辺境伯の正体
全てを話し終えたティナはゆっくりエルヴァンを見た。
エルヴァンは表情を変えないまま「そうか……」と一言呟いただけだった。
見当は付いていると言っていたが、ティナの口から真実を聞いて後悔しているのだろうか。
いくら皇女とは言え、冷遇されてきた人物を匿った所でなんの得にもならない。
(ここもダメか……)
久しぶりに人の暖かさに触れたのにまた居場所がない。そう思うと自然と涙が込み上げてきた。
一体何処に行けばいいのだろう……
「なんちゅう顔しとんねん。もしかして僕が追い出す思っとる?」
俯いているとそんな声がかかり、思わず顔を上げた。
「あはは、やっぱりそう思っとった?そない涙溜めて……大丈夫。君を追い出すことはせんよ」
ティナが目にいっぱい溜めた涙を拭いながら伝えた。
「まあ、そう言うても僕ん事信用しとらんやろ?」
そう問われて正直に頷いた。
「あははは!!正直で宜しいわ!!……そうやね。君は包み隠さず話してくれたし、僕が話さんのはフェアじゃないな」
そこでエルヴァンは自分の事を話し始めた。
「単刀直入に言うと僕はここの人間……て言うとおかしいな。この世界の人間やない」
「は?」
「頭おかしいと思うやろ?僕も初めはそう思ったんよ」
「更におかしな事言うと、人間でもない」そう付け加えられて、何が何だか分からなくなった。
「僕は妖狐って言う妖で、そこそこ力も強くて有名やったんよ?」
自慢気に話してくれるが、どうも現実味が湧かない。
エルヴァンの話を纏めると……エルヴァンはこことは違う次元の者で、妖と呼ばれる魔物だと言う。
魔力ではなく妖力を使うのが特徴で、本来の姿は尻尾もあり人の姿と少し違うらしい。
エルヴァンはその妖力を使い、あたかもこの世界にいた人物として生活して来たらしく、一時は王家専属の騎士に所属していて大佐まで上り詰めたと言うが流石にそこは疑った。
「本当ですぅ。こう見えて刀は昔から扱い慣れとったからね。剣も刀も同じようなもんやし、この国のやつらめっちゃ弱いねん」
なんて言うもんだから大佐まで上り詰めといて何故、こんな辺境にいるのか尋ねた。
「そりゃ、飽きたからやね」
当然の如く言い切った。
「大佐っちゅうだけでなんでもかんでも仕事押し付けてきて、こっちの要望は全て無視。そんなんやってられんやろ?」
確かに、どの国も権力を持っている者はそんなものだ。
しかし、大佐まで上り詰めて地位も名誉もあるのにそれを手放す者がいるとは……だから変わり者と呼ばれているのだろう。
「だから、今度は魔術極めたるわ!!言うて辞めてきたんよ。けどなぁ、辞めて気づいたねん……」
急に汐らしくなったので、何を言うのかと思っていると
「僕、魔力持ってないねん」
「………………」
真剣な表情で言うエルヴァンを見て、思わず「ぶはっ」と吹き出した。
「あははははははは!!!何を言うのかと思えば……!!」
「いや、こっちからしたら死活問題やで!?」
必死に弁解してくるエルヴァンが更に可笑しくて、ひとしきり笑い終えるとエルヴァンが嬉しそうにティナを見つめていた。
「ようやっと笑ったな」
「……あ」
自分でもここまで笑ったのは久しぶりで、正直驚いた。
「笑っとった方がええよ。笑顔は皆を幸せにしてくれる。嫌なことがあっても笑顔でおったらええ事あるってね。僕の大切な人の売り言葉やけどな」
大切な人……何故かその言葉が酷く辛い。
「さて、僕らの身の上話は終いや。この屋敷におるもんの紹介しとこうか?つーても、数える程度しかおらんけどな」
パンパンッ!!とエルヴァンが手を叩くとすぐに人が集まってきた。
「ハンスとローザはもう会っとるから省いてもええやろ」
「何を仰いますか!!我々の役目をしっかり紹介して下さい!!」
「そうですよ!!このままじゃ私はただのお手伝いのおばさんですよ!!」
ハンスとローザに詰め寄られ「分かった分かった」とちゃんと紹介してくれることになった。
「まずは、この屋敷の執事しとるハンスや」
「爺やとお呼びください」
「次にローザ。侍女頭……っても他におらんがな」
「こんな可愛らしいお嬢さんが来てくれて嬉しいわ」
二人とも笑顔でティナを迎えてくれた。
その次に紹介されたのは料理長のトーマス。
大柄で強面だが「宜しく」と手を差し出された時に耳が赤くなっているのに気が付き、照れている?と少し可愛く思えた。
最後は庭師のロルフ。
口元を覆っていて表情が読み取るのが難しいが、歳はティナと変わらないぐらいだと思う。
口数も少ないらしく「……ん」と手を差し出されたところ見ると歓迎はされている様だ。
「以上が僕の家族や」
使用人を平然と家族と言うエルヴァンに驚き、それと同時に「羨ましい」とも思った。
「さて、一通り済んだところで君のこれからの話をしよか?」
ハンス以外は持ち場に戻る様言われ部屋を出て行った。
ティナとエルヴァンは再びテーブルを挟み向かい合った。
屋敷を追い出さないとは言ってくれたものの、追われている皇女なんて厄介者でしかない。
この屋敷は使用人が少ないから、使用人として雇われるのか?
それとも人目に付かない地下に閉じ込めるのか……
ティナはギュッ手を握りしめ、エルヴァンが口を開くのを待った。
「遠回しな言い方嫌いやからハッキリ言うけど、君は僕が飼う」
「…………………は?」
「僕が君の飼い主や」
まさかの飼い主発言にティナは酷く困惑した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます