第47話 左近と徳松 ③

【左近side】


「お待たせしました~

 豚玉明太モチ煎り・お好み焼きです 」


 この時代にお好み焼きが食べられるなんて、今川義元公には感謝しますわ !


 広げず厚めに形成し、後は待つだけ。

 この待つと云う時間を、いかに楽しめるかが人生の豊かさだわ。


「牛スジ煮込みです~ 」


 きたきた、ツマミに牛スジ煮込みを頼んだのは正解よね。

 トロトロの牛スジを口に運ぶ、そして済み酒を呑んだ。


「美味しいですわ !」「美味しい !」


 出来立てを食べる徳松さんも満足しているようね。


 さて、そろそろ良さそうな頃合いだわ。

 関西では、裏返しに失敗すると犯罪者並みに罵倒を受けると、高校時代の親友 ウッチャンから聞いているわ。


 徳松さんも注目しているから、失敗は許されない !


「ホッ !」


 コテでひっくり返したお好み焼きは……


「やりましたわ !

 とても綺麗に出来ましたわ !」


 わたしの芸術的なコテ使いに、徳松さんも助さん、角さん、八兵衛が拍手してくれている。

 この場に弥太郎さんが居ないのは残念だわ。

 あのチンピラ浪人と一緒に事情を説明するために奉行所に行ってしまったわ。

 後で、お土産を買って行きましょうね。


 もう、焼き上がるわ !

 ソースをハケで塗り、特製マヨネーズを格子状にかける。

 それをコテで切り分けて、徳松さんに分けてあげた。

 助さんたちは、別のテーブルで悪戦苦闘をしているわ。

 いくら、忍者でも初めてのお好み焼きだから仕方ないわね。


 ハフハフと食べる徳松さんを見て、わたしも あわてて食べることにしたわ。

 熱い物は熱いウチに食べないとね !


 豚の脂に明太子の塩気、しっかりしたお餅の弾力。

 そして全てを一つにまとめあげるソースの味。

 熱々だけど、食べる手が止まらない !


 そして、冷えた済み酒が五臓六腑に染み渡るようで、


「美味しいですわ !」


 転生者、今川義元に乾杯ですわ !


 些細な不幸に負けずに強く生きていかなくては !


『松の廊下』や『討ち入り』なんかに負けてなるものですか !



 ◇◇◇◇◇


【徳松side】


 左近の奴、ずいぶんと手慣れているな。

 簡単そうに、お好み焼きをひっくり返していたから、次に来た『海鮮いろいろ』と云うお好み焼きを焼かせてもらった。

 海老や貝などが入っていて、実に旨そうだ。

 先ほどの左近の手順を見ていたから覚えているぞ !

 コテで焼けているか、少しめくってみる。


「まだまだよ、徳松さん 」


 確かに、少し生っぽいな。

 ええーっい ! 左近に出来たんだ、俺だって !


 ジリジリとお好み焼きが乗っている鉄板をにらみつける。


 チラリと左近を見ると頷いた。


「ハッ!」


 コテでひっくり返したお好み焼きは……

 少し崩れていた……


「徳松さん、徳松さん、早く形を整えて ! 」


 左近に言われた通りに形を整える。


「失敗は成功の母よ。 あきらめてしまったらゲームセットなんだから ! 」


 何を言っているのか、よくわからないが意味は理解したぞ !


 やがて、完成したお好み焼きを左近に取り分けた。

 モグモグと食べる左近。

 ぐっと親指を立てて、


「エクセレントよ、徳松さん ! 」


 南蛮の言葉か ? だが、褒められたことは伝わるぞ、左近 !

 自分で焼いたお好み焼きを食べる……


 旨い ! 自分で焼いたからなのか、凄く旨いと感じるぞ !




 ── 二人はお忍びで、バレていないと思っていたが、町人にも商人にもバレバレだった。

 庶民は親しみを覚えて、徳松のことを『食いしんぼ将軍』と呼ぶのだった ──


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