依頼
その頃、エルヴァンは客間で会いたくもない客に会っていた。
「いやいや、お待たせしてすんません」
「いえいえ、連絡もなしに来たのですからお構いなど要りませんよ」
「そうか?」
二人とも笑顔で会話しているが、部屋の中の空気は重たい。
カルロの後ろには護衛の騎士が二名顔色を変えずに背筋伸ばして立てっている。
この騎士とは別に外に騎士が控えているのも把握している。
その者らが何やら嗅ぎ回っていることも……
「──で?こんな辺境にまで大臣様直々にいらっしゃる言うことはそれなりの用やと言う事でええの?」
相手の心理を見抜くように鋭い目付きで言うと、カルロは用意されたお茶に口をつけた後に胡散臭い笑顔を向けながら口を開いた。
「ええ。貴方に捜索の依頼をお願いしたいと思いまして」
「……例のお姫さんの事か?」
「そうです」
エルヴァンは眉も上げず平然を装った。
「
「へえ~~……?」
「勿論、報酬は弾みます。欲しければ再び大佐の称号も与えましょう。貴方が損になる事は一つもありません。如何です?」
手を顎に乗せ肘をつきながら言うカルロだが、エルヴァンの答えは聞くまでもない。
「お断りやね」
「何故?貴方にとって有利な条件だと思いますが?」
「そもそも、僕はそっちの人間やない。言うなれば部外者や。無関係やのに自分から関係結ぶ奴なんか金に汚い奴しかおらん。僕はもう静かにのんびり暮らしたいねん」
あたかも自分は無関係だと言い張るエルヴァンをカルロはジッと見つめてくる。
腹の探り合い。と言う所だろうか。
何年何百年生きてきて、更には世界まで変わっても人間というものは変わらない。
己の欲の為ならば例え勇者だろうと賢者だろうと道具として使う。
そう言う奴に限って金や肩書きをこれ見よがしに見せつけてくる。
エルヴァンは思わず溜息が出た。
「前も言うたけど、なんか情報があれば伝えるし、なんもなきゃそれまでや。……それにな、執拗い男は嫌われるんやで?」
遠回しに「これ以上ガタガタ抜かすな。とっと帰れ」と圧をかけた。
カルロは睨みつける様な眼を向けてきたが、すぐに普段通りの表情に戻りフーと息を吐いた。
「……分かりました。変わり者だと噂の貴方が簡単に頷いてくれる気はしてませんでしたし、とりあえず話を聞いて頂いただけでも報酬だと考えます」
「ええ思考持っとるな」
「……皮肉ですか?」
「称賛や」
前にどこかでやった様なやり取りをすると、カルロが重い腰を上げた。
「今日のところは帰ります。もし、気が変わったら何時でもご連絡下さい」
「待っとるだけ無駄やで」
「それは分からないでしょう?」
クスッと怪しげに微笑み、屋敷を後にして行った。
最後の騎士が門を出て行くの窓から確認すると、ようやく気が抜けた。
「はぁぁぁぁぁぁ…………」
「お疲れ様でした」
ぐったりと椅子にもたれるように倒れ込んだエルヴァンにハンスが気を利かせて一杯の赤ワインを差し出してきた。
「おや?珍しいなあ、ええの?こんな時間に飲んでも」
「ええ。
含みのある言い方をするハンスを横目にグイッと一気に飲み干した。
アルコールと一緒に独特の臭いが鼻をつく。
「……あんまし美味くないな」
顔を歪め、舌を出しながら言うエルヴァンにハンスは「やはりそうですか」と明らかに知っていた風な言い草。
「あっ!!もしかして僕を毒味役にしおったな!?」
「いえいえ、滅相もありませんよ」
白々しく笑うハンスを見て、自分が毒味役に使われたのだと瞬時に判明した。
苦々しい顔でハンスを見ていると、口直し用に甘めの紅茶にレモンを入れたものを用意してくれた。
それを飲みながら、先程のカルロの怪しげな笑みを思い浮かべた。
(なんか裏がありそうやな……)
いくら辺境に来るからといえど、護衛の騎士の数が普通より数がいたのも不自然。
まあ、単純に屋敷を捜索させる為と言われれば説明がつくのだが、何か引っかかる……
エルヴァンが頭を抱えていると、物凄い勢いでこちらに向かってくる足音が聞こえた。
「旦那様!!!お嬢様の姿がありません!!!」
バンッ!!と勢いよく扉が開き、血相を変えたローザが飛び込んできて、事態は一変した……
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