大臣
カルロは大臣と言うには随分と若かったが、頭がキレそうな雰囲気はある。
そんな大臣が何の用だと警戒していると、とんでもない事を言い出した。
「実は、貴方様を帝国の騎士に迎えたいと思っておりまして」
「は?」
「貴方様の実力は帝国まで届いております。大佐を退任したのであれば是非我が国にと皇帝も仰っております。勿論、待遇は大佐と同等もしくはそれ以上をご用意致します」
「いかがです?」とにこやかに聞いてくるが、エルヴァンの答えは最初から決まっている。
「お断りや」
「ほお?」
「いつの話をしとるか知らんが、大佐を辞めてどんぐらい経ってる思ってるねん。腕なんてとうの昔に落ちとるわ。それに今は実力なんてなんも無いただの辺境の領主様や。スカウトするなら現役の騎士の奴ら方が余っ程使えると思うで」
射るような視線を向けながら言うが、目の前の男は怖じけることも無くエルヴァンの目をしっかり見据えていた。
(このまま大人しゅう引き下がってくれればええが……)
そうもいかないだろう。と思っていたが
「分かりました」
「は?」
「残念ですが、そう仰るなら仕方ありません。諦めます」
(やけにあっさりしとる……)
エルヴァンは何か裏がありそうだと警戒を強め、カルロを睨みつけた。
「あはっ、そんな警戒しなくても大丈夫ですよ。嫌がる人間を無理やり連れて行くなんて事はいたしませんから」
チラッと何か言いたげにエルヴァンを見ながら微笑んだ。
(こいつ……)
「ああ、そう言えば、我が国の皇女が家出したのをご存知ですか?」
「……その事でここに呼ばれたんよ」
「そうでしたか。大佐様にまでご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
深々と頭を下げながら謝罪するカルロだが、その顔は微塵も悪いとは思っていない。
「別にええよ。僕も何か情報を掴んだら報告させてもらうし」
「ありがとうございます。本当、わがままな皇女で皆が手を焼いていたんですよ」
「……へぇ……?」
エルヴァンはリィリィの話は極力避けたかったので、軽くあしらいその場を立ち去る予定だったが"わがままな皇女"なんて言われたら黙ってはいられない。
「おかしいなぁ。僕が聞いとる皇女様とはえらい違う感じがするんやけど?」
「おや?何処で皇女の噂を耳にしたのかは知りませんが、自国の為の結婚を嫌がり逃げ出すなどわがままなでしかないでしょう?」
「そちらさんの国の事はよく知らんが、花嫁が逃げ出すほどの相手ちゅうことやろ?そりゃ、相手を選んだもんにも責任があると思うが?」
リィリィの相手を選んだのは現皇妃だという事をエルヴァンは知った上でカルロを責め立てた。
「あははは!!そんなもの皇女に生まれてきた時点で本人の意思はありませんよ。皇女と言うものは自国の為に身を差し出す。そう言うものなのです」
高々と笑い、人を人と思っていない発言にエルヴァンは苛立ちを募らせた。
(……ほんに腐っとるな……!!)
胸糞の悪さを感じながらも黙ってカルロの話を聞いていた。
「今回も皇妃様が我が国の為にと縁談を取り持って頂いと言うのに……まったく、出来損ないの癖に手間ばかりかけて……」
ポツリと言った最後の言葉に流石のエルヴァンも我慢の限界だった。
「そうかそうか。あんたら国はその出来損ないのお姫さんに頼らんといかんほどちゅうことやろ?……出来損ないはそんな国にした上の奴らやないの?」
「──なっ!?」
煽るように言えばカルロは目を釣りあげた。
「いくら貴方でも言っていいことと悪い事がありますよ……!?」
「僕は思ったこと言っただけや。思うのは個人の勝手やろ?そんな目くじら立てる程のこんでもないやろ」
少しでもリィリィの気持ちを知ればいいと思ったが、どうやら逆効果だったらしく、カルロは怒りでわなわな震えている。
「おや?正論言われてなんも言えんの?」
更に煽ると鋭い目付きで睨みつけてきた。
いくら頭がキレようがエルヴァンからすればイキってるだけの小僧にしか見えない。
「──ふん。まあ、いいです。貴方になんと思われていようとこちらにはこちらのやり方があるんです」
「そりゃ立派な政権やね」
「……皮肉ですか?」
「いや。直言よ」
そこまで言うとカルロはギリッと唇を噛み「失礼します」と一言言うと踵を返して行ってしまった。
エルヴァンはその後ろ姿を勝ち誇った様に微笑みながら見つめ、ようやく帰路へとついた。
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