第39話 魯西亜 ①

【左近side】


 半兵衛さんから報告を聞いて、すぐに松平伊豆守信綱まつだいら いずのかみ のぶつなさま

 に事の詳細を報告したわ。


 報連相は大事だものね。


 何故か、伊豆守さまは胃の辺りをさすりながら薬を飲んでいたけど、この時代にも胃薬があるのね。

 何か、食あたりでもしたのかしら ?


「伊豆守さま。 何か悩んでいるのなら、相談に乗るわよ 」


 わたしの励ましの言葉に伊豆守さまは、深いため息をした。


「ため息をしていると幸せが逃げて行きますよ、伊豆守さま 」


 すると、さらに深いため息をした伊豆守さまが、


「では話すとしようか、左近。

 天竜川の河川敷に、泥沼藩に潜入させていた、透っ波(忍者)が死体で上がった。

 死体の様子は沢山のからす啄まついばまれたような有り様だったようだ。

 そのようなあやしげな術を使う者に心当たりはないか、半蔵、半兵衛 ? 」


 天井裏から降りて来た二人は目を合わせることなく、


「拙者に心当たりがあります。

 狡魔こうま一族に鳥を操る忍びがいると聞いたことがあります 」


「半蔵殿の意見に付け足すと、狡魔一族の忍びの名は我嚨鵜唾がるうだと申す者です 」


 二人からの情報を聞いた伊豆守さまは、


「やはり、影の者だったか。

 実は泥沼藩から城の修復の願いが出ていたので調査をさせておったのだ。

 知っておるだろうが、幕府が諸大名に発した武家諸法度には

『諸国の居城は修補たりといえども必ず言上すべし』

 と云うものがあるのだが、守らない藩が多くて困っているのだ。

 中には、廃城を造り直す藩まで出る始末。

 謀叛むほんを疑われても仕方ないと云うもの 」


 実際、無許可で修築をして減封げんぷうされたり、取り潰しに成った藩もあるのよね。

 まあ、力を持ちすぎた外様大名の力を削ぐのが目的で冤罪もありそうだけど……


「わたしのような素人に解決出来る問題だとは思わないのだけどま……」


「何も左近、お主自身に調査をさせるつもりは無い。

 お主も人を使うことを学ぶ為に十兵衛たちを使えば良いのだ。

 聞くところによると、宝蔵院胤舜 殿が吉良屋敷に逗留しているそうな。

 お力添えを願い協力してもらうのだ 」


「報酬は、報酬は貰えるのかしら ?

 胤舜おじ様、沢山お食事を食べるから食費が大変なのよ !」


 十兵衛さん、正成さん、主水さんが居着いた上に胤舜おじ様まで居るから食費と酒代が洒落にならないのよ !


「 …… あい、わかった。 報酬は約束しよう 」


 良かった。 弟くんの嫌味がすごかったから助かるわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る