それぞれの自覚
リィリィが自分の気持ちに気付いて数日。
「リィリィ」
「リィ~リィ~」
「リィリィちゃん?」
「ちょ、リィリィ!?」
エルヴァンをひたすら避けまくっていた。
「お前、何かしたろ」
「ええ!?思い当たる節しかなくて分からん!!」
「……死ね」
トーマスに頭を殴られ机に突っ伏していると「ん」とロルフが報告書を差し出してきた。
それには帝国の今と内情。そしてリィリィの嫁ぎ先であるスラノの事も書かれていた。
「ほお~……?随分とあちらさんは荒れとるなあ?」
リィリィ奪還が失敗に終わり、余裕の表情だった皇妃も焦りの色が目に見えて来たらしい。
逆に嫁ぎ先であるスラノは嫁であるリィリィを探すでもなく、敢えて動かずにいる様に感じる。
あそこの国王は女の扱いは酷く悪いが頭はキレる。
大方、この機会に帝国を我が物にしようとでも思っているのだろう。
とはいえ、帝国は落とせない。落とさせない。
──何故なら、帝国はリィリィのものになるのだから。
初めのうちは本当に気まぐれで
自分が生き物を飼うことに向いていないのは一番分かっていた。
それでも何故か手放せなかった。
初めて見た人の姿のリィリィは、年甲斐もなく美しいと思った。
エルヴァンからすればリィリィはまだまだ尻の青い子供。
そうは思っても時折見せる笑顔に目を奪われる。
今まで散々酷い目にあってきたリィリィがようやく見せてくれるようになった笑顔。その笑顔を絶やしたくないと自然と甘やかしてしまう自分がいた。
リィリィがいなくなったと聞いた時、全身の血が抜け落ちたのかと思うほど全身冷たくなったのを覚えている。かと思えばすぐに全身沸騰したように怒りで自分の感情を抑えられなかった。
唯一、ローザの術で眠っていたリィリィが怖い思いをしなかった事が不幸中の幸いだ。
だが、リィリィはこの事件を受けて自分が迷惑をかけてしまう。ここを出て行った方がいいのではと思い込んでしまった様だ。
「私、このままここにいていいのかな」
その言葉を聞いた時、雷が落ちたような衝撃を受けた。
いつものようにヘラついて応えるつもりだったが、思いのほか怒っている自分がいた。
正気に戻った時にはリィリィを怖がらせてしまったと悔いた。
「避けられて当然やな……」
自嘲する様に笑うとトーマスが「……気にするな」と慰めるように肩に手を置いてきた。
慰めているつもりなんだろうけど、今のエルヴァンには気休めにもならない。
机に突っ伏したままのエルヴァンにトーマスは呆れて溜息を吐いた。
「いい加減にしろ」
言うなりエルヴァンの背中を思いっきり叩くと「痛ッ!!」と勢いよく顔を上げた。
「何すんねん!!」
背中を擦りながらトーマスを睨みつけるが、トーマスは涼しい顔をしている。
「少しは気が紛れたろ」
「少しどころか悩みが吹っ飛んだわ!!ありがとさん!!」
怒っているのか感謝されているのか分からない言葉で言われたが、トーマスは満足そうに微笑んでいた。
その顔は本当に悩みが吹っ飛んだようにスッキリとした表情に戻っていた。
「んじゃ、まあ、トーマスから喝を入れてもらったで、うちのお姫様のご機嫌でも取ってくるか」
ようやく椅子から腰をあげると「ん」とロルフが何か渡してきた。
「なんや?演劇?」
それは演劇のチケットだった。
「リィリィが観たがっていたらしい」
巷の令嬢達の間で話題の演劇らしく、ローザから話を聞いたリィリィは興味を示したが飼われている身分で自分から行きたいなど言えず、気がつけばチケットは完売。
そこで気をきせたローザがロルフに頼み、秘密裏からチケットを入手したらしい。
「……僕、演劇って苦手やねんけど……」
「文句を言うな」
一喝されたエルヴァンは「まあ、リィリィが喜ぶなら」とチケットを手にリィリィの元へと向かった。
チケットの効果は割と大きく、リィリィの目の前にかざすとすぐに食い付いてきた。
あまりの食い付きの良さに今まで悩んでいた自分がアホみたいだと苦笑いした。
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