自覚
(お、重い……)
リィリィは体の上に大きな岩みたいなものが乗っかかっているような圧迫感で目を覚ました。
「──ッ!!!!!!」
目を覚ましても体が丸まったまま何かに固定されているようで動けない。
リィリィは必死に藻掻くが、いくら頑張っても体の自由は解かれない。
顔を内側に入れた状態で固定されているので呼吸まで苦しくなり必死に空気を取り込もうとするが上手くいかない。
息は荒くなり、体は動かない。リィリィは言われようのない恐怖に襲われた。
(だ、誰か……誰か助けて!!!)
「──……潰れる」
解放感と共に眩い光が目に射し込んできた。次に映りこんだのは、憂いに沈んでいるエルヴァンだった。
どうやらリィリィの体を抱くようにエルヴァンが覆いかぶさっていたらしく、助けてくれたのはトーマス。
エルヴァンの襟首を掴みあげ無理やり引き剥がしてくれたらしい。
周囲にはハンスとローザ、それにロルフまでいる。
その顔は泣きそうだったり申し訳なさそうだったり様々。
「本当に……ご無事でようございました……」
エルヴァンの次はローザに力強く抱きしめられ、流石に只事では無いと察したリィリィは何が起こったのか必死に身振り手振りで問いかけた。
「ローザ、離しなさい。お嬢様が困惑してます。……寝起きで申し訳ありませんがお話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
ゆっくりベッドに下ろされたリィリィはハンスの話に耳を傾けた。
そこでようやく事の重大さを理解し、顔面蒼白になった。
まさか自分が寝ている内に攫われ、無事に救出までされているなんて誰が思うだろうか。
(もし、誰も助けに来てくれなかったら今頃私は……)
ここの人達はリィリィを見捨てることはしない。きっと助けに来てる。そうは思っても無意識のうちに体が震え、身を縮こませてしまう。
「今回は私どものミス。完全に注意不足でした。申し訳ありません……」
深々と頭を下げる使用人の面々に慌てて顔を上げるように言うが、言葉が通じないのでどうしようもない。
「……………すまんな。リィリィを守る言うときながら簡単に盗まれてもうた」
エルヴァンまで頭を下げ謝罪してきた。
リィリィは必死に言葉にしようとしているのに、伝わらないもどかしさで苛立ってきた。
(こんな時、人の姿に戻れれば……!!戻れ戻れ戻れ……!!お願い!!戻って……!!)
今だに頭を下げたままの使用人とエルヴァンを目にしながら必死に祈った。
こんな時、自分の思いもろくに話せないなんて……本当に情けない。
目に涙を浮かべながらそんな事を思っていると……
ボンッ!!
「戻れた!!」
祈りが通じたのかようやく人の姿に戻れた。
喜びなどそっちのけで、目の前の人達に頭を上げるように言った。
「みんなが謝る事なんて何にもない!!むしろ助けてくれてありがとう!!無事に帰って来れられてみんなの顔をまた見ることができてすごく嬉しい……!!本当にありがとう!!」
早口になりながらも感謝の言葉を伝えた。──が、目の前の人達は目のやり場に困りながら頭を掻いたり、顔を赤らめながら明後日の方向を見ていたり、様子がおかしい。
「ああ~~と……リィリィ?君の気持ちは分かった。けどなあ……服を着てから言うて欲しかったかな……?」
エルヴァンに頬を染められながら言われ、ようやく自分の失態を知ることになり、これまた屋敷中に響き渡るほどの悲鳴を上げた。
「どうや?少しは落ち着いたか?」
自分が悪いのにもかかわらず不貞腐れて布団を頭から被り丸まっているリィリィをエルヴァンはちゃんと気にかけてくれてくれる。
布団の上から優しく頭を撫でられ、ゆっくり顔を出すといつものように優しく微笑むエルヴァンがいた。
ローザいわく「お嬢様が攫われたって聞いた時の旦那様は本当に手の付けようがありませんでしたよ」なんて言っていたが、本当だろうか。
(想像がつかない)
いくら飼い主だとしても、そこまで怒ってくれるものだろうか……
確かに屋敷はちょっと?壁に穴が開いて外が見えてたり、窓ガラスなんて粉々になってたり、部屋かどうかわからない広間が出来てたりしてるけど……
「どうした?」
怪訝そうに見ていたことに気づかれた。
「ん……私、このままここにいていいのかな……って」
助けてくれた事には感謝する。けど、散々よくしてもらったのに、恩を仇で返しているような気がして仕方がない。
思わず口から出てしまったが、これで出て行けと言われたら……
それはそれで仕方ない。グッと拳を握りしめ、エルヴァンの答えを待った。
「なんやなんや!?家出発言!?うちの子は反抗期ですかあ!?」
「もお!!結構真剣に考えて──……」
相変わらず場の雰囲気をぶち壊すエルヴァンの態度に、リィリィは頬をふくらませて怒るような仕草を見せると
「駄目やよ」
リィリィが言い切る前に冷たい声に遮られた。
「リィリィの飼い主は僕。何処にいるか決めるんも僕。ご主人様の言うことの聞けん悪い子は逃げれん様にするしかないなあ……?」
ジリッと距離を詰められ、思わず後退ってしまった。
エルヴァンの目は獲物を狩る時のように鋭く酷く冷たい。
初めて向けられた眼差しに恐怖と言うよりも動揺の方が強く、まさか怒らせてしまうとは思いもせず「ご、ごめんなさ……」と振り絞った様に小さな声がエルヴァンの耳に届いた。
ハッと我に返ったエルヴァンは慌ててリィリィを宥めるように優しく声をかけた。
「ごめんな。ちょっと大人げなかったわ。リィリィがいなくなる思ったらつい……僕はもうリィリィがおらん生活はできんのよ。だからもう二度と出てこうなんて言うんやない。分かったな?」
そんなプロポーズみたいな言葉を言われたら出て行けない。
この人はいつものように他愛のない言葉を言っているだけ、その言葉に意図は無いと分かっている。
分かってるけど、リィリィにとってはとても嬉しい一言だった。
例え気持ちがなくても宥める為の口実だったとしても関係ない。
エルヴァンから必要だと言われた事実が嬉しくて仕方ない。
(ああ……私……この人の事が好きなんだ……)
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