第7話 焼肉食べ放題で部(同行会)の設立記念パーティーとか青春してんジャンッ……ちょ、黎ちゃん先生、ちょっ……センセッ!!!

「ヤ・キ・ニ・ク♡ 食べ放題よウーララーッ!」(※やや小声)


「これにゃあテンション上げざるを得ねーぞオラァーッ!」(※やや小声)


 既にお店の中なので声量は多少落とす、ルナとカヲリは節度を守れる良い子。


 それでも高まるテンションと勢いは隠し切れない二人に、すみれがスマホを操作しながら報告した。


「えーと、グループ内メッセージで……花子フローラさんは美化委員会で、少し遅れてくるとのことです。先に始めててください、って」


「あっ、ホントだ。テンション上げすぎてて気づかなかったわー……すみれちゃんアリガト♡」


「てかれい先生も遅れてくんのかな? メッセージに既読もついてねーっぽいけど……今日は担当してる運動部の活動もないハズなんだけどな――」


「おっ、スマンスマン、待たせたか?」


 カヲリが疑問を呟いた直後、話題の種となっている人物――黎が現れた。ルナ達が学校終わりの制服姿そのままなように、黎も女性教師らしいスーツ姿だ。


 顧問教師でもある彼女を、ルナが軽く手を挙げながら迎えた。


「あっ黎ちゃん先生、ヤキニク、ゴチになりま~すっ♡ センセもメッセージ気付かなかったカンジ? 既読ついてなかったけど……」


「む。あ、ああ、いや、これか……これ、ちょっとな?」


 黎がスーツの内ポケットからスマホを取り出しつつ、苦笑いして言う。


「ややこしくて、なんか使いにくくて、あまりイジれないんだよな。その、これ……ポチポチ?」


「ポチッ……いやあの、言い方がおばあちゃんとかがリモコンとかに言うカンジですし……スマホね?」


「あ、ああ、わかっているとも。すまほ……すまぁとほん、だよな?」


「なんか発音アクセントおかしくないです?」


『ぃらっしゃーせーっ、コチラ半個室のお席どうぞー♪』


 ルナと黎が会話を交わしている最中、女性店員が軽く仕切りのついた卓へと案内してくれる。完全に密閉された個室ではないのに、少し仕切りがついただけで、他の席の喧騒が遠くなった気がするから不思議だ。


 と、簡易な出入り口から一番奥の席へ座るよう、カヲリが黎に促す。


「黎先生、どぞっ、上座どぞっ! いやもうオゴってくれるんスから、神座かみざッスよ! いよっ、神! ヤキニク神!」


「お、おお? そうはやされると恥ずかしいな……いや焼肉神とは一体? それは称えられているのか? まあ良いが……では」


 促されるまま、黎が一番奥の席に座ろうとした……瞬間――!


「どっ……――!!」

「「………………」」


「……んん、っと……」


 危ない――危ないところであった。座する刹那の間隙に、己が内の女子たる力を殺さんとする死の言葉を、黎はすんでのところで呑み込んだのである。


 危地を脱した顧問教師たる彼女に、見守っていたルナが暖かな眼差しで、惜しみない称賛を贈る。


「よかった……よかったよ黎ちゃん先生、生き残ったよ、女子力……すごいよ、めっちゃ成長してるよ……頑張ってるヨ……!」


「フッ……なに、以前の件で江神えがみには、特にこってり絞られたからな……あたしとて教師たる身、成長するということを生徒に見せるのは、当然の義務さ。……とはいえ少し、気恥ずかしいな。ふう……」


 黎がおもむろに手を出し、細く長い指で用意されていたを摘まむ。いっそ流麗りゅうれいささえ感じさせる所作で、そのまま――


 ――――!!


