第35話 品羽屋 竹蔵 ①

【半兵衛side】


「地震でもあったのですか !?

  土肥金山が埋まってしまうなんて想定外ですよ !」


  屋根裏で品羽屋 竹蔵の様子を伺っていると、部下に八つ当たりしている竹蔵を見た。


「それで、こちらから口入した島帰りの奴らは、どうなりましたか ?」


「はい。 幸い、メシを食べに外に出ていたので、全員無事でございます 」


「 ……いっそ、埋まってしまえば、北条から見舞金をせしめたものを、惜しいことをしましたね !」


「…………」


  この男、クズだな。


「島帰りの奴らに使ったも安くはないのですよ !

 他に利用出来る大名家は無いのですか ?

 いくさの無い世は迷惑ですよ、私達 商人には !

 まったく、今川義元も余計なことをしてくれたものですね !」


 クスリ……どうやら、左近さまが心配していた阿片アヘンでは無いようだ。

 あの阿片とやらは独特な臭いがあると、堺の商人から教えてもらった。


「ええーっい ! 南蛮商人に、これ以上の銀をくれてやるのは、しゃくに触りますね。

 また、貧乏な農民や町人の元にクスリ漬けにした島帰りを使って子供や女房をさらいなさい !

 南蛮商人は、奴隷の売り買いもしているから、元手がかからないから、良い儲けに成るでしょう 」


 !! コイツらだったのか。

 左近さまが言っていた奴らは !



 竹蔵の元に、数人の男たちが連れられて来たが、どいつもこいつも目がうつろろで意思を感じられない。


「まずは、を片付けてもらいましょうか」


 ギクッ ! まさか、見つかったと云うのか……


 店の奥から一人の男が引きずられてきた。

 アレは、西町奉行所の隠密同心か !?


 連れられて来た隠密同心に虚ろなまま島帰りの男たちが、で襲った !


 バキッ ベキッ !


 隠密同心は口が塞がれている為に叫び声が出せないでいるが…………


 化け物か !!


 素手で、隠密同心の四肢を無理やりに、あらぬ方向に曲げていく。


 アノ川に浮かんだ水死体の原因も……



「たのも~う !」


 左近さま~ぁ、何故きたのですかぁ~ !



 ◇◇◇◇◇


【左近side】


 昔の『ごめんください』は、これで良いのよね。

 隣に居る十兵衛さんが驚いた顔をして、わたしを見ているのは気のせいよね。


 しばらくすると、番頭らしき人が出てきた。


「これは、お武家様。 今日は、どういった御用向きで ?」


「ちょっと、店の名簿……口入帳を見せてくれる。

 それと、店の主人を呼んでね 」


 何故か、番頭さんの顔が引きつっている。


「申し訳ありません。 信用問題に成りますので、むやみやたらとお見せすることはできません !」


 仕方ないわね。

 水戸の御老公じゃないけど、吉良家の家紋入りの守り刀を……見せようとしたら、十兵衛さんに静止されたわ。


「まあ、固いことを言わずに、ちょっことだけ見せてくれぬか ?」


 そう言いながら、番頭さんの懐にお金の入った小袋を入れてしまった。


「さあ、どうぞ、どうぞ。 お勤めご苦労様です、お役人さま !」


 どうやら、わたし達をお役人扱いして、見せてくれるのかしら ?


 それにしても、十兵衛さん。

 強引なだけではなかったのね。


 番頭さんに案内された わたし達は店の中へと向かった……


 その様子を観察している長い槍を持った僧侶が居たことに気がついたのは、かなり後だった。


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