第4話 アダルトVRってあるじゃん……いや聞いて? まあまあ聞いて? とにかくまず一回聞いて?

「……アタシ、ちょっと思ったのね……?」


 ほぼいつも通り、カヲリやすみれも含めて三人の室内で、ルナが珍しく深刻そうに呟く。


 すみれは本を読む姿勢のまま、けれど耳だけ傾けて――カヲリはただならぬ雰囲気に、ごくりと喉を鳴らして続く言葉を待つ。


 そしてついに、ルナが提起した、今回の主題テーマとは。



「アダルトVRってあるじゃん……アレさ、近い未来…………死人が出るよ」


「なん……だと……?」



 あまりにも突飛すぎるルナの言葉に、カヲリはごくりと喉を鳴らしながらも、とりあえず気になることを尋ねた。


「てかルナおまえ……見てんの? アダルトVR」


「い、いや見るワケないじゃーん! 高校生コーコーセーだしアタシら! でもまあホラ、知識としてはアルから、それでちょっと色々考えてね!?」


「お、おう、一気に世迷いごと感が増してきたけど、コンプライアンス的なアレやコレやは守られて安心したわ。で……アダルトVRで死人が出るって?」


 話の続きを促すカヲリ……だがそこで、読んでいた本をパタンと閉じ、清楚な文学少女・すみれが口を挟んだ。


「………ルナさん」


「! あっごっごめんね! すみれちゃん的には、さすがにアダルトなんたらとかの話はナシかなぁ――」


 エロ研究部とか言い出す割には、妙なところでは気を遣うルナに――すみれが座ったまま、神妙な面持ちで告げるのは。


「続けて……ください」


「ぷえっ!? えっ、ナニナニ、意外と興味あるカンジなのすみれちゃん!? ヤッバイ、アタシなんかテンション上がってきたんですケド!?」


「オイオイ、マジかよすみれ! まあエロ研究部なんて入ってくれたり、意外と付き合いイイもんな! まあ変な話に興味湧いちまっただけかもだけど!」


「エロ研究部ではなく、文芸同好会ですが……まあ学術的興味ということにでも、しておきましょうか。フフッ」


 思いがけぬ清楚な文学少女(と二人には思われている)の参戦で、俄かにテンションを上げていくルナとカヲリ。


 さて、話の発端となったルナが、若干ドヤの混じった研究者ヅラで説明を始める。


「てかね……VRヴァーチャル・リアリティゴーグルってのが出てきた頃に、まず思ってたのね……コレなんかヤバくない? 危なくない? って。だって、視界全部が覆われてさ、仮想現実の光景でイッパイなワケよ。ガチヤバめなホラーとかなら、心臓弱い人とか冗談抜きに危ないでしょ?」


「あ~……でもまあ、そういう安全面も配慮されてるモンなんじゃね? 見るほうだって、ホラー苦手なら触りもしなきゃイイだけだしさ」


「フッ、甘いわね、カヲリちゃん……言ったでしょ? この話のテーマは……アダルトVRだって……!」


「お、おお? そりゃ、つまりどういう――」


 重ねて問おうとするカヲリ、だが――そこですみれが、自身の推論を述べる。



「つまり……本物アダルト偽物フェイクの、視聴者の認識齟齬によって生じる犯行……でしょうか?」


「すみれちゃん、鋭い! その通り……つまり見る人がアダルトVR見るつもりでホラーものを見ちゃったら、それ原因で心臓が止まっちゃってもおかしくないじゃん、ってことよっ!」



 なかなか局所的すぎる気がすることを言い切ったルナが、わざわざ用意してきたのか、なんか探偵っぽい帽子ハンチング帽をかぶりながら続ける。


「この話の要点は〝アダルトVR〟……普通はさ、『今からアダルトVR見てきますね』とか宣言したりしないっしょ? つまりその、いん、いん……い〇かく?」


隠匿性いんとくせいですか?」


「そうそう、アリガトすみれちゃん。で、そのイントクセーこそが狙い目……当事者以外は知らない、秘密の趣味……だからこそ、そこにガチ心臓止まっちゃうくらいのヤバめホラーを、アダルトVRと差し替えれば……? 被害者を見た第三者ほかのひとだって、ホラーを見たコトで起こった事故と思っちゃうっしょ……? だって誰も、被害者が楽しもうとしてたのは……アダルトVRって知らないンだからさ……!」


