王都

一方その頃、王都に着いたエルヴァンは国王に呼ばれ城を訪れていた。


「久しいなエルヴァン」

「ええ、国王陛下もお元気そうで何よりです」


諸見の間ではなく、執務室へと通された。

中央のテーブルにはエルヴァンの為に用意されたであろう酒が数本置いてある。


エルヴァンがこの世界に来て真っ先にやった事は国王の元へ来ること。

今の国王はエルヴァンと旧友という事になっている。

その方が都合がいいと思ったからだ。

そのおかげでエルヴァンは円滑にこの世界に馴染めた。


ただ、誤算だったのはこの国王がお節介者だったと言うこと。


エルヴァンは少々性格に難があるもの、見た目も良いし肩書きも良い。それにも関わらず長年恋人も婚約者もいないエルヴァンを心配して国王が何人もの令嬢を送り込んできたが適当にあしらい断っていた。すると、プライドの高い令嬢の一人が「あの人は男色」などと吹聴するようになり、影でコソコソされ始め極めつけは「あの人、大佐になったのも実は騎士を狙って……」なんて言われ、いい加減腹の立ったエルヴァンは大佐の証である徽章を国王の机に投げつけた。


「そこまで言うんなら大佐なんて辞めたる!!今から僕は魔術師になるわ!!ああ、退職金として辺境貰うからな!!」


そう息巻いて城を出た。

一連の様子を見ていた者から話が国中に広がり


「大佐まで上り詰めて辞めるなんて馬鹿のすること」

「魔力もないのに魔術師になんてなれる訳ないのにね」

「元々おかしな人だったし、遂に頭がおかしくなったんじゃないのか?」


そう言う経緯があり、イカれた辺境伯という噂が広がったという訳だ。


「そんな他人行儀はやめてくれ。私とお前の仲じゃないか」

「……そうやね。じゃあそうさせてもらうわ」


挨拶もそこそこにソファーに腰掛けた。

すると国王自らエルヴァンのグラスに酒を注ぎ差し出してきた。


「久しぶりに会ったんだ。ゆっくり飲もうじゃないか」

「ゆっくりもしてられんのよ。こう見えて結構忙しいんよ?僕」


ギロッと睨みつけ早く用件を言えと急かすが国王は平然と酒を口に運んでいる。

エルヴァンは溜息を吐いてから自分のグラスを手に取り一気に飲み干した。


「……お前には本当に悪い事をした。私が変なお節介を焼かなければ今もお前は大佐でいれたものを……」

「辞めたんはあんたのせいやない。あの一件はほんのきっかけに過ぎんのよ」


あの当時、色々と限界だったのは本当だ。


「なあ、戻ってくる気は──」

「ないよ」

「即答か……」


寂しそうに笑う国王にエルヴァンは「で、用件はなんや?」と容赦なく聞いた。


「相変わらずせっかちだな。もう少し感情に浸らせてくれてもいいだろ?」

「感情に浸ったら浸りぱなしになるやろ?」

「あははは、間違いない」


軽く笑いながらエルヴァンの前に紙を差し出してきた。

その紙を見てエルヴァンの表情が固まった。


「ギネイア帝国の皇女が婚礼間近で逃げ出したらしい。この国にも使いの者がやってきて情報を求めてきた。辺境とは言えお前にも声を掛けておかねばと思ってな」

「……その使いの者はまだこの国に?」

「ああ、明日立つと言っていたからまだこの城に滞在してもらっている」


「そうか」と返すのがやっとだった。


帝国の者がこの国にいる以上、早く屋敷に戻らねばならない。

とは言え、国王に焦りの表情を見せる訳にはいかないので極めて平然としてるようにみせた。


「用件は済んだようやし、ぼちぼち帰るわ」

「は!?まだ一杯しか飲んでないじゃないか!!いつもは浴びるほど飲むだろ!?」

「今休肝日やねん。すまんな」

「まだいいだろ!?おい──!!」


引き止める国王に軽く手を振り即急に部屋を出た。

気が焦っているのか歩く足取りもいつもより速い。


数人がエルヴァンを見つけ声をかけてきたが「またな」や「今急いどるねん」と躱し城の出口へ急いだ。


(───ッ!?)


途中、妙な感じに襲われ足を止めた。

辺りを見渡し確認していると「もし……」と声がかかった。


振り返るとそこには見た事がない男が立っていた。


「もし、貴方様は大佐の……」

「ああ、 大佐のエルヴァン・ベイカーです」


そう名乗ると男は「ああ、やはり」と不敵な笑みを浮かべた。


「申し遅れました。私、ギネイア帝国で大臣を務めておりますカルロと申す者です。以後お見知りおきを」


(こいつが……)


継母をあてがった張本人。

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