第41話 魯西亜 ③

【十兵衛side】


 何故、俺がコイツらの引率をせねば成らぬのだ !


 国境に来ると、泥沼藩の連中が待っていた。

 別に俺たちは隠密として来たワケでは無く、正式な幕府の使者として来たのだから、当たり前といえば当たり前なんだが……

 先頭で、ニコニコしている奴を除けば、他の藩士からは歓迎している雰囲気は皆無である。


「泥沼藩 家老 里卯腿緖さとう ももおでござる。

 我が泥沼藩 五万八千石、外様の小大名ですが 精一杯もてなしをさせてもらいます 」


 コイツが半兵衛が言っていた里卯腿緖か。

 確かにコイツは、タヌキ親父だな。


「 修築している箇所と修築認可状の確認をしたいから案内を頼む 」


 泥沼藩の家老が直々に案内をしてくれるとは、随分と警戒しているとみえる。

 やがて、城壁の一部が見えるところに来ると、すでに足場が組まれて沢山の石工せっこうが居た。


 近くにいた正成を呼んで意見を聞く


「正成。 おまえなら、どこへ身をひそめる ?」


「そうだな、まずは余所者である石工。

 この中が第一だな 」


「もし、そうなら捜し出すのは厄介だな 」


 主水も交じってきた。

 仲間外れは嫌なのだろうか。


 胤舜殿には、周りを警戒してもらっている。

 御坊は頭を使うのが苦手らしく、進んで引き受けてくれた。


「よいよい、そのまま仕事を続けるがよいぞ !」


 振り返ると若い殿様らしき人物と、その奥方らしき女の後ろに里卯腿緖が居た。

 泥沼藩 藩主 鮫脳田喜一郎は還暦を迎えた年よりのはずだから、アレは息子だろうか。


 里卯腿緖が俺の側に来て説明した。


「若殿、此方こちらが幕府の使者である 柳生十兵衛殿でござる。

 十兵衛殿、此方におわす方が藩主 鮫脳田喜一郎さまのご子息 新之助さまでございます。

 そして、側室のお滝の方でございます 」


「大義である 」


 通り過ぎて行く若殿一行。

 チラリと見ると、主水がお滝の方に見惚れていた。


 一行がすぎ去ると、


「ヒュー、いい女だな !」


「おまえには高嶺の花だから、あきらめな !」


「なんで、いい女って匂いまで良いのだろうな ?」


 主水と正成の下品なやり取りにあきれてしまった。


 少し離れたところに居る胤舜殿にも聞こえたのか、俺を含めてさげすんでいるように見えた。


 待ってくれ、俺をコイツらと一緒にしないでくれ !




 ◇◇◇◇◇


 夜、しとしとと雨がふるなか、正成と主水は一緒に見回りをしていた。


「ちえっ、しとしとと嫌な雨だな !

 こんな夜は、いい女としっぽり部屋で晩酌をしたいものだな 」


「ぼやくな、今は仕事中だ !

 たるんでいるぞ、主水 」


 シャアアアア……


 音のする方を見ると、何者かが城から縄をツタって降りてきたところだった。


「おい、捕まえるぞ、主水 !」


「出やがったな、狡魔ヤロウ !」


 二人は忍者の後を追いかけるも途中で見失ってしまった。


「くそぅ、何処へ消えた !?」


「いや、……何かいるぞ !」


 正成と主水に一羽のからすが襲いかかった。

 それを瞬時に避ける二人。


 しかし、その後には沢山の鴉が飛んで来ていた……


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