「――ぷっは。ぁあ゛~~~……サッパリするわぁ――」


「黎ちゃん先生センセッッッ……!!」


「うおっ。どうした江神、大きな声……ではないな。勢いと威圧はあるが、抑えが利いている。店の中だから気を遣っているのだな、えらいぞ」


あざすありがとうございますの意! でもそんなコトいいんですよ今はっ……おしぼりで顔を拭くのはアウトっ……! ガチでアウトっ……! それは女子力のっ……終わりっ……!」


「えっ、そ、そうなのか!? じゃあその……軽く首とか拭くのもダメ?」


「死ぬ気かバカヤロウッ! あっゴメンネとんだ暴言を! でも、ダメっ……それはホント、ダメっ……圧倒的、悪夢ッ……女子力の、死ッ……!」


(ルナさん頑張って声を抑えすぎて、賭博の黙示録でも始まりそうな喋り方になってるなぁ……)


 顎が異様に尖ったりしないかなんて、すみれちょっと心配。


 それはさておき、ルナがやや焦り気味の表情で注意する。


「ホント、ダメだよ黎ちゃん先生……半個室とはいえ人目が全くナイわけじゃないんだよ? おしぼりで顔なんて拭いてメイクとか崩れたらみっともないでしょ?」


「メイク……ああ、化粧か。いや、あたし良く分からないし、全くしてないんだが」


「ノーメイクでそのピチピチお肌!? 誰もが羨むタマの肌じゃん! いやアタシらも校則違反になるし、してないけどさぁ!? でも生徒と大して変わんないくらいって、ポテンシャルやばくない!?」


「お、おいおい、そう急に褒めるな……て、照れるではないか」


「くっ、照れ顔もなかなかのあざとさ、さすがエロ研究部の顧問ッ……ねえカヲリちゃん、ヤバいよね――」


「黎先生、もう肉、頼んでいい?」


「あっもうお肉に狙い定めてるカンジかー……ハヤいなカヲリちゃん、うーん……」


 カヲリの援護は、どうも見込めそうにない。


 さて、一番奥側の席に座った黎を真ん中とし、左隣にカヲリ、右隣にルナ、そのルナの更に右隣にすみれが着席して。………………。


 ↓大体こんな感じです↓

     黎

  ルナ【卓】カヲリ

 すみれ【卓】空(花子予定)


 手抜きですまない。でもすごくやりやすいです(※私情)


 さてそれはともかく、黎はメニュー表を見ながら、少し悩んでいるようで。


「ふーむ、さすがに生徒の前でアルコールはな……烏龍茶にでもしとくか……」


「! 黎ちゃん先生……気を遣ってくれてるんだ……アリガト。でもいいよっ……アタシ達、気にしないしっ。むしろ先生のおかげで来れてるんだから、先生にだって少しは楽しんでほしいし、労いたいしっ。だから、自由に頼んで! ねっ」


「江神……ふっ、そうか。あたしは生徒に恵まれているな……まあそうはいっても、節度は守らねばな。お言葉には甘えるが、少し軽めに……ふむ」


 そして注文を取りに来た女性店員へ、少し考えてから、黎が尋ねたのは。


「すみません、越後武士えちごさむらいありますか?」


「いかちぃですねぇ名前が! 待って、女子的にソレは待って黎ちゃん先生! 飲み会じゃないけど、ないけどさっ……予行演習だと思えば、そんな女子力を打ち首しそうなお酒はナシだよ!? もっと可愛い感じのカクテルとか……ね!?」


「お、おお江神、そういうものか? なるほど女子力か、うーん……じゃあすみません店員さん、なんか可愛い感じのカクテルください」


(た、頼み方の解像度がめっちゃ低いっ……雑……!)


 女性店員も少し困り顔だったが、とりあえず見繕ってはくれるらしく、他にも食べ放題の特権とばかりに様々な種類のお肉を注文した。


 と、そのお肉の種類の中で、少し気にかかった名前をルナが頭の中で反芻する。


(……ハラミってなんか~、別の意味に聞こえるよね~♡ とかエロ研究部的には言いたい……ケド黎ちゃん先生のNGラインがなぁ、ホントわかんないんだよな~……ちなみにカヲリちゃんは、と……)


「上カルビ、ランプ、サーロイン……リブロースに照準を合わせてスイッチ……リブロースに照準を合わせてスイッチ……」


(お肉の食べる順番に夢中なご様子よーす。援護は見込めないか……)


 ぐぬぬ、となぜか悔しそうなルナの右隣から――不意に、すみれが発した言葉は。


「……なんか、ハラミって……」


(!? まさかのすみれちゃん!? ぶ、ブッ込んでくれるの!? えっ!?)


