第15話 ……今さら気付いたんですけど、おまえら性欲とか薄くないです? エロ研究部とか言ってるクセに? どゆコト?

「ンなコトないわっ! エロにスケベに興味津々だっつーのよ年がら年中!」


「うおっ急にどうしたルナ。なぜいきなり妙なカミングアウトを?」


「あ、ああ、ゴメンねカヲリちゃん……いやなんか、アタシらの存在意義がナニカに脅かされてる気がして……」


 もう恒例となったエロ研究部文芸同好会の室内での時間。急に叫びだしたルナにツッコむカヲリだけでなく、すみれも気にして様子を伺っている。


 あと今日は開幕、花子いるぞ。フルメンバーでよかったな☆


「全く、いつもながら急に変なこと言い出しますわねぇ……そもそもわたくし達、文芸同好会ですわよ、お下品なお話なんて別に――」


「ナニ言ってんの、人呼んで〝おチン夫人〟とか〝ペニスの商人〟とか呼ばれてる花子ハナコちゃんこそ、我らがエロ研究部の顔とさえ言えんのに――」


「ハナコじゃなくフローラだし、もういい加減そのあだ名を引っ張んのヤメとけやですわ! いよいよ怒られますわよ!?」

※第二話参照、とか書き続けんのもしつこいじゃない。まあしつけぇのも結構、嫌いじゃないですケド……♡


 憤慨する花子だが、ルナはといえば〝フフッ〟と軽めに対応して、そんなことよりも(失礼)と、重要な話に着手した。


「とにかく……イイ? エロ研究部(言い張る)のアタシ達が、〝全くエロとかないジャ~ン! ププーッ!〟とかコケにされちゃ黙ってらんないわっ……第三野球部のハナシばっかしてる場合じゃないのよ!」


「そらわたくしも、何でしょっちゅう第三野球部の話をしてんですの、って思いますけれど……あと別に誰にもコケにされてないと――」


「だから今こそ――エロトークぶちかまして! アレしてやんのよ、アレ……あー何だっけ、なんか返上……顔? とか、ツラ? とか……あー、その……」


 花子のツッコミより、言葉が出てこず悩むルナが――ようやく発した答えは。


「顔面返上?」


面目躍如めんもくやくじょですか?」


「あ、そうそう、そんな感じのソレ。あんがと、すみれちゃん☆ んでその、メンモクヤクジョ? して……汚名挽回すんのよ!」


「汚名は返上したいところですが……エロ研究部だとかに相応しくという話では、結果的に汚名挽回が正解っぽくなっちゃいますねぇ……それで今日は、猥談わいだんが活動内容、ということになっちゃうんですか?」


「Yだ……? あっ、ウンウン、そんなカンジ……エロトークかまそーぜっ☆ このエロトークが、アタシ達エロ研究部の命運を握ってるのだーっ!」


「ヤな命運ですねぇ……でも猥談と言われても、うーん……何かあるんですか?」


 付き合いもそれなりで、ルナ達の性質を掴めてきたすみれ、何となく察しつつ問いかける。あらあら、イイ感じに絆を深めてんジャン……♡


 対して、ルナは不敵に笑いながら――カヲリのほうを向き。


「なんかアル? カヲリちゃん」


はえぇ~なぁ~白旗がよ。本当、エロいハナシとかも全くねぇ、何だかんだで純な女だよルナは。……でもウチもな~、なんかって言われてもな~……」


「う~ん、そーよね、アタシら女子校だし……何だかんだで、そんな簡単には思いつかないわよね――」


「あ、そういやこの前、夜道で露出狂の変態と遭遇エンカウントしたぞ。コートの前を開いて見せつけてくる定番タイプ」


「どええぇー!? 大丈夫だったのカヲリちゃん!? てかブッ込んでくるじゃんナカナカのヤツ! そ、それで、どうなったの……? カヲリちゃん意外とカワイイとこあるし、〝きゃっ!〟みたいな反応しちゃった……?」


「お、おお。そうだな、えーと、その時は……」


◆ ↓回想だぞ☆ 最近多いな、なんかな☆↓ ◆


 露出狂の変態に遭遇してしまったカヲリ、果たして彼女の反応とは――!?


『――オイ、そのきたねぇモンとっとと仕舞えや。捻り潰すぞッッッ……!』


『………ヒイッ………』


◆ 回想、終わればすべて事も無し ◆


「―――で、警察にブッ突き出して終わり。まあ暗かったし良く見えなかったし、感想も特にねーな……イザとなったられい先生直伝の一発お見舞いしてやんだけど、まあ命拾いしたよな。変態アッチが」


「……お、オウ……カヲリちゃんは、さすがね……カッケーわね……」


「へへっ……よせやァい」


「カワイイ……とばかりは言いがたいわね、今回のエロトークに関しちゃ……!」


(今のを猥談に分類しても良いのでしょうか……武勇伝の類では?)


