第5話 また第三野球部の話してる……(´・ω・`)

 そろそろ恒常化してきた、ルナ・カヲリ・すみれが思い思いに過ごす室内に。


 バンッ、と勢いよく扉を開いて飛び込んできたのは、お嬢様然とした学園生・花子フローラ


「ごきげんよう、皆様! 挨拶はさておき……た、大変ですわ!」


 なかなか律儀な彼女に、ルナとカヲリが感心したような反応を返す。


「お~、お嬢様っぽい挨拶してきたねー……さすがおチン夫人♡」


「最初からその感じでいけたら良かったのにな、ペニスの商人」


「そのアダ名やめろや! シバき倒しますわよ!? って、そんなことより……!」


 不名誉なアダ名(※第二話参照)にキレつつ、けれどそれ以上に優先すべき事項があるらしく、花子が述べたのは。



「さっき見たら、この部屋の表札プレートに――〝エロ研究部〟なんて悪意ある落書きがされてましたわ――!?」


「「…………」」



 その恐るべき事実に、ルナ書いた人カヲリ表札持ってきた人が、顔を見合わせて――怪しい含み笑いを漏らした。


「「……クックック……」」


「!? な、なんですの……なぜ、なぜ笑ってるんですの!? ……まさか……」


 おののく花子に、明確な答えを返したのはルナだった。


「その通りよ、花子ハナコちゃん――それを書いたの、アタシでーす♡」


「ハナコじゃなくフローラだっつってんでしょーが! それはともかく、なぜそんな自ら奈落へ身を墜とすような真似を……いやホントなぜですの!?」


「だってアタシ達、〝エロ研究部〟だもーん♡ 〝文芸同好会〟は世を忍ぶ仮の名前……闇に紛れし真実こそ、表札に書かれていた書いたのアタシその名よ――!」


「闇に紛れし真実を堂々と表札に書くのどうかと思いますケド……まあそれはともかく、な、なんてことですの。わたくしったら気付かぬ間に、そんなとんでもねぇ団体に所属していたなんて……くっ、不本意ながら、この非日常的なシチュエーションっ……テンション上がってきましたわ……!」


花子ハナコちゃんもナカナカな子ね……まあでも、ふふふ、こうして名を大々的に示して活動してる以上、アタシ達の存在は徐々に認知されてくハズ! 〝エロ研究部〟の名が学園に轟くのも、そう遠い未来じゃないわ――!」


 ぐっ、と拳を握ってテンション上昇中のルナ――に、すみれが横から水を差す。


「あ、ここの表札とかほとんどの生徒は見ないはずですし、悪目立ちする心配はないと思いますよ?」


「「「……………えっ」」」


「いやあの、この部屋、どこにあるか分かってますよね? ……えっ、私以外、把握してない感じですか? この学園の生徒なのにそんなことあります?」


 呆然として聞くルナ・カヲリ・花子に、すみれが告げる驚愕の事実とは――



「ココ、もうほとんど使われなくなった、旧校舎ですよ。……あと本校舎の他に、部活棟として使われてる校舎も別にありますので……三番目ですね、この校舎」


「「「………………」」」


「だからまあ、他の生徒さんも用件がない限り、ほとんど近づきませんから。表札なんてよっぽど見ない、っていうか……あ、あの……皆さん、大丈夫です……?」



 呆然、延いては唖然としていた三人の中から――代表するかの如く、ルナが声を上げた。


「もっ……もう完全に第三野球部じゃんアタシら――!?」


「別に第三野球部にたとえなくても良くないですか?」


「や、でもっ……旧校舎っていう割りに、すごい綺麗じゃないこの校舎! ほぼ新築って言っても通りそうなのに、もったいなさすぎでしょ~!?」


「まあ私立のお嬢様学園なので……資金は潤沢なんじゃないですか?」


「でも、にしたってでもっ……旧校舎なのに壁とかにヒワイな落書きとか無いし、〝オウ全裸でマラソンしてこいよ!〟とか言ってくる不良フリョーとかいないし!?」


「だからお嬢様学園なんですってば。というかなぜ第三野球部に寄せようとするんですか。そして今のご時世、誰がこのネタ分かってくれるんですか」


 割と容赦なくツッコんでくれるすみれ。助かる。

 それはそうと、微妙な心境は同じらしい花子だが、苦笑いしながら提案した。


「ま、まあまあ、すみれさん。本当に色々とアレですけれど……せっかくメンバー全員集まってるんですし、親睦を兼ねて喫茶店にでもお茶しにいきませんこと? わたくし、オススメのお店を紹介しますわよ」