 テンションの上昇を、ぐっ、と握りこぶしで表現したルナが、更に述べるのは。


「というワケで、アタシたちエロ研究部を勝手に登場させた〝アダルトVR☆殺人事件〟をごらんくださ~いっ♡」


「わざわざ考えてきたのかよ。スゲーなオマエ」


 カヲリがツッコむ中、渾身の戯言劇場おばかドラマが始まろうとしていた。


 ■■■■■


※『 』内が劇中劇のセリフだと思ってくださいネ☆


『ううっ……まさか、まさかカヲリちゃんが死んじゃうなんて……ただVRを見てただけのはずなのに、どーしてっ……!』

「被害者、ウチかよ。別にイイんだけども」


 カヲリ(現実)がツッコむのは置いといて、VRヘッドセットをつけたまま横たわる被害者カヲリ。

 そんな彼女に縋りついて涙するルナの傍らで、ハンチング帽を深くかぶった謎の名探偵が推理するのは。


『被害者にはホラーを鑑賞する趣味はなかったはず……一方、被害者がこっそりアダルトVRを借りたつもりだったのは多くの人物が目撃している……そして誰にも知られず、アダルトVRとホラーを差し替えることが出来たのは、ただ一人……』

「ウチとんだ恥さらしじゃねーか。別にイイんだけども」


 ちょっと大らかすぎる気がするカヲリ(現実)だが、謎の名探偵が指さしたのは。


『つまり、犯人は……アナタです、花子フローラさん!』

「再登場がまさかの与太話だよ花子ハナコ。別にイイんだけども」


 大らかが他者にまで及ぶカヲリ(現実)はともかく、指摘された犯人、即ち花子はワッと涙を流しながら両手で顔を覆い。


『だって、だって彼女は……わたくしがテレビを見ているのに、音量ボリュームを下げたんですの!』

「ウチの殺害理由があんまりすぎて逆に笑う」


 ホント大らかだなカヲリ(現実)……それはそうと、怒りに震える警部が一言。


『そんな下らん理由で人を殺したんですか、貴様アンタは!』

『う、ううっ……許してくださいまし、れい警部……!』

「黎先生が警部かよ、って思ったけどハマり役だな結構」


 事件が終結を迎える中、謎の名探偵が、とん、と壁に背を預ける。

 目深にかぶっていたハンチング帽子を、つい、と眼鏡が見えるくらいまで指先で上げて――


 名探偵・すみれは、ぽつりと一言。



『悲しい………事件でしたね』



 テレテッテーンテレテー♪


 ■■■■■


「………………」

「………………」


 戯言劇場おバカドラマが終わり、静けさに包まれる室内で――ルナとカヲリが目を見開き、対話を交わした。


「近いうちに……きっとやるわよ、探偵モノかなんかで……!」


「コ〇ンくんとかじゃゼッテーできねぇだろーけどな……!」


「まあ悪意がなかろうと、〝心臓弱いのに間違えて観ちゃった!〟みたいな事故は考えられるので、使う人は注意してほしいところね……! 映画やドラマじゃなくっても、ゲームとかだとマジでドキッとしちゃうと思うしー」


「いつからVRの使用に注意を促す話になったか知らんが、これもまあエロ研究部の活動の一端と思って割り切ろう」


「カヲリちゃんのそーゆう柔軟なトコめっちゃ好きよ♡」


「へへっ、かたじけねぇな……っと、与太話アホトークしてたらそろそろ最終下校時間だな。帰り支度すっか」


 確かに夕陽が室内に差し込んでいる中で、言うが早いか支度を始めるカヲリ。


 ルナも準備を進めつつ、すみれに声をかけた。


「んじゃすみれちゃんも一緒に帰ろーね♡ てかアホ話もといエロ研究部の活動にノってくれて、ありがとね♡」


「いえいえ、興味深くて面白かったですよ。忖度とかじゃなく、本当に」


「え、えへへ、そぉ? そっかぁ~、じゃあいっかな~♪」


 上機嫌で鼻歌も交じりだすルナ。


 ……と、本も片付けるだけで帰り支度が終わっているすみれは、逆に手のひらサイズのメモ帳を取り出して。


 いかにも真剣な表情で、流麗にペンを走らせた。



(……〝アダルトVR殺人事件・現実と空想の狭間へ墜ちて〟……っと、メモメモ)



 美嶋すみれは趣味で自作の小説とか書いているようです。

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