 すみれが心の中でツッコむ最中、呆れ顔の花子がルナに苦言を呈する。


「全く、カヲリさんも乱暴ですけれど……そもそもこんなよう分からんことに情熱を燃やさなくても良いんですわ。エロだとか何だとか、お嬢様学園の一員として、もっと慎みをですわね――」


「え~そんなコト言うけど……花子ハナコちゃんチ〇コ大好きじゃん♡」


「フローラだしすっすす好きなわきゃねーでしょ!? だっからそーゆーお下品な話をやめろっつって――」


「あっ伏字にしちゃった、チョコのハナシね☆ ……んで、一体ナニを連想しちゃったの~? 今のだって引っ掛けってほどでもない、軽めのハナシなのにさ~?」


「ほぐわっ!? しまった反射的にッ……お、お……おのれ~~~! ですわ!」


「今さらだけど〝ですわ〟に対する謎の執着よ。でもまあ残念ながら……どーやらまだまだ卒業は無理みたいね、おチン商☆」


「りゃ、略すなぁ、ですのっ……ち、ち……チックショーーー!」


 なんかお笑いの太夫みたいになってきたな、お嬢様……。


 それはそうと、エロ研究部などと言い出した張本人でありながら、卑猥な経験に乏しい女・ルナが、こめかみに手を当てて悩む。


「う、うーん、せっかくカヲリちゃんも花子ハナコちゃんもブッ込んでくれたのに、不甲斐ないわねっ……アタシにでもなんかこー、人生に一度くらいは……思い出メモリーを検索、検索……くっ、回想モードに入っても何の画像も出てこねぇわ……!」


「そんなゲームか何かのような……無いなら無いほうが健全ですよ、ルナさん」


「す、すみれちゃん、でもアタシ、こんなんじゃ情けないヨ……栄えあるエロ研究部の初代メンバーなのにっ!」


「まさかとは思うんですが、部員を増やしたり後輩に継がせたりしようとか企んでます? そんな恐ろしい計画やめておきましょうね? ……でも、うーん……」


 ふむ、と考え込んだすみれが、読むのを中断していた本を見つめ――ブックカバーの付いたを、軽く掲げた。


 ルナとカヲリは難しい文章が苦手で、その本の内容は良く知らない。

 花子は母が日本人だが、父が欧州系貴族で、中学時代は海外に在住していたこともある、いわゆる帰国子女――それゆえに難解な漢字は得意ではない。


 つまりこの中の誰も、すみれがいつも読んでいる本の内容は知らない――それを理解しつつ、すみれは爆弾ぼんば~☆を投げ込んだ。



「……、私が読んでいるに、があるとしたら……どうします?」


「――――――!?」


「あまつさえ……自分自身でも、文章を執筆しちゃっていたら……どうします? もちろん……セルフレイティングに〝性描写有り♡〟とか付いちゃう感じの……!」


「……………ッ!?」



 室内に緊張感、奔る――と、それは実のところ、〝もしも〟と言いつつ爆弾を投げ込んだすみれも同様。


 正直、引かれるのが当然だろうと、すみれは思っている。だからこそ普段〝官能小説読んでますよ♡〟とは公言しないし(当たり前だが)、バレないようにしていた。

 ……まあ結構、際どいことはしていた気もするが、それはまあ、まあまあまあ。


 さて、言い出しっぺのすみれさんが、本を軽く掲げたまま考えるのは。


(話の流れでとはいえ、変なこと言っちゃいましたね……何ででしょう。……何かを試したかった、トカ? ……自分の行動ながら、よく分かりませんねぇ……)


「……こんな、清純そうな文学少女のすみれちゃんが、そんな……えっちぃの、普段から読んでるとか……そんな、そんなの……」


(……まあドン引きが当然ですよね、当然です。……〝なんちゃって☆〟で、軽く終わらせますか――)


 掲げていた本は戻しつつ、すみれが口を開こうとする――直前、ルナは。


「……そ、そんなの……むしろ逆に……興奮しちゃうかもっ……♡」


「……え、えええ……? なに言ってるんですかルナさん、興奮て……」


「や、だ、だってさっ……すみれちゃんがだよ!? もう見るからに落ち着いてて清純っぺえ文学少女の鏡(それじゃミラーだよ)なすみれちゃんがだよ!? えっちぃの読んでるかも、なんてギャップ、考えただけで……ゾクゾク~、ってぇ……♡」


 言葉通り、ふるっ、と軽く身震いし、頬を紅潮させたルナの表情は、どことなく蠱惑的こわくてきで――カヲリと花子も思わず口を挟む。


「……思いがけずルナにスケベなカンジが出てきたな、まさかコレはすみれの計算……? っと、ちなみにウチもすみれがエロ小説とか読んでたら、むしろ良いギャップだと思うわ。まあどっちかつーと〝おもしれー女☆〟方向だけども」


「わ、わたくしもすみれさんなら、逆にアリですわっ……つーか小説書いてるんなら読んでみてーですわ! 漢字あんまり得意じゃないですケド、勉強しますわー!」


 ―――――思いがけず。


 すみれにとっては、本当に思いがけず、だが――エロ研究部文芸同好会の面々は、全員が快く受け入れているようで。


 そんな反応に――すみれは驚く心中を隠しつつ、にっこりと微笑んで。


「……ふふっ、なんちゃって、ですよ♪」


 軽く流すと、カヲリは「ンだよー!」と、花子は「でも本当に何か書いたら読ませてほしーですわー!」と、それぞれ反応する。


 そんな仲間達の輪の中で、すみれが何となく暖かな気持ちになっていると……耳打ちか否かくらいの距離感で、ルナがウインクしながら。


「あっ、でもねー……ホントにエロ小説とか、そーじゃないとか……別に関係ないかんね。こーやって過ごしてきて、すみれちゃんのコト、アタシらちゃんと分かってきてっかんねー……ちょっとくらいでヒイたりなんて、そんなのナイナイ☆」


「! ……ふふっ、ルナさん、ありがとうございます♡」


「ん、んおっ!? おおんっ……や、そんなん当然だしー、当然っしょー!? う、うへへ……」


 思わず変な笑いが漏れ出るルナに、穏やかに微笑むすみれ。


 騒がしいのはいつも通りだが、そういえばエロトークだとか言い出したのがキッカケとは思えないほど――何となく和やかな雰囲気で過ごすのだった。

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