「ハナッ花子フローラさん……そ、そうですね、そうしましょうか。私、楽しみです」


「ねえすみれさん、ちょいちょい思ってたんですけれど、微妙にハナコって言いかけてませんわよね? わたくし、すみれさんだけは信じてんですけども、信じても大丈夫ですわよね?」


「もちろんですよ花子フローラさん。信じてください花子フローラさん。間違えませんよ、私はホラ、本ばかり読んで話慣れてないので、ちょっと言葉を噛んじゃいそうになるだけで……」


「話慣れてない人のツッコミぶりじゃない気もしますけれど……この文芸同好会の良心であるすみれさんが言うんだから、信じますわ。信じますわよ?」


「もちろん、もちろんですよ花子フローラさん。……アッ、窓の外、ホラッ。ちょっと小雨が降ってきましたね。どうしましょう、少しくらい濡れても強行軍で――」


 若干、話を逸らしてる気がしないでもないすみれの言葉だが――本当になぜか、ルナが床に両手を突いて弱音を吐き始めた。


「む……ムリだよーっ! 雨に濡れながら喫茶店なんて、いけるわけないよーっ! いいじゃん、雨がやんでから行って……適当にお茶して終わればイイじゃん~!」


「いえまあ普通にそれでも良いんですけど、だからなぜ第三野球部ノリに寄せようとするんですかってば。どんだけ好きなんですか――」


「る、ルナ、このバカヤローッ! ホントのクズになっちまってイイのかーっ!」


「いやカヲリさん? ちょっと小雨に濡れて喫茶店に行った程度で〝僕たちはクズじゃない!〟とか烏滸おこがましくて言えないですし、もう第三野球部の話はいいんですってばもうホントもう」


 ツッコミを余儀なくされるすみれだが、ルナとカヲリはそれなりに満足したのか、普通に立ち上がって支度を始める。


「おし、んじゃいこっか~。アタシ、ケーキ食べた~い♡ ……そして食べながら読むのもイイわよね……あ〇なろクンの活躍をね」


「そだな。確かに古い漫画と呼ばれても仕方ないかもしれない。しかし今のご時世だからこそ、再び盛り上がるコトもあろうってもんだぜ。何せ今は、かさばるコトもなく読みやすいコンテンツがあるだろう……そう、電子書籍ならね」


「もちろんそれは第三野球部に限ったハナシじゃなく、多くの名作漫画やラノベ・小説、諸々に言えるコトよ。ちなみにアタシとしては『BOOK☆WALKER』を推したいわ。アタシは長いモノに巻かれ、大きなモノにすり寄るコトに躊躇いの無いオンナ。ふふっ、言葉だけ聞いてるとエロ研究部っぽさアルわね☆」


「さすがだなルナ、ウチも負けてらんねーや。負けないといえば国内でも最大レベルの作品掲載数を誇る『BOOK☆WALKER』だから、それこそ多くの名作が揃ってるんだよなぁ。懐かしい思い出の作品とかチェックすんのもイイかもな!」


「お二人とも、なぜ急に熱いステマを始めて……いえもう全然ステルスしてないですし、ダイマダイレクトマーケティングのレベルなんですが、本当に何ゆえ?」


 疑問いっぱいのすみれ、の横から今度は花子が声を上げて。


「……で、ですが紙書籍には紙書籍の良さがあるのも確かですわ! 読みやすさは確かに人それぞれ、ですがだからこそ紙書籍の良さは据え置き。紙も電子も、同様に尊重し、作品にリスペクトを持って触れるのが最適解だと主張させて頂きますわー!」


「まさかあなたまで乗っかるとは思いもしなかったですよ花子ハナコさん」


「えっすみれさん完全に今ハナコって――」


花子フローラさん気のせいですよ花子フローラさん。目に錯視さくしがあるように、耳にも錯聴さくちょうというのがありますから。きっと色々と呼ばれすぎたせいですね……サア、早く喫茶店へいきましょう、サア。ケーキは別々の種類を頼めば、食べ合いっこできそうですね♡」


「えっなにそれ嬉しいですわ……なんかすげぇ友達っぽいですわ……え、ええ! 全力で励ませていただきますわ――よろしくてよ!」


 何だか誤魔化されている感あるし、若干の闇深も感じる、そんな花子だが、ご機嫌のご様子なので良しとしよう。


 こうして各々おのおのが身支度を整え、喫茶店へと向かうべく、部屋を出ようとする――その直前、すみれが思うのは。


(……結局、今日ほぼ第三野球部の話だったな……)


 何ならエロ研究することのほうがレア

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