訪問者
リィリィはトーマスの指導もありだいぶ体力も付いてきて、屋敷の周りを2周しても息切れしない程には成長した。
ここに来たばかりの頃と比べて肌の艶も良くなり、顔つきもふっくらしたような気がする。
最近は体力作りの他に獣化の制御の方も頑張っている。
獣化の方は主にエルヴァンが指導者として付いてくれているが、何せ適当の代名詞の様な男だ。
「こんなん感覚なんよ。一度感覚を覚えたらパパッと出来るもんよ」
袖から扇子を出し顔を隠したかと思えば、次に出た顔は妖狐の姿だったり、見て学べと言うスタイルで感覚もコツも何も掴めないリィリィにとってはこれが一番の難問だった。
「とりあえず、感覚だけでも覚えるか」
そう言うなりエルヴァンは着物の襟元を掴み思い切りはだけた。
当然リィリィは一瞬で子ウサギの姿になった。
「あははは!!!どうや?感覚掴めたか?」
笑いながら襟元を正すエルヴァンに「分かるか!!」と短い脚で殴りつけるが、痛がるどころかむしろ喜んでいるようだった。
エルヴァンは領主と言う忙しい傍らリィリィの相手をしてくれている。
リィリィ的にも早くマスターして、エルヴァンの時間を無駄にして欲しくない。
「まあ、焦ることはあらへんよ」
落ち込むリィリィに声をかけてきた。
「簡単に出来てもうたら焦るリィリィの可愛い仕草見れんくなるしなあ」
揶揄うように言うんだから……本当にこの人は一言多い……
「──……旦那様」
扉を叩き入ってきたのは執事であるハンス。
その顔は珍しく曇っている。
「なんや?随分景気の悪い顔しとるやん」
「……ええ、実は……」
と、リィリィに聞かれたくないようで背を向き聞こえない様に話しているが、今のリィリィは人の姿ではなく耳がよく効くウサギの姿。
話し声の方に耳を傾ければその話はリィリィの耳にも入ってきた。
「……実は、ギネイアの大臣という方がお見えでして……」
「はあぁ!?あのイケすかん大臣がか!?わざわざこんな辺境になんの用やねん!!大臣ちゅうもんは暇なんか!?」
「理由など分かっているでしょう?」
「……ッち!!」
激しく舌打ちをした後、リィリィの方を勢いよく振り返った。
リィリィは聞き耳を立てていたのがバレたかと思いビクッと体が震えたが、思い過ごしだった。
「ごめんな。ちょっと急用が出来てもうたわ。リィリィは
珍しく鬼気迫る表情のエルヴァンに黙って頷しくしかなかった。
エルヴァンは「ええ子」 と頭を撫でると部屋を出て行った。
一人になったリィリィは先程のハンスの言葉を思い出した。
「大臣が来た」という事はカルロのことで間違いない。
もしかして、ここにいることがバレたのだろうか?
もしそうならば、エルヴァン達に迷惑がかかる前にここを出れなければならない。
トーマスに指導してもらったお陰で体力も随分ついた。今なら結構遠くまで逃げれる自信がある。
(……仕方ない事だけど……)
ここを出る事を渋る自分がいる。
体が動かない。頭では分かっていても、行動に移せない。
(大丈夫。ここでの思い出があれば何処でもやって行ける……!!)
意を決して立ち上がると……
「あらまあ」
声がかかり振り返ると、扉の前にローザが頬に手を当てながら微笑んでいた。
「駄目ですよ。ここから出てはいけないと旦那様から言い付けられているでしょう?」
何故出て行こうとしていた事が分かったのか謎だが、ローザに見つかってしまったら出て行く事は不可能になってしまったが、リィリィはその事にホッと安堵してしまった。
本来ならば許されない思いを抱いてしまい自己嫌悪に陥るリィリィを優しくローザが抱きしめた。
「ローザが付いてますからね。少し眠りましょうか」
体を撫でながら言われると、不思議と睡魔が襲ってきてリィリィはあっという間に眠りの世界へと入っていった……
❊❊❊
リィリィが眠りに付いたのを確認したローザはゆっくり立ち上がり、リィリィ専用の小さなベッドに寝かしつけるとソッと部屋を出た。
部屋を出るとロルフが扉の前に立っている。
「……どう?」
「ん」
「そう。この部屋は結界を張って見えないようにするから、
ローザの視線の先にはお供の騎士らが屋敷の周りを探る様に動いている。
「本当に無礼極まりない奴らね。他人の屋敷を無断で調べるなんて」
「………………ん」
「ああ、手は出しちゃダメよ。何か怪しい動きをしたら旦那様にすぐ報告して頂戴」
「ん」
ロルフは軽く頷くと姿を消した。
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