第34話 誤解と犠牲者
【十兵衛side】
「其は左近殿を追いかけるでござる。
これにて失礼つかまつります 」
上様に挨拶をしてから左近殿を追いかけ始めたが、本当に退屈しないお方ですな。
まったく、御自身の地位に固執もせずに自由なお方だ。
その姿に惹かれている其も
「やっぱり、来てくれると思ったわよ、十兵衛さん 」
ニコニコ笑う姿に嬉しくなる自分。
「左近殿は、怖くは無いのですか ?
もしかしたら、なにもかも失うかも知れないのですぞ !」
かねてからの疑問を左近殿にぶつけてみる。
「
「ゆうおうまいしん ?」
「光灯る街に背を向け
我が歩むは果て無き荒野
奇跡も無く標も無く
ただ夜が広がるのみ
揺るぎない意志を糧として
闇の旅を進んでいく 」
左近殿、いったい貴方は……
「どうかしら、わたしに追いてこれるかしら、十兵衛さん ! 」
参ったなぁ。 左近殿に飽きたら、一人旅でもしようかと考えていたのに、これでは離れられないでは無いか !
「追いて行きますぞ、左近殿 !」
近くの特等席で、貴方の生きざまを……
◇◇◇◇◇
【徳松side】
あの日以来、真面目で有能な男から、つかみどころの無い変人へと、あきらかに変わってしまった左近は妙に気になる存在に成ってしまった。
最初は『狐憑き』かと思ったが、文献を見たら義元公も京に上る途中の桶狭間の近くで変わってしまったらしい。
それまでの『京かぶれ』だった姿は成りを潜め、話し方まで変わったそうだ。
もともとは、京に上るのは見せ掛けで、本当の狙いは『尾張平定』だったという。
進軍を遅らせた義元公は、後方に居た曾祖父の元康公に尾張の清州城を攻め落とすことを命令。
あたかも、信長が桶狭間で奇襲することを見抜いたようだと記述されている。
もぬけの殻に成った清州城を落とすのに苦労はなかったらしい。
今川義元公の心眼、
当時、今孔明と言われたのは当然だろう。
左近が義元公みたいに成ったとは思えないが、非常に気になる存在に成ったのは間違いない。
その証拠に左近の元には、十兵衛や正成、主水などが集まっている。
左近のお目付け役だろう弥太郎も左近に惹かれ始めている。
悔しいが、俺には無い魅力が左近にはあるのだろう。
それなら、左近を俺の側近にしてしまった方が良いと判断した。
弥太郎が、ソワソワしている。
「弥太郎。
パッと嬉しそうな顔を一瞬するものの、すぐに何時ものしかめっ面に戻った弥太郎は、頭を下げて出て行った。
しかめっ面をしていても、尻から見えない尾が目一杯振られているぞ、弥太郎。
正成と主水も行きたそうだったが、お前たちには別にやってもらうことがあるんだ。
だから、そんなに、しょんぼり しないでくれ !
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