第33話 自宅謹慎

【左近side】


 土肥金山はにより山崩れが起きてしまったと半兵衛さんが報告してくれた。

 そして不運なことに北条の小田原城の倉庫が全焼したとか。


「北条さんに、お見舞いの手紙でも出そうかしら ?」


「やめておけ、左近。 北条氏直ほうじょう うじなお憤死ふんしするぞ 」


 わたしと徳松さんの会話に、十兵衛さんたちが笑いを堪えている。

 そんなに、おかしなことを言ったかしら ?


 現在、わたし達は、まとめて吉良邸で謹慎しているわ。

 ちょっと、騒ぎに成ったくらいで大袈裟だと思うんですけど !


 ガラッ !


「兄上、もう少し静かにしてください !

 私は、兄上の代わりに高家肝煎こうけ きもいり(最高責任者)として、幕府と朝廷の間を取り持つ勉強をしているのですぞ !」


 弟くんの義叔よしすえくんが怒っていた。

 わたしが徳松さん付きの大目付(予定)に成った為に、本来のわたしの役職を弟くんが継ぐことに成ったわけ。


 だから、饗応指南役きょうおうしなんやくで浅野内匠頭の恨みを買う可能性は減ったけど、弟くんを身代わりにするわけにはいかないから考えないといけないわ。

 本来の歴史の弟くんは分家を起こす予定だったみたいだけど、わたしが歴史を変えたせいでは無いわよね。


「兄上、聞いておいでなのですか !

 本来なら兄上の役職ですぞ !

 その上、上杉の姫まで私の嫁に成ってしまったのですぞ !

 米沢藩・上杉家から高家旗本の吉良家に嫁ぐ富子殿は、兄上の嫁になるはずだったのに、何を考えているのですか !?」


 わたしは、家を継ぐつもりも無いし結婚するつもりも無いわ。

 ただ、正直に言ったら、真面目な弟くんは怒るわよね。


「すまぬな、義叔よしすえ殿。

 左近をの側近にした為に、そなたには迷惑をかける 」


 徳松さんが助け船をだしてくれたわ。

 持つべきものは友達よね。


「左近に関しては、余が責任を持ってから安心してほしい 」


「そんな、上様、勿体無いお言葉です !

 兄上のこと、よろしくお願いいたします 」


「よい、将軍といっても名ばかりの将軍だが、責任を持って左近のことは任されよう 」


 アレ ? 勝手に物事が進んでいくわ。

 わたしの意思は ? 思想信条の自由はないの !


 弟くんが部屋から退出した後に徳松さんを問い質そうとしたら、


「半兵衛、何か ?」


 十兵衛さんが天井に向かって言うと、半兵衛さんが ヒラリと天井から降りてきた。


「ご報告いたします。

 島帰りの四肢が折られて、生きたまま川に投げ込まれて死亡した男たちのことが分かり申した 」


 アレって、この間の大男の僧侶の仕業じゃなかったの ?

 仲間割れだと思っていたのに !


「死亡した男たちは、口入屋くちいれやを通じて、土肥金山に派遣されているのがわかりました。

 ただ、問題なのは、金山の秘密を守る為に阿片アヘンとは違う麻薬が使用されていたようです。

 残念ながら麻薬については分からなかったのですが、南蛮商人から口入屋が入手して金山に派遣する島帰りに使用していたようです。

 死亡した男たちは麻薬により骨がもろく成っていたようです 」


 またまた事件なの !?


「口入屋の屋号は ?」


 わたしは立ち上がって半兵衛さんに聞いた。


「はっ、品羽屋ぴんはねやです、左近さま。

 主人の名は竹蔵です 」


 わたしが出て行こうとしたら、皆に止められたけど……


「事件は会議室で起こっているんじゃ無いわ、現場で起こっているのよ !」


 そう、言い残して屋敷を飛び出した。


 ねえ、ねえ、今のわたし、決まってたわよね !


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