第13話 今が何月かとか時系列の説明って大事だよね、わかるよ。……でも、もうちょい自然な感じでっていうか……メ、メタい感じはヤメロォ!

 ルナ、カヲリ、すみれ――ほぼいつも通りの三人で、落ち着いた雰囲気の室内。


 しとしとと、窓の向こうから緩い雨音が聞こえてくる中、不意にカヲリが――


「……それにしても急にエロ研究部なんて作ろうとか言い出して実行すんだから、なかなか思い切ったモンだよな~。だってウチらが高校二年生になってからだぜ?」


「待って。ちょい待ってカヲリちゃん。うん、ちょっと……一回落ち着かせて?」


 カヲリが急に降ってきた話に、ルナが何やら深刻な表情で、一つ間を置いてから改めて指摘した。


「何でその、イキナリ……現状確認みたいなコト言い出したの? ていうかアタシらが高校二年生なのとか、アタシら当たり前だけど知ってるし、改めて言うまでもないじゃん……?」


「ぉん……そ、そうだよな? 何でだろな? でも、なんかこう……そういや言ってなかったなって、ふと思って……」


「いやだから言うまでもなく、アタシ達は知ってるんだってば~! も、もー、なんか今さら急に言い出すから、ビックリしたよ。ホント、なんていうか……」


 はあ、とため息を吐いたルナが、腕組みしながら言うことは。


「エロ研究部が始まってから一ヶ月、五月も半ばとなった今の時期に、急にそんなコト改めて確認されるとビックリするじゃん~」


「いやなんかヤケに説明っぽくねーか!? 今が何月かとか、そんな具体的に言う必要あったか今!?」


「……ハッ!? そ、そうだよね? なんでアタシ、今……なんなの、何かの意思でも介入してんの……? こ、こわい……なんか怖いよぉ!?」


「ヒイッ……ま、まさかのホラー回……? 怖いのヤダー!」


「かかか回とか言うんじゃないっすよカヲリちゃん~!?」


 静かな雰囲気から一転、しとしと雨の音も余裕でかき消す二人の騒がしさ。

 と、そこですみれが、読んでいた本から視線を上げて話に入る。


「……そういえば私達、花子フローラさんも含めて二年から一緒のクラスになりましたけど……ルナさんとカヲリさんって、一年の頃から同じクラスだったんですよね? 最初から、そんなに仲が良かったんですか?」


「! す、すみれちゃん……ウマイ、ウマイね! 何がとは言わないケド!」


「さすがだぜすみれ! しかも自然と次の話題を提供してくれやがって……メガネっ娘知的キャラなだけあるな~!」


(いや何の称賛なんですか。……と言いたいですが、私も何となく空気を読んで、何も言及しないことにするのでした。うんうん……)


 すみれさんはツッコめて空気も読めるバランサー的存在、超助かる。


 さて、そんな彼女から受けた質問に、ルナがしたり顔で説明するのは。


「んで、アタシとカヲリちゃんの出会いね~、そりゃもうね! 当時〝西に月が沈む当たり前ルナ〟と囁かれ、同じく〝東から香り立つカヲリ〟と呼ばれ、互いに恐れられていたアタシ達は……東西を分けた天下割れ目の大決戦、後に聖コープルヶ原の戦いと呼ばれる争いを経て、ついに――」


「それで、本当のところは?」


「アッハイ。……えーと、確か入学式の後のクラスでぇ……」


 すみれの手短なツッコミを受け、畏まったルナが語るのは――


◆ ↓回想で~す♡↓ ◆


 入学式が終わり、初めてのクラスで級友となる人達と顔合わせする、緊張の時間。


 そこでルナが、隣の席になった背の高い同級生に、明るく語りかけ。


『こんちゃ~♪ アタシ江神えがみルナ、ルナって呼んでね~。これから一年よろしくネ、呂波ろなみさん☆』


『うぃ~。ウチもカヲリでいいよ。よろしくな~ルナ』


 で、何やかんや気が合って、今に至る。


◆ 回想終了じゃけぇのぉ ◆


 ついに明かされた壮大なる思い出話(一分未満)を聞き終え、すみれは暫し沈黙した後、感想を口にした。


「回想が短すぎて逆に怖いパターンと言うか……でも何というか、逆にものすごく納得できる感じでしたねぇ……適当さとか」


「ちょちょ、適当ってナニさ~っ、いや我ながら雑なのは認めるけども~!」


「いえいえ、良い意味で、ですよ。適当は〝ちょうどいい〟を意味する言葉でもありますからね、ふふっ♪」


「お、おおっ、すみれちゃん……ちょっと得意げな顔カワイイ……♡」


「いえ発言内容を褒めてほしいんですけど、って褒めろとか自分で言うの恥ずかしい感じになっちゃったじゃないですか。ていうか私そんな得意げなドヤっぽい顔してたって言われたら、それも恥ずかしいっていうか……もおっ」


