第12話 野球回……なるほど野球回ってワケね、フフッ……ウフフッ!(野球するとは言ってない)

「野球回があると人気が出るらしいわ……というワケで今日は屋外運動場にやってきました~☆」


「なぜ急に人気を意識しだしたんだよ。とは言ってみたが、人気は大事だかんな……お~し、いっちょやってやっか!」


「えっちょっ何なんですのコレ!? 急に運動場に呼び出された思ったら、マジ何が始まるんですのコレ!?」


 放課後の屋外運動場にて、いつものようにルナとカヲリが口火を切り、花子が戸惑いの声を上げている。


 と、すみれも後ろ髪を軽くまとめつつ、ルナに疑問を投げかけた。


「いつもながら唐突ですけど……他の運動部さんの邪魔にとかなりませんか? 私達なんていつもの制服姿ですし、それこそ野球部さんとか怒るんじゃ……」


「ン、残念だけどうちの学園ガッコ、硬式の女子野球部ってナイんだよね~……あったら頼み込んで、草むしりとボール拾いでもしながら愚痴りたかったんだけどさ~」


「いえだから、なぜまた第三野球部に寄せようとするんですか……しかも愚痴りを目的にするとか、妙な性癖を疑われかねないですよ。というか……硬式はありませんけど、確か軟式と……ソフトボール部はあったような?」


「どっちもね~、今日はお休み☆ だからすんなり貸してもらえたんだよね~。まあソフト部は強豪みたいだし難しいけど……うちの軟式は緩いらしいから、言えば混ぜてもらえるかもしんないけどね~」


「さ、さすがに文芸同好会が遊びで混ざっちゃ、申し訳ないですよ……でもとにかく、迷惑とかにならないなら良かったです。えっと、それで……野球? するんですか? ……といっても、その……」


「ふっ、言いたいコトは分かってるわ、すみれちゃん……打順とポジションをどうするか……そこよね、野球モノの燃えるポイントよね~!?」


「いえあの、そうじゃなく……ほんのちょっとでも考えれば分かることだと思うんですけど、そもそも――」


 すみれが何やら問題提起しようとする、が――そこでカヲリが口を挟みつつ、花子を指さす。


「ふーむ、んじゃ決まりやすそーなトコから聞くんだけどよ……花子ハナコ、テニスとかやってたりするんじゃね?」


「ハナコじゃなくフローラだっつーんですの。で、なぜ野球の話なのにテニス経験の有無を……まあやってますけれど、お嬢様の嗜みとして」


「わざわざお嬢様っぽさのためにテニスやっててくれるとか、かたじけねぇよ……そんじゃまあ、守備位置は左翼手レフトの、3番打者でスイッチヒッターだな」


「テニスが一体なんの判断基準になってんですの!? そんでスイッチヒッターとか、まあすんなりと無茶ぶりしてくれますことねチックショー!」


 文句も元気一杯、健やかなのは何よりな花子はともかく、今度はルナがカヲリに尋ねる。


「そこいくと、むしろカヲリちゃんこそ我らがエロ研究部文芸同好会だぞのホープじゃない? 運動神経抜群でしょ。この学園にだって、スポーツ推薦で余裕で入ってきたっていうし……ってコトはやっぱ、一番重要なピッチャーとか?」


