第65話 そして世直し旅 ⑦

【千代姫side】


 左近様……もしかして、わたくしをかばって囮になると言ったのでしょうか。

 お顔が良いだけでなく、本当にお優しい方……

 お父様義光(家光)が、わたくしの夫に選んだのも左近様を重く見込んでいたからなのですね。

 わたくしが左近様を見ていると弟の徳松さんが、


「姉上、いちいち左近の言動や行動のことを考えるだけ無駄ですよ。

 突拍子のない行動をしますが、何も考えていないようで、遥か先のことを考えている奴です。

 常人である我々には理解の及ばぬ奴ですが、『灯台もと暗し』足元が見えていないことが多く、ほっとけないのですよ 」


 征夷大将軍 今川綱吉に成っても徳松さんは左近様を頼りにしているのですね。


「助三郎、角之進、八兵衛、弥七よ、上様徳松と千代姫のことを頼んだぞ 」


 但馬守宗矩さまは、そう言い残して、左近様たちに近づいて行きます。

 傍らには、綺麗な女性が付き添っていました。

 左近様に仕えている角之進様が、


『但馬守様のお側にいる女は我らの仲間『かげろうのお銀』と云うくのいちでございます。

 手練れゆえ、必ずや左近様を守ってくれるゆえ、ご安心してくだされ 」


 四人が、わたくし達から だいぶ離れてしまうと、黒ずくめの男たちが網を投げて、左近様たちを網で包みさらってしまいました。

 あまりにもの早業に周りの人達が、我に返る時には拐われた後で、もはや手遅れでした。


「やはり、風魔忍者が絡んでいたか……

 赤穂藩の裏に北条家が居るとなると、一筋縄にはいかぬかも知れない 」


 助三郎様の呟きに不安に成ってしまいます。

 東照大権現今川元康(徳川家康)様。 どうか、左近様をお守りください。



 ◇◇◇◇◇

【左近side】


 宗矩おじ様が、由美かおるに似た美人を連れて来たところで、わたし達は投網に捕らわれてしまったわ。


 きゃぁー、さらわれちゃった !

 計画通り、わたしの頭脳も満更じゃないわ。

 でも後で、宗矩おじ様に聞かないといけないことが増えてしまった。

 あの、由美かおるに似た美人は宗矩おじ様の愛人かしら ?

 老いてますます盛んとは、宗矩おじ様を指す言葉なのね。

 十兵衛さんに年の離れた弟か妹が出来るかも知れないわ。

 お祝いは、何が良いかしら ?


 投網を解かれて、変わりに縛られて赤穂城に連れて行かれる時にユリリン女神から通信がきた。


 ── 左近ちゃん、気をつけるのじゃ !

 あの赤穂城の中、浅野内匠頭の居る部屋はアヘンくつに成っているのじゃ。

 一応、耐性が上がるように、妾の加護を四人に与えたけど、するのじゃぞ !

 阿片あへんや麻薬は人間を破壊するなのじゃからな ! ──


 何で、そんなモノを吸っているのよ、浅野内匠頭は !

 女好きは知っていたけど、真性のバカなの !?


 ── 浅野内匠頭は救いようのないバカじゃったが、そこを魯西亜をろしあ(ロシア)のラスプーチンにつけこまれたのじゃ。

 藩内にある、ほとんどの金銀を魯西亜に渡してしまったから、今では藩札を大量に刷って藩内の経済を回しているから、近いうちに破綻するのが目に見えているのじゃ ──


 ありがたい情報だけど……いいの ?

 神様は地上のことに干渉したらダメなんでしょう。


 ── もう、良いのじゃ。 たぶん、今回のことがバレたら昇神試験はダメになるじゃろうが、左近ちゃん達の命には変えられないのじゃ ──


 ありがとう、ユリリン。

 このことは、宗矩おじ様達にも説明しておくわ。

 わたしの『松の廊下事件』や『吉良邸討ち入り事件』を抜きにしても、浅野内匠頭は引退してもらった方が良さそうね。

 間違ってもなどさせて、無職に成った赤穂浪士に逆恨みされないようにしないと !


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