 珍しく顔を赤くして身振りするすみれ、やるじゃん(何を?)。


 そんなすみれの様子に勢いを得たのか、今度はカヲリが逆に尋ねた。


「そういうハナシならさ、ルナとすみれの関係も気になるんだけどなー。接点なさそうなのに、エロ研究部なんかにいきなり誘うし……それこそ初めて会ったのだって、二年でオナクラなってからだろ?」


「むむ。……そうですよね、カヲリさんの言う通り、私もちょっと気になります」


 同意したすみれもルナに注目する、と、当人はやや慌てたように答える。


「へぁっ。い、いやまー、なんかスゴイ文学少女っぽい文学少女だな~、ってメチャ気になってたっていうか……部活とかも入ってなかったみたいだしさ~。誘ったら一緒に遊んだりできるカナ~とか、キッカケなんてそんなモンだよ? まあ初めて話しかける時、めっちゃ緊張したけどっ」


「え? ……そうなんですか? 緊張してた、って感じではなかったような……」


 すみれが言いつつ、ルナに初めて語り掛けられた日を思い返す。


◆ ↓回想、よろしおす……♡↓ ◆


 高校二年生になりクラス替えを経て、見知った顔に喜ぶ仲良しもいれば、緊張して硬直してしまう子や、きょろきょろと挙動不審になる子もいる。


 そんな学生特有の雰囲気の中、マイペースに黙々と読書する眼鏡をかけた文学少女に――明るく語りかけるのは、金髪が特徴的で快活な女子。


『オイス~☆ ねーねー美嶋みしまさん、確か部活とかやってなかったよねー? よかったらアタシとカヲリちゃん……あっ呂波ろなみちゃんのコトね、あそこ座ってる子ね? で、一緒にさー、部活やろ~よ!』


『……えっ、わ、私ですか? えっと……江神えがみさん、でしたよね? 部活、ですか? は、はあ……(すごい明るい子だなぁ……ていうか初対面と思えないくらい、距離感が近いですね、なんか)』


『やたっ♪ じゃあよろしくね、美嶋ちゃん~☆』


『……へっ!? いえ今の〝はあ〟は、別に承諾した訳じゃ……そもそも一体、二年の今頃から何の部活を――(ていうかもう〝ちゃん〟付けになってる……距離の詰め方が電光石火すぎる……)』


『よ~し、四人くらい揃えば、部として認めてもらえるっしょ! あと一人……例の超お嬢様とか有名な子も部活やってないらしーし、誘っちゃお~っと♪ これでエロ研究部、作れるぞ~☆』


『え。……このクラスの超お嬢様って、あの花子フローラさんのことです!? いや、お金持ちのレベルが段違いすぎて、他の生徒さんもお嬢様だらけのはずなのに、遠慮して話しかけるの躊躇ってるらしいのに……その積極的を超えた蛮勇は何なんです!? というかエロ研究部とは一体!? あ、あのー!?』


 そのままの勢いで、ルナは花子を本当に誘い――そして、この〝エロ研究部〟文芸同好会だっつの☆が誕生するに至った、という訳である。

※第一話参照


◆ 回想終了オワってンよ……!?(ピキッピキッ) ◆


 出会った頃の話を思い返しながら、すみれが改めて口にするのは。


「……いえ本当、ルナさん全く緊張してたようには見えなかった、というか……むしろアグレッシブすぎて、完全に圧倒されてましたよ私……?」


「いやいやいや、話しかけよーって決めるまでは、ものっそものすごくの意ドキドキしてたんだって! でもまー話しかけるって決めてからは、まあとりあえず行動イッてみっか☆ って感じでズァーッとイケちゃうんだけどさ~」


「考えるより行動派、なんですねぇ……私は消極的なほうなので、ルナさんの行動力が本当に羨ましいですよ」


「い、いやー、すみれちゃんもツッコむと決まってしまえばツッコみにいく、ツッコミのシグ〇イみたいなトコあると思うけどね~……」


「誰が虎〇流の跡目ですか。……いや今の私のツッコミも、女子高生としてはどうかって思いま……いやそんなこと気にしなくても良いのに、なぜ私は……?」


 考えるな、考えるんじゃない。


 さて、すみれが懊悩し始めた刹那、本能で生きられる女カヲリが、今回の話をまとめるべく口を開いた。


「……まあとにかく、ルナがこの変なエロ研究部なんて作ろーとか言ってくれたおかげでよ……何だかんだ楽しいよ、ウチも。……いっひっひ」


「カヲリちゃん……こっちこそノってくれてかたじけないわよ。もちろんすみれちゃんも、今日はいない花子ハナコちゃんもね。これがエロ研究部の、絆の力ってヤツよね……うえっへっへ」


「いえ文芸同好会ですってば、ていうか何なんですか、そのおかしな笑い方、ンフッ……んっ。……む、むっふっふ……」


 すみれも恥ずかしがりつつだがノったことで、ルナとカヲリも顔を合わせ――三人そろって。


「いっひっひっひ」

「うえっへっへっへ」

「む、むふふ……いや何ですかコレ、何なんですかコレ。……ん、ンフッ」


 いいじゃんね、こんな日があったってね(いいじゃんね)。


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