第37話 品羽屋 竹蔵 ③

【左近side】


 槍を持った大男が乱入してきた。

 人相が悪いから悪い人に違いないわ !

 ここに来てからの敵の増援なんて、神様ユリリンは意地悪なんだから !



「うぅ~ん、いけずぅ~!」


 シーーーーン !


 何故か、時が止まったように皆が固まってしまったわ。

 もしかしたら、わたしの転生特典は『時間停止』の能力かしら ?


 ── そして、時は動きだす ───


「左近殿、ご無事でしたか !?

 この方が、お味方してくれるそうです !」


「えっ、この悪人顔の人が味方 ? 」


 弥太郎さんは、『あちゃー』と云う顔をしているし、十兵衛さんは笑いを堪えている。


 槍を持った大男は、下を向いて震えていた。


 ……わたし、また、やっちゃった ?



 突然、大男は顔を上げて笑いだすと、十兵衛さんまで笑いだし、しかめっ面だった弥太郎さんまでが笑いだすと、何故か、さっきまでうろな顔をしていた島帰りの男たちまでが笑っていた。


「左近殿。 この御坊は、宝蔵院胤舜ほうぞういん いんしゅんと云う、お方でしてな。

 いやはや、本人を前にしてなどと、本当のことでも肝が座っておりますなぁ~ 」


「十兵衛。 お主にだけは言われたく無いぞ !

 しかし、初対面で拙僧を怖がらずに堂々としているとは、宗矩殿の言う通りに大物かも知れませんな !」


 ガハッハッ、と笑っていた顔が真面目に成り、


「小奴らを大人しくさせれば、良いのですかな ?」


 胤舜さんが聞いてきた。

 殺したりしないでね、と言おうとしたら……

 島帰りの人たちが、次々と持っていた武器を手放した。


「槍の宝蔵院と殺り合うなんて命知らずの俺たちでも、御免こうむるぜ !

 一合も交えずに、真っ二つになるのが目に見えているからな。

 それと、そこの若殿には感謝する。

 先ほどの諧謔かいぎゃく(ユーモア)で夢から目が覚めたようだ。

 久しぶりに、大笑いさせてもらった !」


 あら、わたし、ジョークを言ったかしら ?

 それよりも、竹蔵を…………居ない !


 わたしが、キョロキョロしているのに気がついた弥太郎さんが、


「どうしました、左近殿。

 何か、お探しですか ? 」


「弥太郎さん。 さっきまで居た、この口入屋の主人の竹蔵と云う男の人を探しているんだけど、居ないのよ ?」


「私が胤舜殿と店の中に入った時には居ませんでしたぞ !

 もしかしたら、既に逃げたのでは ?」


 ええーっ 、アノ糸目の男、逃げるの早っ !


「左近殿、半兵衛が竹蔵を追っているから安心してくだされ 」


 ヘッ、半兵衛さん、何処に居たの ?


 弥太郎さん以外が、黙って天井を見ていた。

 ……気がついていたなら、教えてよ !

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