第64話 そして世直し旅 ⑥
【
火縄が火皿の火薬に落ちて火を吹く。
その後、玉が発射されるのに、ほんの少しだが間が出来る。
鉄砲使いが儂に狙いを定めて引き金を引く瞬間に間を詰めた。
ドォーーン !
前傾姿勢で、地面ギリギリを走り抜けて……
チン ! 刀を鞘に納めると、鉄砲使いはへたり込んだ。
「胴を両断出来たのに、何故斬らなかった……」
「柳生の剣は活人剣。
それに、太平の世を築こうとする若者たちに感銘をしたからだよ。
お主の為ではないわ 」
途端に町民たちが騒ぎだした。
「やったぁーーっ、すげえぞ ! 」
「刀が鉄砲に勝ったぞ !
見たか、今の早技……!! 」
「おおーーっ ! 」
戦乱の世が終わり、太平の世に成って久しい。
町民が騒ぐのも仕方ないか。
物心ついた時、儂は既に木剣を握っていた。
それ以来、何の疑いも持たずに柳生の者として死に物狂いで剣の道に精進した。
十人の敵と刃を交えても勝てるだろう。
しかし、鉄砲には勝てん……勝てぬものがあって、何の為の剣ぞ……
今回は勝てたが、あんなものが何になる。
あの鉄砲使いが、もう一人いたらどうする。
もう一人の方に確実に撃ち殺されていただろう。
この歳に成り思い出したわ、祖父 石舟斎の言葉を
『兵助よ。
我が柳生新陰流活人剣は、人を殺さず生かす剣。
それは天下をも生かす為の剣じゃ……
天下太平の為に生かす剣。
立身出世、物に対する欲、それを全て捨てよ 」
祖父の言葉を忘れた
左近殿が堀部安兵衛、神崎与五郎らと戯れている間に萱野勘平に詳しいことを聞く。
「花地獄 !? 」
なんと、将軍家の真似をして大奥を作ろうとしているだと……女好きにも程があるだろうに……度し難い。
これは左近殿には聞かせられぬな。
単独でも乗り込みそうだ。
名門の吉良家の人間とは思えぬ行動力には呆れるやら感心するやら解らぬ若者よ。
「はい、はい、わたしが
わたしの
「左近の言っていることが理解できぬが、すごい自信だな ……」
左近殿と徳松様が掛け合いをしているのを目撃して
立身出世などして偉くなるのも考えものよの。
しかし、このまま左近殿だけを囮にするわけにはいかぬな。
儂が父親……祖父の役でもして付き添うとしよう。
な~に、又右衛門に祖父の役が出来たのなら、儂に出来ぬはずはないわ !
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