第62話 そして世直し旅 ④

【左近side】


「なっ、尾張柳生だと !

 柳生如雲斉の名前をかたっているのは貴様だろう !

 萱野勘平、堀部安兵衛、神崎与五郎、赤垣源蔵、大高源吾、寺岡平右衛門、貴様らも手を貸せい ! 」


 欲張益二郎が怒鳴ると、他の六人がサヨ左近達を取り囲んだ。


「他の者は、向こうに居る爺と若い男女を捕らえるのだ ! 」


 一斉に動きだす赤穂藩士たち。

 角さんや助さん達が、わたしを守るように囲んだ。


「例え柳生といえど、この人数で勝て……


 バキッ ! ボカッ !


 柳生如雲斉と名乗っていたお爺さんが杖で欲張の太刀をへし折り、そのまま杖は欲張益二郎の頭に直撃した。


 バタッ !


 刀を折るなんて、何で出来ているのかしら。

 気絶した欲張益二郎を見ていた赤穂藩士は驚いている。

 わたし達に刀を向けていた赤穂藩士の六人は、お爺さん如雲斉に刀を向けているけど、カタカタと震えている。


「次は貴殿たちか、震えているようだが逃げても無駄だ。

 柳生の剣からは逃げられる者などいないのでな 」


 武士の意地なのか、震えながらも戦おうとする七本槍の赤穂藩士たち。


「そろそろ許してやれい、兵助如雲斉

 そして、赤穂の藩士たちよ、貴殿たちがまとめてかかっても如雲斉には一太刀もあたるまえに斬られるだけだから止めるがよい 」


 お爺さん宗矩が此方に歩いてきた。

 先ほどまで居た場所には、赤穂藩士たちが倒れている。


又右衛門宗矩、だから駿河柳生は甘いと言うのだ。 先ほどの赤穂藩士も斬らずに当て身で気絶させるだけとはな 」


「そういうお主如雲斉も斬らずに生かしておるではないか。

 儂は上様が出した『生類憐みの令』を守っているに過ぎぬのでな。

 それに未熟過ぎて斬る気も起きぬわ ! 」


「それは儂も同じことよ。

 柳生を名乗るぞくがいると聞いて来てみれば、あまりにもお粗末な構えにお仕置きをしただけよ。

 太平の世も考えものよの、道場剣法で天狗に成っておるとはな 」


 お爺さん同士宗矩と如雲斉が睨みあっていたが、お互いに ニヤリと笑いながら打ち解けていた。

 これが、おとこの友情と云うものかしら。


「それよりも又右衛門宗矩よ。

 何か面白そうな事をしているようだな。

 儂もまぜろ、隠居してから退屈でかなわん !」


 それを聞いていた角さんや助さん達の顔が引きつっているみたいだけど気のせいよね。

 わたしと徳松さんが考えた『生類憐みの令』は徳川綱吉だした厳しい法では無く、『武士の無礼討ち、切捨て御免を禁じた法で害獣以外の動物を大切にしましょう』と云う法よ。

 血生臭い戦国時代から太平の世に成ったんだから、皆の意識改革をしないとね。


 先ほどまで震えていた赤穂藩士が急に土下座して、


「お頼み申します。 我らでは殿浅野内匠頭を止めることが出来ませぬ。

 どうか、貴殿たちのお力を貸してくだされ ! 」


 お爺さん宗矩が『どうする ? 』と云う目で見ているわ。


 女は度胸左近よ逃げたりはしないわ一応、男だろう


「もち、OKよ ! 『旅は靴ずれ道ずれだよ世は情け』と言うものね 」


 わたしが発言すると、お爺さん如雲斉と赤穂藩士が驚いていた。


 ゴニョゴニョと宗矩おじさまが如雲斉おじさまに耳打ちすると如雲斉おじさまが笑いだした。


「愉快、愉快、又右衛門宗矩を困らせるとは愉快な奴よ。

 これは愉快な旅に成りそうだわい ! 」


 ◇◇◇


 堀部安兵衛さんと神崎与五郎さんの案内で赤穂藩に向かっている。

 柳生新陰流と嘘を付いたオッサン欲張益二郎は尾張柳生の人たちが駿府まで連れて行ってくれることになった。


 赤穂を案内してくれるのは嬉しいのだけど、わたしをチラチラ見てヒソヒソ話すのは何故かしら。

 徳松さんは如雲斉おじさまと楽しそうにお話しをしている。

 将軍様だからか、如雲斉おじさまは丁寧に答え、それを宗矩おじさまがニヤニヤ笑いながら見ていた。

『お爺さん』と言ったら悲しそうな顔をした如雲斉おじさまは結構、繊細なのかしら。

 如雲斉おじさまの役は、元▪番頭さんに成ったせいもあるのか、宗矩おじさまはご機嫌だった。



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