第48話 魯西亜 ⑦

【十兵衛side】


 狡魔忍者や南蛮人の遺体を調べてみたが、手がかりに繋がる物は何も出なかった。


 振り出しに戻ってしまったか……と考えていたら、

 主水が爆発に巻き込まれて死んだ鴉の死体を持ってきて、


「この鴉の死体から嗅いだことのある匂いがしたぞ。

 間違いなく、この匂いは……」


 あわてて、主水の口を塞ぐ。

 壁に耳あり障子に目あり。

 何処で、誰が聞いているか分からないからな !

 それにしても、主水、おまえは犬か !

 しかし、このままでは新之助さまの命が危ない !

 俺たちは急いで城に向かった。



 ◇◇◇◇◇


 一方、城の若殿の寝所では……



「何処へ、何処へ行っておったのだ、お滝 ?」


 新之助の口を塞ぐように接吻するお滝。


「余は一人で、恐ろしゅうて、恐ろしゅうて……」


「ご安心なされませ、若殿……

 もう片時もお一人にはいたしませぬ……」


 睦言むつごとを交わす二人……


 しかし……



 バァァァァン !


 突然、若殿の寝所の襖が開き、十兵衛たちが入ってきた。


「な、なっ なっ なっ 何事じゃ !?

 突然、無礼であろうがぁ !」


 驚いている新之助とお滝に遠慮せずに十兵衛は、


火急かきゅうゆえ、御容赦願おう 」


 ハダケている着物を直しながら新之助は、


「何用じゃ !?

 ここまで、するのなら下らない用事ではあるまいな !」


 強がる新之助。 しかし 十兵衛は、


「用があるのは若殿ではなく、お滝の方様の方でござる……

 否、狡魔忍者 我嚨鵜唾がるうだ !!」


 冷静なお滝……我嚨鵜唾がるうだに対して驚いている新之助。


「ばっ、馬鹿な ! お滝が狡魔忍者だと……」


 主水が鼻の頭を膨らませながら、


「死んだ鴉に残っていたわずかな残り香……

 あれは、先日にすれ違った時に漂ってきた、アンタの香りだ !」


 変態と言ってはイケナイ !

 主水は鼻が効くのだ。


「こんな上等な白粉おしろいを使えるのは、この城中ではアンタだけだ !

 俺は、ちいとばかり鼻が利くもんでな……

 それが、アンタほどの いい女なら、なおさらだ !」


「………………」


 言葉を失う新之助。


 その場から跳び上がり離れたところに着地したお滝……我嚨鵜唾がるうだ


「我が正体、よう見抜いたな、十兵衛 !

 だが認可状さえ灰にすれば、もはや泥沼藩の取り潰しは成ったも同然 !

 我ら狡魔忍者を邪魔するやからといえど、所詮は二本差の侍風情ふぜいだと侮っておったわ。

 が、この狡魔の我嚨鵜唾がるうだ

 使命は必ず果たす ! 」


「お…おお…… お滝、なんということを…………!」


 しかし…


「構わぬ、燃やすがいい

 その認可状は偽物だ 」


 驚く、我嚨鵜唾がるうだ


「つまらぬ嘘を言うな !

 これは、家老が確かに肌身離さず持っていたはずだ !」


 十兵衛たちの後ろに居た家老 里卯さとう腿緖ももおが前に出てきた。


「某、御家のためならば、腹を切る覚悟は出来立て申す。

 なれど、己の身と御家を共倒れにする真似はいたさぬ !

 本物の認可状は誰にも触れ得ぬ場所に隠しておるわ !」


 つまり、十兵衛たちに渡した認可状も偽物だったのだ。

 とんだ、タヌキ親父である。


「狡魔忍者と通じている、幕府 老中 黒幕田くろまくだ偽得門にせえもんは今頃は親父殿…… 柳生但馬守宗矩やぎゅうたじまのかみ むねのりから取り調べを受けているはずだ !

 幕府の権威を貶める、おまえ達の計画は失敗したのだ !」


「ぐぅぅぅ、おのれ、十兵衛 !」


 我嚨鵜唾がるうだは灯り取りの灯籠に何かを投げ込むと……


 ボォォォオン ! 爆発した。


「外だ、逃がすな !」


 我嚨鵜唾がるうだを追いかけて外に出る三人。


「うぬらを甘く見ていたは狡魔忍者、一生の不覚 !

 だが、この我嚨鵜唾がるうだは、うぬらに負けはせぬ !」



 我嚨鵜唾がるうだが口笛のような物を吹くと沢山の鴉が現れた。


「往けいーー っ !」


 我嚨鵜唾がるうだの合図で鴉の群れが一斉に襲いかかる。


 刀を構えて対峙する三人。


「頭を低くしろ ! 」


 半兵衛が現れて、何かの袋を投げつけると中から小さな玉が散らばった。

 小さな玉は鴉に当たると玉が割れて鴉が濡れていく。

 続けて半兵衛は火炎玉に火を付けて鴉の群れに投げつけると……


 ブォォォォォォオ !


 炎の壁が鴉たちを次々と焼いていき、鴉は落ちていく。


「あっ……ああ……あ、わたしの……わたしの可愛い鴉たちが……」


 呆然とする 我嚨鵜唾がるうだ


「観念しろ、我嚨鵜唾がるうだ

 これで終わりだ !」


 十兵衛の言葉に逆上する我嚨鵜唾がるうだ


「おのれ、十兵衛 !

 死ねぇぇぇ !」


 襲いかかる我嚨鵜唾がるうだを、すれ違いざまに斬る十兵衛。


 しかし、我嚨鵜唾がるうだはニヤリと笑っていた。


「いかん、伏せろ !」


 ドゴォォォォォォォォン !


 皆が伏せた途端に爆発した我嚨鵜唾がるうだ


 爆発が収まり、全員の無事を確認した十兵衛。


「身体の中に火薬袋を仕込んでいたのだろう 」


 みんなが黙りこむ。


「敵ながら、最後は忍者らしい見事な最後でござる 」


 半兵衛の言葉に主水は反論した。


「畜生め、忍者でさえなけりゃあ、あんな良い女だったら、もっと違う生き方も出来たんだろうによ !

 せめて、今度 生まれ変われたなら、もう忍者なんかに生まれるんじゃねえぞ !」


 主水の言葉がむなしく響くのだった……


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