「ウチ、ボール投げたら相手のほう飛ぶぞ。野球とかソフトならバッター目掛けて一直線」


「絶対にさせらんないわね、ピッチャー……即座に乱闘案件でRO伏字♡KIES展開だわ……」


「こんな意味を成してねー伏字、初めて見たな……でまあ助っ人に入る時は、大体センターで一番か五番とかだな。走力とパワーは学園の誰にも負ける気しねーし」


「カッケーわねカヲリちゃん。じゃあ総合的なフィジカルから判断して……センターで五番ってトコにしときましょ、長打力に期待ね。じゃあ、後は――」


「ちょ、待ってくださいって、ルナさん……だから、あのですねっ?」


 とんとん拍子で話が進んでしまっている現状に、すみれが無理にでも割って入り、無視できない問題点を指摘した。


「私達、四人しかいないのに――どうやったって、野球なんて出来ませんよ!」


「「「……………」」」


「そもそも相手すらいないから、何一つとして成立しませんし……あ、あの、それくらいは分かってました、よね……? さすがに……」


 すみれがおずおずと尋ねると、沈黙していた三人の中から、ルナがゆっくりと口を開いた。


「もろち……もちろん、アタシだってそのくらい……分かってた。分かってた、けど……でもっ! 少しくらい、夢を……夢を見てたかった……それだけなの!」


「夢を見ることは、現実から目を逸らすってことじゃないんですよ?」


「なぜ、アタシ達は……四人しかいないの……そもそも、もうちょい人数いれば……同好会とか言われなかったかもしんないのに!」


「本当にそもそもの話ですねぇ……いやーでも、人数が多くても同好会スタートだったんじゃないですかね~……既に第一・第二文芸部がありますし……」


 絶望した感じを出す(もう意図的じゃん……)ルナに、丁寧にツッコんでくれるすみれ、親切。


 だがそこで、あらぬ方向から現れた助っ人は――!


「―――五人目なら、ここにいるけどな」


「! れ……れいちゃん先生センセッ!」


「いえ五人いても全然足りませんし、フットサルのチームすら組めないんですよ私達」


 何一つ問題は解決していないが、テンション上がってきたルナはそのままの勢いで、黎のポジションについて言及する。


「てゆーか黎ちゃん先生も、カヲリちゃんと同じくらい背ぇ高いし、運動神経スゴイの噂になってるくらいじゃんっ……ち、ちなみに野球経験とかは……!?」


「全くない。が、居合斬りとかなら得意だぞ。あとストレス解消にバッティングセンターで時々打ってる」


「お、おぉ……ちなみにバッティングセンターで、球速とかは……?」


「150か160㎞くらいのやつ」


「も、もはや女子の設定じゃないっしょ黎ちゃんセンセーッ!? これもう4番ファースト決定じゃん! 身長タッパあるし!」


 何やらまたポジションが決まっていく中、ルナが今度はすみれにまで魔の手(失敬)を伸ばす。


「で、で……すみれちゃんは野球とかソフトの経験ある? そこらへんじゃなくても、スポーツならとりあえず何でもいいんだけど……」


「え……いえ、多分ですが皆さんの印象通り、運動とかは得意じゃないので……卓球とかはちょっとやってましたけど。うーん……〝※でもしかレフト〟がいいとこじゃないでしょうか? 花子フローラさんより私のほうが下手っぴでしょうし」

※でもしかレフト=レフトに〝でも〟なろう、レフトに〝しか〟なれない、などネガティブな配置法。でもレフトにだって守備の名手はいるぞ、ナメんなょ♡


「うーん、でもレフトだって外野手だし、守備範囲は広いからなぁ~……テニスとかと比べちゃうと、卓球は後陣守備戦型カットマンとかですら、そこまで遠く走り回るイメージないしぃ……」


「い、意外と詳しいですね卓球……まさにそのカットマンでしたけど、うーん……あの、じゃあ逆にルナさんは……あ、たとえばストライクとか投げられます?」


「へ? あー、アタシも野球とか今まで、キャッチボールくらいしかやったコトなかったからなぁ……あ、でもボール狙ったトコ投げるの得意だよ、球速遅いけど♡」


「なぜ急に野球しようとか言い出したのか、謎が深まる発言は気になりますが……ふむふむ、なるほど……ん~、それじゃあ」


 はい、と軽く挙手したすみれが立候補したのは。


「じゃあ私、キャッチャーやりますよ。中学の頃に球技大会で一度やったことありますけど、捕球が上手いって言われたことありますし……なのでルナさん、ピッチャーお願いしますね?」