 なぜか(本当にな)ワクワクとテンションを上げるルナ――と、すみれが続けて述べたのは。


「脂が少なくて、赤身の割合が多いから食べやすいんですよね。ちょっと脂の食感とか苦手だから、赤身が多いの好きで――」


「じょっ……上品だァー! ある意味、不意を衝かれたし……でも逆に期待通り!」


「へ? る、ルナさん、急にどうしました?」


 ルナの意味不明な反応に戸惑うすみれ、それはそう。


 と、黎もすみれの意見には思うところがあるようで、頷いていた。


「うむ、あたしも赤身が多いほうが好みだな。他にもヒレやモモ、ランプなんかもオススメだぞ。あたしも最近、脂っこいものはイマイチでな……」


「に、二十代前半の若さをウリにしてる人の発言じゃない気するケド、デリケートな話だからツッコミにくいな……あっ黎ちゃん先生、先に飲み物きましたよ~」


「お、本当だな江神。さて皆、さかずき(グラスとか言え)は持ったな? では……コホン」


 黎はカクテルを、ルナ達はジュースの入ったグラスを手にし――声を揃えて掲げ。


「――乾杯!」

チンチンあるんだよこういう乾杯♡」

「まだか肉ゥ!」

「か、かんぱーい……(見事にバラバラだなぁ……)」


 誰が誰の掛け声か当ててみてくださいね♡


 んで(んで)、ぐいっ、と一気にカクテルを飲み干した黎に、ルナが注目するのは。


「んっ――ぷはっ。ふうっ……ん、む……これは……」


(よしっ……ここで〝あたし酔っちゃった♡〟的な言動で、女子力アップよ先生……! 飲み会におけるアルコール摂取、そこから派生する行動が戦局を左右するって、孫子まごこ? とかも言ってたんじゃないかって気がするわ……さあ、女子力という名の戦術の妙を見せて、先生――!)


「うむ、悪くないが……ジュースと大して変わらん。ひどく薄いな」


先生センセエッ!! 女子力ゼロか! そんなキメ〇アントの王みたいなセリフ、女子が発してイイもんじゃないよ!?」


「すみません店員さん。ジュースはダメなんで、アルコールください」


「逆・戸〇呂弟かッ! 逆でもそれはそれで豪傑感は普通に出るんだな、ってなんか変な納得しちゃったわ! 女子力を大事にせよーっ!?」


「カルビ祭り~♪」


 ルナがツッコむ向かい側で、運ばれてきた肉をマイペースに堪能し始めているカヲリ。と、すみれがいくつかの肉を取り箸で見繕い、取り皿に乗せると。


「よし、と……はい、ルナさんも、ちゃんと食べてくださいね?」


「へぁ? お、おお~っ……わぁ~、わぁ~……めっちゃ気が利く、癒されるぅ……アリガトすみれちゃん♡」


「いえいえ、ツッコミおつかれさまです♪ 本当に」


「い、いや~まぁね~! 黎ちゃん先生の女子力アップ大作戦(後付けの命名)を買って出たのアタシだし、これくらいはね~! それにホラ、いつもすみれちゃんにツッコませてるから、少しはアタシも苦労しないとさ~!」


「ふふっ……それはそう」


「ちょすみれちゃん否定して~!? ……あっ、お肉おいし♡」


 何となく和やかムード、だが――黎が追加のお飲み物を瞬く間に空にして。


「ぐび、ぐび……ほう、悪くない……すみません、瓶でください」


「駆逐するのかってくらいの勢いで飲むのヤバイっしょ黎ちゃん先生! てか〝ぐびぐび〟も瓶もヤバイって! 女子力撲滅運動中かな!?」


「安心しろ江神。何なら樽でもいける。もはや面倒だ。なんなら直飲みで――」


先生スェンスエっっっ!!!」


「肉、続けて肉……うめ、うめ……」


 酒豪ぶりを如何なく発揮してしまう黎に、ツッコミ奮闘するルナに、延々と肉を食い続けるカヲリに、黙々と肉を焼くすみれに――


 遅れて合流した花子は、皆の様子を眺めながら。


「……なかなかカオスな女共ですわね……まあいつものことですけれども」


 そんなことを呟きつつ、自身もエロ研究部文芸同好会というカオスに加わっていくのだった。


 ――結局、肉食ってるだけだったが、そんな日があってもいいじゃん(いいじゃん)

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