……この部屋に冷暖房完備のエアコンを設置いたしますわ――!」


「さ、さっすがホーエンハイム財閥の御令嬢じゃ~ん! ヒューヒューッ! カ~ッコイイ~フローラちゃん!」


「ホ~ントこんな時だけ正しく呼びやがって調子の良い女ですこと! オラオラもっと褒めそやしなさ~い!?」


 調子の良さは負けていない花子に、ルナとカヲリが〝ヒューヒュー!〟〝ヒュッ、ゲホッ〟(むせた)と喝采を送る。


 ……が、すみれは花子に耳打ちし、おずおずと問いかけた。


「あ、あの、花子フローラさん……良いんですか? 冷蔵庫とかテレビとか、既に色々とこの部屋に置いてもらってるのに……エアコンまでって、さすがに申し訳ない気が……」


「あら、構いませんわ。エアコンだって、お父様の子会社が在庫処分に困って、あとは廃棄する寸前だったものですし……それにわたくし自身、これから夏に向けてエアコンがあれば、過ごしやすくなってありがたいんですの。……ま、まあついでに皆様も過ごしやすくなれば良いじゃないですのって、べっ、別にそれくらいなんですからねっ! ふんっ!」


「なぜ突然のツンデレ風味に。いえ内容は普通に素直なんですけれど……ま、まあ、ですがそれでも……ありがとうございます、花子フローラさん♡」


「! お、オウフッ……い、いいんですのよ、すみれさん! これくらいのことっ……わたくし達、親友ベストフレンズ♡ですもの~!」


 花子、超上機嫌――とその時、またまた扉が開き、顧問教師・れいが入室してきて。


「親友になったのか……あたし以外のヤツと……」


「やっぱり流行ってるんですか? その流れ。そしてしくも黎先生が一番似合いますね、コレ……」


 すみれの言う通り、黎先生、威圧感あっかんね……☆


 それはさておき扉を閉めた黎が、花子へと語り掛ける。……ていうか二人の絡み、これが初めてじゃんね。アッごめんね話の腰を折って……続けて続けて☆


「ふっ、えあこんの件は、あたしも設置の承諾を既に出している。正直、助かるぞ……すみれと同じく、やや冷え性なものでな。夏場にしても、過ごしやすく快適なのは有難ありがたい……感謝するぞ、ほ、ぇ……ほぉえんはいみゅ」


「アッハイ。……あ、あのー鬼河原おにがわら先生……わたくしの苗字、呼びにくいんでしたら、フローラのほうで全然構いませんですわよ?」


「! お、おお……気を遣わせてしまったか、すまないな、横文字には慣れなくて。では有難く呼ばせてもらうぞ……ふろぉら」


(い、違和感が……違和感がハンパねーですわ! でも絶対ワザととかじゃないですし、指摘すんのも何だか申し訳ねーですし……な、慣れるしかないですわね、わたくしのほうが……)


 れ、黎先生は黎先生なりに、努力しているから……!


 さて話が進んだところで、黎が室内のメンバー全員を促すように発言した。


「というわけで、だ……簡単な工事らしいが業者さんが入ってくるからな、今日は早めに切り上げるとしよう。宿直の先生が立ち会ってくれるそうで、合鍵も既に渡してあるからな。で、だ……江神えがみに聞いたところ、ふろぉら一押しの喫茶店があるそうだが……今日はそこで話に花を咲かせるとしよう。もちろん奢りだぞ♪」


 奢り――その言葉に真っ先に食いついたのはカヲリで。


「! マジすか黎先生ッ……ち、ちなみにケーキとか頼んでも……!?」


「ふっ、無論だ……呂波ろなみの活躍は有名だしな、運動部の助っ人、すこぶる評判が良いぞ。存分に食べて、大きくなれ♪」


「あざっす! 巨大化しまーす!(無茶言うな) ふへへ、あそこのチーズケーキ絶品なんだよな、楽しみだなぁ~♡」


「ふふっ。まあ……あたしも正直、あまり目立った趣味が無いし、給与の使い所もいまいち無くてな、遠慮は不要だ。……晴耕雨読せいこううどくとまでは言わないが、よい越しに酒を流し込んで時代劇でも観るだけの、味気ない生活と比べれば……おまえ達と一緒に語らう時間のは、若い活力に満たされて充実するのさ……」


(……何だかもう言葉の節々が渋めですし、若い女性を主張する割にお金の使いみちに乏しいのもアレですが……ま、まあ個人の趣味ですし、ね……ウン)


 すみれ、細かいことは心の中にしまっておくと決めた、空気の読める子。


 というわけで、今日は少し早めに切り上げて、帰り支度をしたエロ研究部文芸同好会の面々が順番に退室していく。


 そして最後に部屋を出ようとしたすみれが、軽く振り返って物思う。


(……冷蔵庫があって、テレビもあって、Blu-rayレコーダーまで置いていて……さりげにスマホ用とかの充電器も置いてあって、実はWi-fiもあるんですよね……その上、冷暖房完備のエアコンまで付いちゃうって……)


 ぼんやりと考えながら、すみれが鍵を閉めつつ、扉上部のプレートを眺めて。


(……〝エロ研究部〟とか言ってる、ただの文芸同好会の設備が……めちゃくちゃ充実して快適になっていく……い、いいんですかねー、本当に……)


「すみれちゃ~ん、どったのー? 早くイコっ♡ あっ今のちょっとエロ研究部っぽ~い♡ そーでもないかー?」


「あっ、はいルナさん、今行きます、別にエロ研究部っぽくはないです~(……まあいっか。私はもちろん、皆が過ごしやすいのが一番ですし……うんうん)」


 納得することにしたすみれが、そのままルナ達を追いかけた。


 そんなこんなで部屋にはエアコンが付いたし、今日の喫茶店トークも楽しかったみたいです♡


 もちろん第三野球部の話はした(もちろんって何だよ)。

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