「えっ。……ええーっ!? それってすみれちゃんが、いわゆる女房役……え、ええーっ!? なんかそれ、それっ……えええーっ!? いや我ながらナニ~!?」


「あ、打つのは本当に全然自信ないので……セオリー通りで8番ですかね~。ルナさんもピッチャーですし、9番ですよね? ……それで、ですけど」


 また意外と順調に決まっていく、打順とポジション――だが、こほん、と咳払いしたすみれが、再度の問題喚起をする。


「こうして全員分が決まったところで……五人しかいないんですよ、私達」


「……………ンフッ」


「なに笑ってるんですかルナさん。ねえ言い出しっぺのルナさん。なんかもう自分で面白くなっちゃってるじゃないですかルナさん」


 本当におもしれー女ですよ、彼女ルナ……。


 と、そこで妙ちくりんな面子の前に顔を出してきたのは――


「……あっ、文芸同好会の皆さん。どうですか、球技の調子――」


「せっ……生徒会長だァ――! いつもはライバル的な存在が、エロ研究部の危機に手を貸してくれる熱い展開だァ――!」


「えっ、江神えがみさん? ら、ライバル? エロ研きゅ……? ??」


 テンション壊れ気味のルナだが、焦る生徒会長にすみれが冷静に声をかける。


美々香みみかさん、こんにちは。運動場の使用許可、ありがとうございます♪」


「あっ、すみれさんっ……いえいえ、お気になさらずっ♪」


 生徒会長――姓であるやなぎではなく、名前の美々香みみかで呼ぶすみれは、何やら明らかに仲良さそうな雰囲気である。


 そんな二人の様子に、なぜかルナが慌てて声を上げる。


「ぬ、ぬなーっ!? ちょっとー、うちの部の女神ごっですに気安いんじゃないのー!? 誰の許可とってすみれちゃん口説いてんのよ……美々香ちゃん~!?」


「ふ、ふえっ!? だ、誰の許可が必要なのでしょう……? というかいきなり名前にちゃん付けって、距離の詰め方がエグいですね……!?」


(あ、ツッコミに親近感……まあこの前、初めて顔を合わせてから意気投合して、ちょっと仲良くなったんですよねぇ……)


 突然の女神呼ばわりも冷静に受け流す、なかなか肝の据わったすみれはともかく――そこでカヲリがルナを制止し、したり顔で告げる。


「まあ待てルナ。生徒会長といや、兼任で強豪のソフトボール部に入ってて……しかもなかなかのツワモノって有名なんだぜ? ウチも助っ人した時、一緒にプレイしたコトあるけどよ……正直、テクニックじゃあ敵う気がしねぇ……」


「! ……ちなみに、ポジションと打順は……?」


「2番セカンドっ……背は小っちぇけど安定した守備力と、技巧派のバッティングが持ち味ッ……頼りになる戦力の登場だぜ……!」


「……つまり、つまり、コレって……!」


 グッ、と拳を握るルナに、答えるように頷いたカヲリが――



「ああ、コレで六人―――、な―――」


「だから何も成ってないんですってカヲリさん、全く足りてませんし、そもそも相手だって別にいないんですってば」


世知辛せちがれぇぜ……すみれのツッコミぐれー厳しいぜ……」


「いえだって、現実から目を逸らしたって仕方ないですし……事実ですし……」


 ツッコむすみれも困り顔、だがルナは腕組みして考えつつ、現状を結論付ける。


「ふーむ、フムフム。なるほど、つまり……こうなったワケね↓」


エロ研究部文芸同好会ポジショニング(野球だぞコラ♡)★

1.(空)

2.生徒会長・美々香=セカンド

3.花子=レフト

4.顧問教師・黎=ファースト

5.カヲリ=センター

6.(空)

7.(空)

8.すみれ=キャッチャー

9.ルナ=ピッチャー


 と、本当に何がどうしてだか決まった配置に、カヲリが言及する。


「……(空)が多いコトといい、なんかフルコースでも集めようとしてるみてーだな。おまえはハナコ?」


「フローラじゃっつーんですわ。んで何で急にわたくしに話を振ったんですの。ていうか結局、わたくし達なにすりゃイイんですの?」


 ものすごく今更な問題提起ではあるが、一体何をすれば良いのか――ふう、とため息を吐いたすみれが、簡潔に提案する。


「……では二人ずつに分かれて、キャッチボールでもしますか。いきますよー、ピッチャーのルナさーん」


「へ? ……ふぉーっ!? 急にクルじゃん~!? お、おーし、負けないぞっ、うりゃーっ!」


「ふふっ、本当に良いコントロールですね。では……えいっ、カットボールちょい曲がりま~す♡」


「へ……どひーっ!? 微妙びみょ~に手元で曲がった~!? なにその技術、すみれちゃんこそピッチャーできるんじゃないのー!?」


「いえいえ。……ふふっ、いつか本当にメンバーが揃えば良いですね♡」


 ――その後、花子は美々香と、カヲリは黎と組み、何度か人を入れ替えるなどしつつ、陽が落ちるまでキャッチボールに興じた。


 なんだかんだで楽しかった(よかったな♡)


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